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呪いの人形は愛でられたい[scraiv、アルファ短編]
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呪いの人形とはご存知だろうか。髪が伸びたり、置いた場所と違う場所に置かれあまりの不気味さに倉庫に封印していたのが何故か元の位置などに戻っていると言う怪異である。人形には昔から魂が宿ると言われて来たが実際はどうかがわからないだろう。
だが俺は今日、その怪異を見るのである。
昼頃、半日有給を取り家に帰って来たときの事だ。実家持ちのダイ◯ハウス製品のアパート一室を借り(家の部屋は物置になっていた)て住んでいた。そこへ帰宅し、部屋のテレビ音が響いており。消し忘れかと部屋に入って驚く光景が目に焼き付く。You◯uberのロゴがテレビ画面に写っておりそれの前のテーブルに……
「……あっ」
「……あっ」
リモコン片手に座りながら見ている人形がいたのだ。とにかく、よくある日本人形がリモコンを落とし首を向け。止まる。もちろんそこで動かなくなった。よくみるとそれは飾っていた日本人形であり。ガラスケースが横に置かれていた。
「おいおい……まじかよ」
俺は驚きながら、ソロリソロリと近づき。手を伸ばしても反応せず。ガバッと捕まえる。
「……電池式とかじゃぁないよな」
触りごごちは本当にちょっと大きい人形である。だが、俺は疑う。夜ならビックリして動けないだろうが今は昼であり恐れが薄かった。というよりは部屋に色んなフィギュアと人形を同時に持っているので慣れていたと言うべきだろう。
「……反応なし」
人形は人形のまま動かない。
「……電池式か本当に確認しよう」
俺は服を脱がそうとすると。
シュバ!!
手が邪魔で脱がすことができない。軽く震えているので確信のような手つきでハサミを取る。チョキチョキと悪い笑みを向けて。
「……や、やめろおおおおおお!!」
「うおっ喋った」
「くっ!! ハサミはずるい!! 変態!! ひんむこうとするな!! 我はお前の持つあの人形たちのように軽い女ではないわ!!」
「いや、人形だから軽いし」
「重量の事ではないわ!! 離せ!!」
俺は周りを見て、ホームセンターで売っていたプラスチックボックスをひっくり返して中身を出してそれの中に置く。
「おまぁ!?」
「うーん。本当に人形だ」
ボックスから顔は出るが身を乗りだそうとしても中々出れない高さであり。運動能力の低さが感じられた。和服が邪魔をする。
「くぅ……おい、お前!! 我をどうするつもりじゃ!!」
「うーん、結構混乱して。何も考えてない」
「なら!! ヨウ◯ベみせい!! ◯ウツベ!!」
「……」
俺は飾っていたのが呪いの人形だった事よりもアグレッシブなのに驚くのだった。
*
「えっと、お名前は」
「ふん!! 我に名前なぞない。呪いの人形である」
「へぇ」
「……子々孫々。孫の代まで呪い破滅させようとする人形である」
偉そうに人形が話す。吹っ切れたのか色々と語ってくれた。封印されていたのを開けてしまい。倉庫にあったのを不気味がって俺に親が渡した人形が本当に呪われているとは思わなかったがそういう事もあるのだろう。
「おい!! 話を聞いているのか!!」
「あぁ聞いてます。聞いてます」
「良かろう!! では問う。私の目的は!!」
「……ヨウ◯ベでアニメ見ること?」
「だあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。熱弁したというのに聞いておらんな!!」
元気がいい人形である。
「お主ら、篝家を呪い滅ぼすためじゃ!!」
「……ヨウツ◯見てたじゃん。俺ならガスの元栓開けるわ。包丁で刺すわ」
「今は安全で勝手に止まるのじゃ。包丁重くて無理じゃろう。あほか」
「あほだと……えっと可燃ごみ……ああ。わからん、検索検索」
「やめるのじゃ!! 捨てる方法検索するでない!!」
「へーい。でも危害加えようとしてるよな」
「………そうじゃな」
「人形の捨て方と……」
「ま、待つのじゃ!! せ、せっかくやっと動けるようになったのに待つのじゃ!!」
「動けるように?」
「動けるように……まぁ。お主がそうじゃな。色々としてくれるなら呪わずに居てやろう」
「色々?」
「そうじゃ、ちょっと頼みがあるんじゃが」
人形はそう言い照れた表情で俺のスマホを弄る。丁寧に。
「スマホ使えるのか……」
「夜中にの、PCでもええんじゃが」
「……それで勝手に起動してたり充電が無かったりしてたのか」
「最近それで悪い思うてしっかりとPCはスリープにしているし、充電コードもつけたままでイヤホンで聞いておる」
「……いつ作られたのですか?」
「お前らが昭和と言う物より前じゃ、戦前じゃの」
なんともこの人形。今の文明に馴染んでいる。
「ほれ!! これじゃ」
日本人形が検索した画像を俺に見せる。そこには……西洋風の2次元の女の子の絵をそのまま人形にしたようなのが写っていた。
「我も、このようにおめかしをしたいのだ」
「呪いの人形の癖に?」
「もう今の呪い人形は古い。不気味なだけの人形ではいけないのじゃ」
不思議な人形だ。ただ、ワクワクもする。
「……なぁ。体型も違うだろ」
「お主の愛でている人形のようにしてたもれ」
俺が愛でている人形を思い出す。間接球体のお人形であり。それについて思う事があった。いい大人が人形遊び。あまりいい趣味とはおもえないが……モテない俺にはちょうど良かった。
「あのさ、言いがたいが人形別と思うのですが?」
「……なんとかする。とにかく人形を用意してくれ」
「え、ええ……」
「髪はの……ちょっと白く染めて赤目がええの。ペンで書いてやろう」
俺は何故か呪いの人形の注文を聞くはめになったのだったがその人形が描く姿に既視感を覚えて検索し吸血鬼の女の子だったり、有名なキャラクターだったりの画像を拾う。
「そうじゃそれそれ。こんなショボチンな姿は嫌じゃ、こう右手で邪眼発動いうてみたい」
「……わかった、頑張ってみるよ」
「ふぬふむ。そうだと思っての~すでに密林にええの頼んだぞ」
「………もしや!?」
俺は慌ててサイトを見て驚く。欲しいものリストに入れていた物はそのままだったが。購入履歴にそれよりも高額な物が注文済みだったのだ。それで納得するのは必要でもない物が買われていることがあったがそういう事なのだろう。
「ええじゃろ? こっちのが少し高いが動作エエらしいで」
呪い人形、おそるべし。買い物できるのかよ。
*
呪い人形はバレた瞬間、ハキハキとよく喋るようになった。というより、ずっと我慢していたのが爆発したようだった。聞けば時期を見て打ち明けようと考えていたらしく。夜中に金縛りで脅そうとしていたらしい。
もちろんそんなホラーはやめて欲しかった。
「……よし。組み立てが終わった。ちょっと触ってみよう」
ぷにぷに。
「……」
人形の胸部部分の交換パーツの弾力を確かめる。一応、交換出来るようにしており硬い素材でもいいのだが。一度作って見たかったのだ。衣装は売っている物を流用出来るので家に何着もあるしそれでどうなるかだ。
「できたかえ? できたのはええが、そう我の体となるのじゃがらベタベタ触るな」
「……これは別にもう一個作ろうかな。はい、どうぞ。どうするかわからんが」
そう思いながら。出来た球体関節の人形を彼女に手渡す。同じ大きさのため、結構苦労して持つ。
「よし、これでいい!! これで我もあのドレスと言うのが着れるんじゃな。コスプレじゃ」
「ああ」
「着替えて来るから見るんじゃないぞ」
「わかった」
呪いの人形が人形を背負い。襖に入って隠れる。そして今日はそのまま見ることなく。夜中になるのだった。
*
「………」
ピキン!!
