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新しい未来へ~互いを救ってくれた愛と共に…。~【凛と拓夢の話3】

帰り道【凛】

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「帰ろうか?」

「うん」

「ちゃんと挨拶だけはして行く?」

「ううん。いらない」

私は、龍ちゃんと並んで駅に向かう。

「もう、撮影には参加しないのか?」

「参加しても会わないよ。最近は、SNOWROSEだけ別撮りっていうのに変わったから……」

「そっか……。あのさ、凛。久しぶりに会ったのに、悲しい別れになったんじゃないのか?」

「どうして……。龍ちゃんがそんな顔するの?」

龍ちゃんは、切なそうな表情を浮かべていた。

「ごめん。でも、凛が星村さんを愛してるのはわかってるから……」

「私って、欲深いよね。普通に考えて二人も愛せないのにね」

「そんな事ないんじゃないか?女の人でも男の人でも、一度に複数人を愛せる人は存在するから」

「そうなのかな……。それって、ちゃんと全員を愛せてるのかな?」

龍ちゃんは、私の手をそっと握りしめてくる。

「愛せてるよ。少なくとも俺は、凛に愛されてるって感じてる」

「龍ちゃん……」

「未来がないぐらいの年齢だったら星村さんを選んでただろ?」

私は、龍ちゃんの言葉に笑ってしまう。

「例えば、凛が今90歳とかだったら?」

「90歳って龍ちゃん。それは、未来がなさすぎじゃない?」

私の言葉に龍ちゃんは、ハハハって笑った後で、「100歳まで生きるとしても10年は過ごせるだろ?」と言った。

「それなら、拓夢を選んだと思う。未来がなくてもいいなら……。ごめんね」

「謝る必要はないだろ?俺には、拭い切れなかった絶望を星村さんは拭えたんだから当然だよ」

駅について、龍ちゃんは切符を買う。

「俺達は、きっと少しずつズレていってたんだよな」

私は、龍ちゃんから切符を受け取った。

「ボタンの掛け違いってやつ?」

「そうだな。細かいボタンの服だよな」

「掛け違ってるのにも気づかないタイプのやつだよね」

「それだよ、それ……」

確かに、私と龍ちゃんはそんな感じだった。

私達は、ホームに降りて行く。

「気づいた時には、手遅れで……本当ならやり直せなかったんだと思う」

龍ちゃんは、ホームを見つめている。

「だけど、やり直せたのは、彼が音楽をしてて未来がある年齢だったからだ」

ホームに人が増えていくのを見て、龍ちゃんは拓夢の名前を出すのをやめた。

拓夢が、SNOWROSEじゃなかったら……。
私と拓夢は、今でも関係を続けていたはずだ。

「俺が選ばれたのは、彼が若かったからだね」

電車がホームに入ってくる。

「それだけじゃないよ。龍ちゃん……」

私は、龍ちゃんの手を握りしめた。

「だけど、俺には凛の絶望を拭えないから……」

龍ちゃんは、私の手を引いてくれる。電車に乗り込んだ。

「もっと私が強くならなきゃ駄目なんだよね」

電車が動きだして、私と龍ちゃんは窓の外の景色を見つめながら話す。

「凛は、強いよ。これ以上強くならなくていいんじゃないか?」

「全然だよ。私は、弱いよ。だから、自分の力だけで絶望を拭えなかったんだよ」

「何度も頑張ってただろ?そんなに自分を責めなくていい」

私は、龍ちゃんの手を強く握りしめた。

「龍ちゃん……。私、少しずつ進んで行くから。今日の事も、いつか笑って話せるぐらいになるから」

拓夢が抜けた穴を埋めるものはない。

二人で一つだった。

拓夢に出会ってからは、ずっとそうだった。

「ゆっくりでいい。焦らなくていいから……」

「龍ちゃん」

ずっと隣にいてくれる龍ちゃんとの日々を大切に生きていこう。

そして、いつかこの穴を自分の力で補えるようになったら……。

「今日は、帰って飲もうか?」

「飲まないよ……」

「じゃあ、久しぶりに映画でも見ようか?」

「見る」

「楽しいのにしようか!コメディとか?」

「いいね」

最寄りの駅について、私達は電車を降りた。

この先、どんな未来が待っていても……。

私は、私で頑張るから……。


さよなら、拓夢。

ずっとずっと……。

愛してる……。

「ポップコーンでも買って帰ろうか?」

「いいね」

「映画館みたいだろ?」

「うん」

龍ちゃん、ごめんね。

だけど、私はやっぱりどっちも愛してるんだ。

私と龍ちゃんは、笑いながら家への道を歩く。

どんな未来が起こるかわからないけれど……。

今日も、明日も私達は歩いて行くだけ……。

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