「……ん!?」
夜中、体が動かない状態になる。意識はあるのに動かないこれは金縛りだと気付き俺は焦り出した。
「あぐっ!!」
「ふふふ、やった……やったぞ」
「お、おまえは!! 体が動かない!!」
「さぁ、起きるのだ。そして……手伝って」
金縛りの恐怖は泣き声の人形によって霧散した。
「……金縛りとけよ」
「金縛り?」
「……」
ペチン!!
「いてっ!!」
「寝惚けて体が動かないだけじゃ……ええか? 金縛りちゅうもんは体が寝て動かないだけじゃから霊的なもんでもなんでもない。科学じゃ」
「呪いの人形に金縛り全否定されるとは……」
「つべこべ言わず起きろ!!」
ぺちぺち叩かれ俺は起き上がった。裸の人形は俺が作った物で恥ずかしそうに手で大切な部位を隠していた。
「……起きたな。起きたらタンスを開けるの手伝ってくれ。まだ慣れぬ体で力が入らぬ。頼む」
「タンスになんのようだ?」
「服!! 真っ裸のままは嫌じゃ!!」
「おう……」
俺はぺしぺし叩かれているので仕方なく眠い体を起こしてタンスを開ける。その一着。人形用の服を手渡した。
「おい、下着はないかえ?」
「下着は……はい、これ」
俺は眠いので下着を適当に渡し、タンスを開けたままにしてそのまま布団に潜り込んだ。
「ね、寝るのか!? 見ていかぬのか!?」
「……明日、いや。今日、夜中にな」
「今、真夜中じゃ!!」
「……20時」
「……」
俺は無視をして眠りにつく。すでに賢者タイムだった訳だ。そして、朝方。呪いの人形は鏡の前で倒れていた。色んな衣装が散乱し瞼が落ちていたのでまるで眠っているかのようだと思い。俺はタオルケットで人形を包みそっと人形用のキャリーケースを開けて小さな枕を用意し横にする。スマホで記念写真を撮り、満足して仕事へと出かけた。
*
仕事帰り、玄関に呪いの人形が座っていた。衣装は白いミニメイド服。スカートが短い故に清楚とは言えず。何処か欲情を誘うメイドと言うジャンルだ。
「おかえりじゃ、どうじゃ!! どうじゃ!! かわええやろう?」
「ええっと、かわいいけど口調がのじゃ口調なんだな」
「言い訳させてもらうが普通に喋ってもつまらんじゃろうて。アイデンティティーじゃ」
「……」
「なんじゃ?」
俺は家に上がり、衣装の中からあるものを取り出す。
どうぶつの耳。フワッとした物ではないキリッとした狼の耳である。ネコミミの派生でつんッとした人形によくあう。それを呪いの人形に取り付ける。
「ちょ!? いきなり触るでない!!」
「ちょっと待ってくれ……よし。似合うな」
「なんじゃこれ……」
呪いの人形の赤い瞳が鏡に写る自分を捉える。
「ネコミミかの。尖っておるが狐かの」
「狼かな、一応、狐ともどっちでもかな」
「ほうほう、お主はこういうのが好きなのかの?」ピコピコ
「耳動くのか!? ああ、なんか足りない」
俺はあるものを引っ張り出す。渋みの白灰色の尻尾のアタッチメントを手に人形を抱える。
「お主!? 何をするんじゃ!!」
「ちょっと尻尾もつける」
「尻尾……尻尾!? 今はやめるのじゃ!! こら、スカート覗くでない!! それはリ◯ちゃん姉貴の十八番じゃああああ」ゲシゲシ
「イッテ……」
あまりに暴れるので俺は手を離す。
「この童貞!! 女の子の扱いわかっちゃおらんのか!! 我が教えちゃるけん!! そこに座れ!!」
「ごめん、いや……ん? 人形じゃん?」
「人形じゃが!! 今のお主を見てると不安でしょうがない!! 女の子の気持ち以上にやっちゃいけない事を説明せねばなるまい!!」
俺は呪いの人形に怒られ正座をする。一通り怒られたあとに人形に女性の扱いを口頭で教えられ、目から鱗が落ちそうなほどに驚いた。
「よし、今日はこの辺でええじゃろ。よく頑張った」
そして……呪い人形は自分で作った段ボールの着替え室に入り尻尾を着けてくれるのだった。
「ほら、着けてやったぞ……好きに愛でるがいい。ただスカートは覗くのはなしじゃ」
「はーい」
俺はスマホを取り出して画像を保存し。仕事用で買った◯コーの防水カメラでも取った。
「◯イッターにあげよ」
「やめるのじゃ!!」
「どうして?」
「……ちーとの恥ずかしいのじゃ」
「ぱしゃぱしゃぱしゃ」
「口で言いながら変な所、撮るでない!!」
今日も俺は人形は撮る。
*
呪いの人形が目覚めてから、平穏な日々が続いていた。そんな休日の日。俺はボーっとテレビゲームを見ていた。最近、ゲーム関係。ネットで知り合った女性と連絡取り合う。今、俺の膝の上で座りPC画面をにらみつけていた。
カチャカチャカチャカチャカチャカチャ!!
「おっ……つよいの!! じゃが!!」
「……やっば。うっま」
SNSチャットに知り合った彼女は今、目の前の呪いの人形と戦っている。呪いの人形が突っ掛かるためにこういう事が起きた。
「だああああああ、負けたぁ……強いのじゃ」
「……指がな小さいからな」
「指が足りぬのじゃ。手が小さくて……あの持ち方もできん」
あの持ち方とはコントローラーを逆さに持ち、操作するA◯持ちと言うものだ。非常に変態な持ち方だが、今対戦している相手はそれで戦っていると言う。
「うーん、もう一回じゃ!!」
呪いの人形は俺の買い換えで要らなくなったお下がりのスマートフォンを手にして対戦相手と会話をする。
「なに、癖があるんじゃと……我の動きが手に取るようにわかるとな……こやつ。人形か?」
「会ったことないからわからない」
そう、声は聞いたことあるだけで見たことはない。今はそういうのが多いと聞く。余と言いながら演じてるのかと言うほどに声が可愛い女性だった。見た目はどうかはわからない。
「……むぅ。違うゲームにするんじゃ」
呪いの人形は笑いながらスカートをはためかせて画面を指を指し上目遣いでこれっと言い。俺はマウスでそれを選択し、フレンドに招待を飛ばす。
「……ん!?」
そして、招待を飛ばした時。俺は何か頭が重くなるのを感じた。
「どうしたのじゃ?」
「いや、画面の見すぎで疲れたようだ。頭が思いからB1飲んでくる」
目にはいいB1を含んだ薬を飲みに椅子から立ち上がり。呪いの人形を再度、椅子に座らせた。
「………」
最近、異常に体が重く感じられ。俺は呪いの人形を見る。そして、首を振った。あんなに楽しそうにしている人形がそんなことをする筈がないと考えながら。
*
ガチャガチャ。
「今日は何処に行くかえ?」
「何処でしょうか」
「このボロ車で何処へ行くんか当てろと言うのじゃろ」
「ボロ言うな……確かに10年もんだけどな」
◯ンダの軽バンの車であり。なかなか年季が入った車で早く後継機を所望する日々である。
「じゃが、まぁ……物持ちいいのはええのぉ」
俺は人形を椅子に座らせた。もちろん自分でシートベルトを止められるだろうが人の目があった。動く喋る人形なんて世紀の大発見になるような事だったが俺はそれを表へだそうとは思っていない。独り占めと言えばそれまでだが今のこのピコピコと耳を動かして悩む人形が動く奇跡の夢が人目で醒めるような気がしたのだ。
「にしても、どこ行くか……わからぬのう」
「わからぬのか?」
「わからぬ……も、もしや焼却場じゃなかろうな!?」
「それなら可燃物ゴミにバラバラで入れる」
「ほっ……助かってるわけじゃな毎週」
「……人形に死はあるんだろうか?」
「なんじゃいきなり。そりぁ動かなくなったらワシ的に死じゃな。なに……多くの有機物はいつか朽ちる。じゃから……その……」
「なんだよ?」
耳を伏せて恥ずかしそうにスカートを握る呪いの人形。その愛らしい姿にいつも困っている。
「何でもないのじゃ……にしてもふむ。耳と尻尾を外してええかの?」
「ん、好きでつけているかと」
「まぁ、好きでつけるのじゃがな……こればかりに頼らず。そのままでの……愛でてほしいのじゃ」
「ごめん。エンジン音うるさくて聞き取れなかった」
「何でもない。はずすの」
人形は耳と尻尾を外す。そしてそのまま俺のスマホを奪いポチポチと検索し始めるのだった。
*
ついた場所は離れのコンクリートで固められた道路のある一段下がった浜辺に来る。辺境と言えばいいのか島である事と時期的に寒いため。釣りする客もいない。夏には多くのリア充が来るキャンプ地で騒がしい場所だが。今は波音だけの静かな場所である。
「ここは!? あれが海かえ!?」
「人がいないから好き勝手に動いていいぞ、あと。靴を履き替えよう」
俺は小さなサンダルを彼女に履かせる。
「ええんかの外で自由に動いても」
「遠くからは子供にしか見えんから」
「ええんじゃの……」
彼女はそのまま浜を走り、波の近くまでいき。大きく叫んだ。
「海のバカヤロー!!」
そしてそのまま満面の笑みで俺のもとに帰ってくる。まるで犬だ。
「これが海かえ!! すごいのぉ!! 大きいのぉ!! 映像と別格じゃ。生には勝てぬの……ほらお主も来い」
「えっ俺はみてるよ」
「嫌じゃ。せっかくお主が我のワガママを聞いてくれたのじゃ。もっともっとワガママにつきおうてくれ」
「あーはいはい」
俺は立ち上がり、サンダルに履き替えて浜を歩く。先を駆け足で走る彼女が笑みを向けて問う。
「海に入ってもええかの?」
「泳ぐのはなしな、あと冷たい」
「人形じゃから大丈夫じゃ……」
そう言いながらサンダルを外して、波に恐る恐る足を少し入れ。安全とわかるとそのままスカートをめくってバシャバシャと海に入る。
「ははは、ええ感じじゃ!! 気持ちいええの!! 風も音もこの触れる塩水も」
「危ないから、はしゃぐのはほどほどにな」
「うむうむ」
彼女はスカートを持ったまま。俺の方へ向き直る。
「本当にええ経験じゃ……そうじゃ……ちょっとええかの」
「ん? なんだ?」
「頼みがあるんじゃ」
「もっとワガママを言いたいと?」
「そうじゃ……聞くだけ聞いてくれるかの?」
「聞くだけなら。やるかはどうかはわからない」
波に人形の白い足が浸かったままの彼女は目を細めてスカートをつまんだまま可愛い声で呪詛を吐いた。
「これからもいっぱい愛でてくれなきゃ……呪っちゃうぞ」
照れているようにそのまま目線を下げる。それに冗談混じりで俺は答えた。
「じゃぁ、これからも愛めでなきゃいけないな」
「ふふ、そうじゃ!! 生きた、かろう………あっ!?」
バシャン!!
偉そうにふんぞり返り彼女は転け、バシャバシャと慌てふためく。俺はそのまま走り彼女をそのまま掴み。大丈夫かと聞いた。冷たい海水に俺は我慢する。
「ふぶ……だ、大丈夫じゃ……体が軽く浮いて立てんなっただけじゃ……それよりもお主の方が大丈夫か?」
「濡れたけど大丈夫」
「そうか、顔が凄く怖いからの……」
俺は顔に手をやり、頬をつまんだ。痛い、色々と。
「じゃが、そういう所が大切じゃぞ」
「お、おう」
「まぁ、帰ったら肉じゃが作ってやるのじゃ」
「……」
ちょっと俺は我に帰り照れ臭くなる。
*
濡れた服を人形と一緒に着替えた。静かな砂浜を見つめ、コンクリートの凸部分に腰かける。人形は俺の膝の上で衣装チェンジで別の私服を着せる。一般女性が着ている服の人形版である。
「……ええ景色じゃ。あと暖かいの」
「暖かい?」
「……そうじゃ。ちょっとそう感じておる」
人形に温度はわからない。だが、彼女はそう言って幸せそうに体を預ける。俺は髪を撫でる。作り物である髪だが、俺の髪よりもさらさらだった。呪いの人形は髪が伸びると言われているが本当らしい。
「くすぐったいの……撫でられるのは」
「そうか、ならここは?」ぷに
「こら!! そこを揉むでない。全く……変なところはこうやって作り込む」
「……パーツ付け替えできるよ」
「愛でてくれるからこのままなのじゃ!! 言わせるな!!」
「さいで」
俺は膝の上の彼女と笑いあい。そしてふと、彼女顔を寄せてほしいと聞く。
「秘密の言葉があるんじゃ……耳を貸してくれ」
「わかったどうぞ」
そういい、おれは耳を近づける。すると、柔らかい感触が頬に微かに当たり。そのまま呪詛のような言葉を発する。
「ワシ以外の女を愛でてはいけぬぞ……呪っちゃう」
「……そりゃぁ……わからんは」
「嘘でもOK言えなのじゃ!!」
俺は照れ隠しでここの返事は保留にするのだった。そして気がつく事は。俺の子々孫々はこうやって途絶えさせられるのだろうなと考えて、彼女とそのまま海を見続けるのだった。
*
呪いの人形とあれこれする間、あっという間が過ぎ去り……気がついたのは病院のベットの上だった。と言うよりは寝て起きた感覚があって俺はベットの上で寝かされていたのだ。
「……?」
服も何もかも全く知らない。思い出すのは家に居たことぐらいだ。そう、俺は家に居た筈だった。
「どういうことだ?」
唐突、家から病院に移り。おれは瞬間移動したような気がする。そして恐ろしい事を考えてしまった。鮮明に覚えている生々しい記憶、呪いの人形と過ごした日々を思い出していたが。それが空想であるという恐怖が生まれる。
夢から醒めたような気配がする。おれは今の状況よりもある事が不安で不安でしょうがなかった。
あの日々は夢だったと。
「……!? 起きてる!? 先生!! 篝さんが起きてます!!」
「起きてます? そっか!!」
俺はナースコールボタンを押し、人を呼んだ。今がどうこうのじゃない。ハッキリと確認したい。あれが夢かどうかを。
*
「……うん。心肺も大丈夫。意識もハッキリしているしスキャンでは問題なかった。医学ではわからないな……健康そのものだ」
「はい」
俺はベットで先生に診察を受ける。ハッキリとわからないが本当に家で気を失ったようだった。植物人間のように数日なっていたようで色々と家族が会社などに連絡してくれていたようだった。そして、俺はそこで呪いの人形が夢でないことを知る。
そう、俺は一人暮らしで誰もいないのだが。通報、もとい連絡が家族の元に届けられたらしい。SMSと救急車の通報だ。ただ奇妙な事に救急車の通報者は女性だったが誰も通報したとは言わず。俺は一人で倒れていたので気味悪がられた。
だから、追々聞くと呪いの人形の仕業じゃないかとなり呪いの人形を探したが無く。何処にやったかを聞かれた。
もちろん嘘をついた。気味悪いので捨てたと。すると皆に天罰、呪われたと怒られ。退院後に近くの寺までに行くことになった。
数日様子を見た先生が俺に退院してもいいと言われ退院し、すぐさま家族に連れられ家に帰った。家につくと書き置きが冷蔵庫に張ってあった。Goog◯◯で検索したマップをそのままカラーで出しており。目的地として最寄りの神社に印がついていた。
俺は家族に言われているのでお祓いと言う口上の元、そこへ訪れる。訪れる前に連絡をし、日程を聞いたが向こうから話したい事があると言われ慌てて着替えて向かう。
場所は昔からの神社であり。そこまで大きくはないが周りの住宅からいつもお参り、初詣の参加が多い場所である。俺も何度も訪れた場所であり。一人で訪れたのは初めてだった。いつもは家族と来るのである。
神主である若い人が掃除をしており。俺を見つけると近寄ってくる。ハッキリと今日来るお客を待っていたような雰囲気に頭を下げる。
「こんにちは」
「ああ、こんにちは……写真の通りだ」
「写真?」
「ええ、こちらへ」
神社とは別の家に俺は上げてもらえる。今日あった他人だが。神主はまるで知っているような口振りだった。
そして、神主の奥さんにお茶を出してもらい。一枚のプリントされた写真と手紙を手渡された。写真は俺の寝顔だった。そして……手紙を開ける。そこには丁寧な字でかかれた物だった。
「これは……」
「3日前に境内に人形が2つ置かれていた。呪いの人形とお金と共に手紙がありました」
「……そ、それって待ってください!! 呪いの人形ってこんな人形じゃなかったですか!!」
俺はスマホで彼女のワンピース姿を見せる。すると神主は頷く。
「ええ、そうです。そして……驚きましたね強い呪いでした。長い間、この仕事をしているのでわかります。本物だった」
「呪いなんて……なにも」
「呪いとは悪い物だけを指す言葉が多いですが。呪術では、善き悪し両方を持っています。そして、あの子は後者でした。あれは本当に悲しい人形です」
俺は黙って話を聞く。きっとどこかで封印されているだろうと考える。迎えに行かなくていけない。
「あれは相当の増悪を持った人用に作られています。そして人の心に漬け込むことを知った人形師でした」
「人の心に漬け込む……そんな、嘘だ」
「皆さん、そう言います。あの子はそんな子じゃないと呪いなんてないと。私も心苦しいので、言わずに目を瞑る事も多いです」
「……神主さんはあの人形の事が詳しいんですね」
「はい、詳しいですね。そして、何度も聞いてきました。あの人形の呪いは一つです。持ち主を術者として生気をすいとりゆっくりと殺すための人形なんです」
「……うそだろ……殺すために俺に……そんな素振り……」
俺は頭を抱えた。しかし、神主は俺の考えを否定する。
「いいえ、人形はそんな殺したいとは思っていません。人形として愛でられたい。愛でられるために持ち主のためにあれこれともします。すると、飼い主はその善意にほだされ一緒にいる時間が増えるでしょうね……それが呪いを強めるとしらず」
バンッ!!
「……もしかして。それであいつ!! 教えたんですか!! 何処へ行ったんですか!!」
おれは噛みつくように机を叩き。苛立つまま聞く。
「……あの子はもう。いません……自分の意思で焚きあげられること選びました。呪いを絶つために」
俺はそれを聞き取ると、力が抜け怒りも何処かえと消えてしまう。力なく椅子に座り。頭を抱える。
「そんな、どうして」
「……手紙、読んであげてください。あの子は強い子でした。人を呪うような子ではありません」
「わかってます……わかってます……」
俺は手にもった手紙を握りしめてポロポロと涙を落とすのだった。
*
家に帰る。玄関は鍵がかかっており。明るさもなく。おかえりの声もなく。ただただ静かな玄関だった。
「……」
俺は寝ている間に何もかも知らずに終わってしまった。神主は人形の強い自己犠牲の精神を尊重してくれ。灰だけは残してくれており。そのまま、供養お願いしますと頼んでそのまま帰って来た。
空気が冷たく。あの日々の夢が終わってしまった事を俺は彼女用の衣装棚を見ながら感じる。もう着る事ない服が飾られている。
唐突、唐突に訪れた終わりに……お腹も空かず。ただただ部屋の真ん中でたちつくす。
笑い声や悲鳴、泣き声と怒声にと色んな声が頭に渦巻く。ずっとずっと続いていく。俺が死ぬまでずっと続いていく事と俺は思っていた。
「……」
部屋の真ん中で座り込み。俺は握りしめてクチャクチャの手紙を開ける。
綺麗な字が鉛筆でかかれており。びっしりと文字が書かれていた。
内容は先ず。1枚目は呪いについての謝り、呪いたいわけじゃかったことが書かれていた。本当に後悔とそれ以上に言い訳など。とにかく嫌いにならないでほしい旨が伝わる。
2枚目は人形自身の事を調べ、Goo◯le先生に教えて貰ったことが書かれ……神主の言う人形の話と一緒だった。最後に隠していた事も謝り、今まで覚悟ができない事を謝りだった。
3枚目以降はびっしりと書かれていた毎日の楽しかった事への感謝と愛でてくれた事への嬉しさと好きであった事が字が小さくしてでも書き連ねられ、それでも収まりきらないのか裏面もびっしりと書かれている。そして最後の文字、それを俺は読み、部屋の真ん中で手紙を濡らすのだった。
*
仕事は有給を使い。安静をするなか……大丈夫だと言って仕事をすればよかったなと思う。あまりにも暇な時間が多く。俺は俺でその時間が苦痛に思えた。
衣装など見えない所に移動し、それでも耳に残る変わった口調の声がふと聞こえてきそうな錯覚もあった。
だが、パソコンのファンの音などしか聞こえない。いや、通知音もあった。
「誰から?」
俺は通知先を確認し、最近よく話をする女性がふと変な事を言い出す。
[浜辺、オフ会しよ]
不思議になり何度も何度も、返信するが返答はなく。一枚の画像だけが送られ、それに見覚えのある浜で俺は慌てて車のキーを手にした。
家が近いのは知っていたがオフ会とかの誘いはなかった。それよりもその浜の画像に俺は突き動かされる。
ピロン
画像以外の返信がやっときた。
[愛めでないと呪ちゃうぞ。さぁ早く……待ってる。寒いんじゃ]
高鳴る鼓動に俺は車のドアを荒らしく開け、その女性に会いに行く。何処かまた会えるではないかと淡い気持ちを持って。アクセルを踏んだのだった。
だが俺は今日、その怪異を見るのである。
昼頃、半日有給を取り家に帰って来たときの事だ。実家持ちのダイ◯ハウス製品のアパート一室を借り(家の部屋は物置になっていた)て住んでいた。そこへ帰宅し、部屋のテレビ音が響いており。消し忘れかと部屋に入って驚く光景が目に焼き付く。You◯uberのロゴがテレビ画面に写っておりそれの前のテーブルに……
「……あっ」
「……あっ」
リモコン片手に座りながら見ている人形がいたのだ。とにかく、よくある日本人形がリモコンを落とし首を向け。止まる。もちろんそこで動かなくなった。よくみるとそれは飾っていた日本人形であり。ガラスケースが横に置かれていた。
「おいおい……まじかよ」
俺は驚きながら、ソロリソロリと近づき。手を伸ばしても反応せず。ガバッと捕まえる。
「……電池式とかじゃぁないよな」
触りごごちは本当にちょっと大きい人形である。だが、俺は疑う。夜ならビックリして動けないだろうが今は昼であり恐れが薄かった。というよりは部屋に色んなフィギュアと人形を同時に持っているので慣れていたと言うべきだろう。
「……反応なし」
人形は人形のまま動かない。
「……電池式か本当に確認しよう」
俺は服を脱がそうとすると。
シュバ!!
手が邪魔で脱がすことができない。軽く震えているので確信のような手つきでハサミを取る。チョキチョキと悪い笑みを向けて。
「……や、やめろおおおおおお!!」
「うおっ喋った」
「くっ!! ハサミはずるい!! 変態!! ひんむこうとするな!! 我はお前の持つあの人形たちのように軽い女ではないわ!!」
「いや、人形だから軽いし」
「重量の事ではないわ!! 離せ!!」
俺は周りを見て、ホームセンターで売っていたプラスチックボックスをひっくり返して中身を出してそれの中に置く。
「おまぁ!?」
「うーん。本当に人形だ」
ボックスから顔は出るが身を乗りだそうとしても中々出れない高さであり。運動能力の低さが感じられた。和服が邪魔をする。
「くぅ……おい、お前!! 我をどうするつもりじゃ!!」
「うーん、結構混乱して。何も考えてない」
「なら!! ヨウ◯ベみせい!! ◯ウツベ!!」
「……」
俺は飾っていたのが呪いの人形だった事よりもアグレッシブなのに驚くのだった。
*
「えっと、お名前は」
「ふん!! 我に名前なぞない。呪いの人形である」
「へぇ」
「……子々孫々。孫の代まで呪い破滅させようとする人形である」
偉そうに人形が話す。吹っ切れたのか色々と語ってくれた。封印されていたのを開けてしまい。倉庫にあったのを不気味がって俺に親が渡した人形が本当に呪われているとは思わなかったがそういう事もあるのだろう。
「おい!! 話を聞いているのか!!」
「あぁ聞いてます。聞いてます」
「良かろう!! では問う。私の目的は!!」
「……ヨウ◯ベでアニメ見ること?」
「だあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。熱弁したというのに聞いておらんな!!」
元気がいい人形である。
「お主ら、篝家を呪い滅ぼすためじゃ!!」
「……ヨウツ◯見てたじゃん。俺ならガスの元栓開けるわ。包丁で刺すわ」
「今は安全で勝手に止まるのじゃ。包丁重くて無理じゃろう。あほか」
「あほだと……えっと可燃ごみ……ああ。わからん、検索検索」
「やめるのじゃ!! 捨てる方法検索するでない!!」
「へーい。でも危害加えようとしてるよな」
「………そうじゃな」
「人形の捨て方と……」
「ま、待つのじゃ!! せ、せっかくやっと動けるようになったのに待つのじゃ!!」
「動けるように?」
「動けるように……まぁ。お主がそうじゃな。色々としてくれるなら呪わずに居てやろう」
「色々?」
「そうじゃ、ちょっと頼みがあるんじゃが」
人形はそう言い照れた表情で俺のスマホを弄る。丁寧に。
「スマホ使えるのか……」
「夜中にの、PCでもええんじゃが」
「……それで勝手に起動してたり充電が無かったりしてたのか」
「最近それで悪い思うてしっかりとPCはスリープにしているし、充電コードもつけたままでイヤホンで聞いておる」
「……いつ作られたのですか?」
「お前らが昭和と言う物より前じゃ、戦前じゃの」
なんともこの人形。今の文明に馴染んでいる。
「ほれ!! これじゃ」
日本人形が検索した画像を俺に見せる。そこには……西洋風の2次元の女の子の絵をそのまま人形にしたようなのが写っていた。
「我も、このようにおめかしをしたいのだ」
「呪いの人形の癖に?」
「もう今の呪い人形は古い。不気味なだけの人形ではいけないのじゃ」
不思議な人形だ。ただ、ワクワクもする。
「……なぁ。体型も違うだろ」
「お主の愛でている人形のようにしてたもれ」
俺が愛でている人形を思い出す。間接球体のお人形であり。それについて思う事があった。いい大人が人形遊び。あまりいい趣味とはおもえないが……モテない俺にはちょうど良かった。
「あのさ、言いがたいが人形別と思うのですが?」
「……なんとかする。とにかく人形を用意してくれ」
「え、ええ……」
「髪はの……ちょっと白く染めて赤目がええの。ペンで書いてやろう」
俺は何故か呪いの人形の注文を聞くはめになったのだったがその人形が描く姿に既視感を覚えて検索し吸血鬼の女の子だったり、有名なキャラクターだったりの画像を拾う。
「そうじゃそれそれ。こんなショボチンな姿は嫌じゃ、こう右手で邪眼発動いうてみたい」
「……わかった、頑張ってみるよ」
「ふぬふむ。そうだと思っての~すでに密林にええの頼んだぞ」
「………もしや!?」
俺は慌ててサイトを見て驚く。欲しいものリストに入れていた物はそのままだったが。購入履歴にそれよりも高額な物が注文済みだったのだ。それで納得するのは必要でもない物が買われていることがあったがそういう事なのだろう。
「ええじゃろ? こっちのが少し高いが動作エエらしいで」
呪い人形、おそるべし。買い物できるのかよ。
*
呪い人形はバレた瞬間、ハキハキとよく喋るようになった。というより、ずっと我慢していたのが爆発したようだった。聞けば時期を見て打ち明けようと考えていたらしく。夜中に金縛りで脅そうとしていたらしい。
もちろんそんなホラーはやめて欲しかった。
「……よし。組み立てが終わった。ちょっと触ってみよう」
ぷにぷに。
「……」
人形の胸部部分の交換パーツの弾力を確かめる。一応、交換出来るようにしており硬い素材でもいいのだが。一度作って見たかったのだ。衣装は売っている物を流用出来るので家に何着もあるしそれでどうなるかだ。
「できたかえ? できたのはええが、そう我の体となるのじゃがらベタベタ触るな」
「……これは別にもう一個作ろうかな。はい、どうぞ。どうするかわからんが」
そう思いながら。出来た球体関節の人形を彼女に手渡す。同じ大きさのため、結構苦労して持つ。
「よし、これでいい!! これで我もあのドレスと言うのが着れるんじゃな。コスプレじゃ」
「ああ」
「着替えて来るから見るんじゃないぞ」
「わかった」
呪いの人形が人形を背負い。襖に入って隠れる。そして今日はそのまま見ることなく。夜中になるのだった。
*
「………」
ピキン!!
「……ん!?」
夜中、体が動かない状態になる。意識はあるのに動かないこれは金縛りだと気付き俺は焦り出した。
「あぐっ!!」
「ふふふ、やった……やったぞ」
「お、おまえは!! 体が動かない!!」
「さぁ、起きるのだ。そして……手伝って」
金縛りの恐怖は泣き声の人形によって霧散した。
「……金縛りとけよ」
「金縛り?」
「……」
ペチン!!
「いてっ!!」
「寝惚けて体が動かないだけじゃ……ええか? 金縛りちゅうもんは体が寝て動かないだけじゃから霊的なもんでもなんでもない。科学じゃ」
「呪いの人形に金縛り全否定されるとは……」
「つべこべ言わず起きろ!!」
ぺちぺち叩かれ俺は起き上がった。裸の人形は俺が作った物で恥ずかしそうに手で大切な部位を隠していた。
「……起きたな。起きたらタンスを開けるの手伝ってくれ。まだ慣れぬ体で力が入らぬ。頼む」
「タンスになんのようだ?」
「服!! 真っ裸のままは嫌じゃ!!」
「おう……」
俺はぺしぺし叩かれているので仕方なく眠い体を起こしてタンスを開ける。その一着。人形用の服を手渡した。
「おい、下着はないかえ?」
「下着は……はい、これ」
俺は眠いので下着を適当に渡し、タンスを開けたままにしてそのまま布団に潜り込んだ。
「ね、寝るのか!? 見ていかぬのか!?」
「……明日、いや。今日、夜中にな」
「今、真夜中じゃ!!」
「……20時」
「……」
俺は無視をして眠りにつく。すでに賢者タイムだった訳だ。そして、朝方。呪いの人形は鏡の前で倒れていた。色んな衣装が散乱し瞼が落ちていたのでまるで眠っているかのようだと思い。俺はタオルケットで人形を包みそっと人形用のキャリーケースを開けて小さな枕を用意し横にする。スマホで記念写真を撮り、満足して仕事へと出かけた。
*
仕事帰り、玄関に呪いの人形が座っていた。衣装は白いミニメイド服。スカートが短い故に清楚とは言えず。何処か欲情を誘うメイドと言うジャンルだ。
「おかえりじゃ、どうじゃ!! どうじゃ!! かわええやろう?」
「ええっと、かわいいけど口調がのじゃ口調なんだな」
「言い訳させてもらうが普通に喋ってもつまらんじゃろうて。アイデンティティーじゃ」
「……」
「なんじゃ?」
俺は家に上がり、衣装の中からあるものを取り出す。
どうぶつの耳。フワッとした物ではないキリッとした狼の耳である。ネコミミの派生でつんッとした人形によくあう。それを呪いの人形に取り付ける。
「ちょ!? いきなり触るでない!!」
「ちょっと待ってくれ……よし。似合うな」
「なんじゃこれ……」
呪いの人形の赤い瞳が鏡に写る自分を捉える。
「ネコミミかの。尖っておるが狐かの」
「狼かな、一応、狐ともどっちでもかな」
「ほうほう、お主はこういうのが好きなのかの?」ピコピコ
「耳動くのか!? ああ、なんか足りない」
俺はあるものを引っ張り出す。渋みの白灰色の尻尾のアタッチメントを手に人形を抱える。
「お主!? 何をするんじゃ!!」
「ちょっと尻尾もつける」
「尻尾……尻尾!? 今はやめるのじゃ!! こら、スカート覗くでない!! それはリ◯ちゃん姉貴の十八番じゃああああ」ゲシゲシ
「イッテ……」
あまりに暴れるので俺は手を離す。
「この童貞!! 女の子の扱いわかっちゃおらんのか!! 我が教えちゃるけん!! そこに座れ!!」
「ごめん、いや……ん? 人形じゃん?」
「人形じゃが!! 今のお主を見てると不安でしょうがない!! 女の子の気持ち以上にやっちゃいけない事を説明せねばなるまい!!」
俺は呪いの人形に怒られ正座をする。一通り怒られたあとに人形に女性の扱いを口頭で教えられ、目から鱗が落ちそうなほどに驚いた。
「よし、今日はこの辺でええじゃろ。よく頑張った」
そして……呪い人形は自分で作った段ボールの着替え室に入り尻尾を着けてくれるのだった。
「ほら、着けてやったぞ……好きに愛でるがいい。ただスカートは覗くのはなしじゃ」
「はーい」
俺はスマホを取り出して画像を保存し。仕事用で買った◯コーの防水カメラでも取った。
「◯イッターにあげよ」
「やめるのじゃ!!」
「どうして?」
「……ちーとの恥ずかしいのじゃ」
「ぱしゃぱしゃぱしゃ」
「口で言いながら変な所、撮るでない!!」
今日も俺は人形は撮る。
*
呪いの人形が目覚めてから、平穏な日々が続いていた。そんな休日の日。俺はボーっとテレビゲームを見ていた。最近、ゲーム関係。ネットで知り合った女性と連絡取り合う。今、俺の膝の上で座りPC画面をにらみつけていた。
カチャカチャカチャカチャカチャカチャ!!
「おっ……つよいの!! じゃが!!」
「……やっば。うっま」
SNSチャットに知り合った彼女は今、目の前の呪いの人形と戦っている。呪いの人形が突っ掛かるためにこういう事が起きた。
「だああああああ、負けたぁ……強いのじゃ」
「……指がな小さいからな」
「指が足りぬのじゃ。手が小さくて……あの持ち方もできん」
あの持ち方とはコントローラーを逆さに持ち、操作するA◯持ちと言うものだ。非常に変態な持ち方だが、今対戦している相手はそれで戦っていると言う。
「うーん、もう一回じゃ!!」
呪いの人形は俺の買い換えで要らなくなったお下がりのスマートフォンを手にして対戦相手と会話をする。
「なに、癖があるんじゃと……我の動きが手に取るようにわかるとな……こやつ。人形か?」
「会ったことないからわからない」
そう、声は聞いたことあるだけで見たことはない。今はそういうのが多いと聞く。余と言いながら演じてるのかと言うほどに声が可愛い女性だった。見た目はどうかはわからない。
「……むぅ。違うゲームにするんじゃ」
呪いの人形は笑いながらスカートをはためかせて画面を指を指し上目遣いでこれっと言い。俺はマウスでそれを選択し、フレンドに招待を飛ばす。
「……ん!?」
そして、招待を飛ばした時。俺は何か頭が重くなるのを感じた。
「どうしたのじゃ?」
「いや、画面の見すぎで疲れたようだ。頭が思いからB1飲んでくる」
目にはいいB1を含んだ薬を飲みに椅子から立ち上がり。呪いの人形を再度、椅子に座らせた。
「………」
最近、異常に体が重く感じられ。俺は呪いの人形を見る。そして、首を振った。あんなに楽しそうにしている人形がそんなことをする筈がないと考えながら。
*
ガチャガチャ。
「今日は何処に行くかえ?」
「何処でしょうか」
「このボロ車で何処へ行くんか当てろと言うのじゃろ」
「ボロ言うな……確かに10年もんだけどな」
◯ンダの軽バンの車であり。なかなか年季が入った車で早く後継機を所望する日々である。
「じゃが、まぁ……物持ちいいのはええのぉ」
俺は人形を椅子に座らせた。もちろん自分でシートベルトを止められるだろうが人の目があった。動く喋る人形なんて世紀の大発見になるような事だったが俺はそれを表へだそうとは思っていない。独り占めと言えばそれまでだが今のこのピコピコと耳を動かして悩む人形が動く奇跡の夢が人目で醒めるような気がしたのだ。
「にしても、どこ行くか……わからぬのう」
「わからぬのか?」
「わからぬ……も、もしや焼却場じゃなかろうな!?」
「それなら可燃物ゴミにバラバラで入れる」
「ほっ……助かってるわけじゃな毎週」
「……人形に死はあるんだろうか?」
「なんじゃいきなり。そりぁ動かなくなったらワシ的に死じゃな。なに……多くの有機物はいつか朽ちる。じゃから……その……」
「なんだよ?」
耳を伏せて恥ずかしそうにスカートを握る呪いの人形。その愛らしい姿にいつも困っている。
「何でもないのじゃ……にしてもふむ。耳と尻尾を外してええかの?」
「ん、好きでつけているかと」
「まぁ、好きでつけるのじゃがな……こればかりに頼らず。そのままでの……愛でてほしいのじゃ」
「ごめん。エンジン音うるさくて聞き取れなかった」
「何でもない。はずすの」
人形は耳と尻尾を外す。そしてそのまま俺のスマホを奪いポチポチと検索し始めるのだった。
*
ついた場所は離れのコンクリートで固められた道路のある一段下がった浜辺に来る。辺境と言えばいいのか島である事と時期的に寒いため。釣りする客もいない。夏には多くのリア充が来るキャンプ地で騒がしい場所だが。今は波音だけの静かな場所である。
「ここは!? あれが海かえ!?」
「人がいないから好き勝手に動いていいぞ、あと。靴を履き替えよう」
俺は小さなサンダルを彼女に履かせる。
「ええんかの外で自由に動いても」
「遠くからは子供にしか見えんから」
「ええんじゃの……」
彼女はそのまま浜を走り、波の近くまでいき。大きく叫んだ。
「海のバカヤロー!!」
そしてそのまま満面の笑みで俺のもとに帰ってくる。まるで犬だ。
「これが海かえ!! すごいのぉ!! 大きいのぉ!! 映像と別格じゃ。生には勝てぬの……ほらお主も来い」
「えっ俺はみてるよ」
「嫌じゃ。せっかくお主が我のワガママを聞いてくれたのじゃ。もっともっとワガママにつきおうてくれ」
「あーはいはい」
俺は立ち上がり、サンダルに履き替えて浜を歩く。先を駆け足で走る彼女が笑みを向けて問う。
「海に入ってもええかの?」
「泳ぐのはなしな、あと冷たい」
「人形じゃから大丈夫じゃ……」
そう言いながらサンダルを外して、波に恐る恐る足を少し入れ。安全とわかるとそのままスカートをめくってバシャバシャと海に入る。
「ははは、ええ感じじゃ!! 気持ちいええの!! 風も音もこの触れる塩水も」
「危ないから、はしゃぐのはほどほどにな」
「うむうむ」
彼女はスカートを持ったまま。俺の方へ向き直る。
「本当にええ経験じゃ……そうじゃ……ちょっとええかの」
「ん? なんだ?」
「頼みがあるんじゃ」
「もっとワガママを言いたいと?」
「そうじゃ……聞くだけ聞いてくれるかの?」
「聞くだけなら。やるかはどうかはわからない」
波に人形の白い足が浸かったままの彼女は目を細めてスカートをつまんだまま可愛い声で呪詛を吐いた。
「これからもいっぱい愛でてくれなきゃ……呪っちゃうぞ」
照れているようにそのまま目線を下げる。それに冗談混じりで俺は答えた。
「じゃぁ、これからも愛めでなきゃいけないな」
「ふふ、そうじゃ!! 生きた、かろう………あっ!?」
バシャン!!
偉そうにふんぞり返り彼女は転け、バシャバシャと慌てふためく。俺はそのまま走り彼女をそのまま掴み。大丈夫かと聞いた。冷たい海水に俺は我慢する。
「ふぶ……だ、大丈夫じゃ……体が軽く浮いて立てんなっただけじゃ……それよりもお主の方が大丈夫か?」
「濡れたけど大丈夫」
「そうか、顔が凄く怖いからの……」
俺は顔に手をやり、頬をつまんだ。痛い、色々と。
「じゃが、そういう所が大切じゃぞ」
「お、おう」
「まぁ、帰ったら肉じゃが作ってやるのじゃ」
「……」
ちょっと俺は我に帰り照れ臭くなる。
*
濡れた服を人形と一緒に着替えた。静かな砂浜を見つめ、コンクリートの凸部分に腰かける。人形は俺の膝の上で衣装チェンジで別の私服を着せる。一般女性が着ている服の人形版である。
「……ええ景色じゃ。あと暖かいの」
「暖かい?」
「……そうじゃ。ちょっとそう感じておる」
人形に温度はわからない。だが、彼女はそう言って幸せそうに体を預ける。俺は髪を撫でる。作り物である髪だが、俺の髪よりもさらさらだった。呪いの人形は髪が伸びると言われているが本当らしい。
「くすぐったいの……撫でられるのは」
「そうか、ならここは?」ぷに
「こら!! そこを揉むでない。全く……変なところはこうやって作り込む」
「……パーツ付け替えできるよ」
「愛でてくれるからこのままなのじゃ!! 言わせるな!!」
「さいで」
俺は膝の上の彼女と笑いあい。そしてふと、彼女顔を寄せてほしいと聞く。
「秘密の言葉があるんじゃ……耳を貸してくれ」
「わかったどうぞ」
そういい、おれは耳を近づける。すると、柔らかい感触が頬に微かに当たり。そのまま呪詛のような言葉を発する。
「ワシ以外の女を愛でてはいけぬぞ……呪っちゃう」
「……そりゃぁ……わからんは」
「嘘でもOK言えなのじゃ!!」
俺は照れ隠しでここの返事は保留にするのだった。そして気がつく事は。俺の子々孫々はこうやって途絶えさせられるのだろうなと考えて、彼女とそのまま海を見続けるのだった。
*
呪いの人形とあれこれする間、あっという間が過ぎ去り……気がついたのは病院のベットの上だった。と言うよりは寝て起きた感覚があって俺はベットの上で寝かされていたのだ。
「……?」
服も何もかも全く知らない。思い出すのは家に居たことぐらいだ。そう、俺は家に居た筈だった。
「どういうことだ?」
唐突、家から病院に移り。おれは瞬間移動したような気がする。そして恐ろしい事を考えてしまった。鮮明に覚えている生々しい記憶、呪いの人形と過ごした日々を思い出していたが。それが空想であるという恐怖が生まれる。
夢から醒めたような気配がする。おれは今の状況よりもある事が不安で不安でしょうがなかった。
あの日々は夢だったと。
「……!? 起きてる!? 先生!! 篝さんが起きてます!!」
「起きてます? そっか!!」
俺はナースコールボタンを押し、人を呼んだ。今がどうこうのじゃない。ハッキリと確認したい。あれが夢かどうかを。
*
「……うん。心肺も大丈夫。意識もハッキリしているしスキャンでは問題なかった。医学ではわからないな……健康そのものだ」
「はい」
俺はベットで先生に診察を受ける。ハッキリとわからないが本当に家で気を失ったようだった。植物人間のように数日なっていたようで色々と家族が会社などに連絡してくれていたようだった。そして、俺はそこで呪いの人形が夢でないことを知る。
そう、俺は一人暮らしで誰もいないのだが。通報、もとい連絡が家族の元に届けられたらしい。SMSと救急車の通報だ。ただ奇妙な事に救急車の通報者は女性だったが誰も通報したとは言わず。俺は一人で倒れていたので気味悪がられた。
だから、追々聞くと呪いの人形の仕業じゃないかとなり呪いの人形を探したが無く。何処にやったかを聞かれた。
もちろん嘘をついた。気味悪いので捨てたと。すると皆に天罰、呪われたと怒られ。退院後に近くの寺までに行くことになった。
数日様子を見た先生が俺に退院してもいいと言われ退院し、すぐさま家族に連れられ家に帰った。家につくと書き置きが冷蔵庫に張ってあった。Goog◯◯で検索したマップをそのままカラーで出しており。目的地として最寄りの神社に印がついていた。
俺は家族に言われているのでお祓いと言う口上の元、そこへ訪れる。訪れる前に連絡をし、日程を聞いたが向こうから話したい事があると言われ慌てて着替えて向かう。
場所は昔からの神社であり。そこまで大きくはないが周りの住宅からいつもお参り、初詣の参加が多い場所である。俺も何度も訪れた場所であり。一人で訪れたのは初めてだった。いつもは家族と来るのである。
神主である若い人が掃除をしており。俺を見つけると近寄ってくる。ハッキリと今日来るお客を待っていたような雰囲気に頭を下げる。
「こんにちは」
「ああ、こんにちは……写真の通りだ」
「写真?」
「ええ、こちらへ」
神社とは別の家に俺は上げてもらえる。今日あった他人だが。神主はまるで知っているような口振りだった。
そして、神主の奥さんにお茶を出してもらい。一枚のプリントされた写真と手紙を手渡された。写真は俺の寝顔だった。そして……手紙を開ける。そこには丁寧な字でかかれた物だった。
「これは……」
「3日前に境内に人形が2つ置かれていた。呪いの人形とお金と共に手紙がありました」
「……そ、それって待ってください!! 呪いの人形ってこんな人形じゃなかったですか!!」
俺はスマホで彼女のワンピース姿を見せる。すると神主は頷く。
「ええ、そうです。そして……驚きましたね強い呪いでした。長い間、この仕事をしているのでわかります。本物だった」
「呪いなんて……なにも」
「呪いとは悪い物だけを指す言葉が多いですが。呪術では、善き悪し両方を持っています。そして、あの子は後者でした。あれは本当に悲しい人形です」
俺は黙って話を聞く。きっとどこかで封印されているだろうと考える。迎えに行かなくていけない。
「あれは相当の増悪を持った人用に作られています。そして人の心に漬け込むことを知った人形師でした」
「人の心に漬け込む……そんな、嘘だ」
「皆さん、そう言います。あの子はそんな子じゃないと呪いなんてないと。私も心苦しいので、言わずに目を瞑る事も多いです」
「……神主さんはあの人形の事が詳しいんですね」
「はい、詳しいですね。そして、何度も聞いてきました。あの人形の呪いは一つです。持ち主を術者として生気をすいとりゆっくりと殺すための人形なんです」
「……うそだろ……殺すために俺に……そんな素振り……」
俺は頭を抱えた。しかし、神主は俺の考えを否定する。
「いいえ、人形はそんな殺したいとは思っていません。人形として愛でられたい。愛でられるために持ち主のためにあれこれともします。すると、飼い主はその善意にほだされ一緒にいる時間が増えるでしょうね……それが呪いを強めるとしらず」
バンッ!!
「……もしかして。それであいつ!! 教えたんですか!! 何処へ行ったんですか!!」
おれは噛みつくように机を叩き。苛立つまま聞く。
「……あの子はもう。いません……自分の意思で焚きあげられること選びました。呪いを絶つために」
俺はそれを聞き取ると、力が抜け怒りも何処かえと消えてしまう。力なく椅子に座り。頭を抱える。
「そんな、どうして」
「……手紙、読んであげてください。あの子は強い子でした。人を呪うような子ではありません」
「わかってます……わかってます……」
俺は手にもった手紙を握りしめてポロポロと涙を落とすのだった。
*
家に帰る。玄関は鍵がかかっており。明るさもなく。おかえりの声もなく。ただただ静かな玄関だった。
「……」
俺は寝ている間に何もかも知らずに終わってしまった。神主は人形の強い自己犠牲の精神を尊重してくれ。灰だけは残してくれており。そのまま、供養お願いしますと頼んでそのまま帰って来た。
空気が冷たく。あの日々の夢が終わってしまった事を俺は彼女用の衣装棚を見ながら感じる。もう着る事ない服が飾られている。
唐突、唐突に訪れた終わりに……お腹も空かず。ただただ部屋の真ん中でたちつくす。
笑い声や悲鳴、泣き声と怒声にと色んな声が頭に渦巻く。ずっとずっと続いていく。俺が死ぬまでずっと続いていく事と俺は思っていた。
「……」
部屋の真ん中で座り込み。俺は握りしめてクチャクチャの手紙を開ける。
綺麗な字が鉛筆でかかれており。びっしりと文字が書かれていた。
内容は先ず。1枚目は呪いについての謝り、呪いたいわけじゃかったことが書かれていた。本当に後悔とそれ以上に言い訳など。とにかく嫌いにならないでほしい旨が伝わる。
2枚目は人形自身の事を調べ、Goo◯le先生に教えて貰ったことが書かれ……神主の言う人形の話と一緒だった。最後に隠していた事も謝り、今まで覚悟ができない事を謝りだった。
3枚目以降はびっしりと書かれていた毎日の楽しかった事への感謝と愛でてくれた事への嬉しさと好きであった事が字が小さくしてでも書き連ねられ、それでも収まりきらないのか裏面もびっしりと書かれている。そして最後の文字、それを俺は読み、部屋の真ん中で手紙を濡らすのだった。
*
仕事は有給を使い。安静をするなか……大丈夫だと言って仕事をすればよかったなと思う。あまりにも暇な時間が多く。俺は俺でその時間が苦痛に思えた。
衣装など見えない所に移動し、それでも耳に残る変わった口調の声がふと聞こえてきそうな錯覚もあった。
だが、パソコンのファンの音などしか聞こえない。いや、通知音もあった。
「誰から?」
俺は通知先を確認し、最近よく話をする女性がふと変な事を言い出す。
[浜辺、オフ会しよ]
不思議になり何度も何度も、返信するが返答はなく。一枚の画像だけが送られ、それに見覚えのある浜で俺は慌てて車のキーを手にした。
家が近いのは知っていたがオフ会とかの誘いはなかった。それよりもその浜の画像に俺は突き動かされる。
ピロン
画像以外の返信がやっときた。
[愛めでないと呪ちゃうぞ。さぁ早く……待ってる。寒いんじゃ]
高鳴る鼓動に俺は車のドアを荒らしく開け、その女性に会いに行く。何処かまた会えるではないかと淡い気持ちを持って。アクセルを踏んだのだった。
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