1 / 40
1 あったか空間届けます
しおりを挟む
銀河のはずれに住む人々に“あったかい心”を届ける、ちょっと不思議な宅配サービスがある。その名も――星屑宅配便。
12歳の少年ピリカは、相棒のモフルと共に、手作り宇宙船《ミズホ号》で宅配サービスをしている。
モフルはもふもふの毛に包まれた万能系AI。12歳の宇宙宅配員の心強い相棒。ニューファンドランド犬に似ている。しっぽで宇宙船を修理するし、遠距離通信をするときの動作は犬の遠吠えそっくり。
ある日、辺境の惑星「ココロ星」から奇妙な依頼が届く。
〔おんせんを、とどけてください〕
おんせん? 温泉? でも、それって……空間だよね? 宇宙でどうやって運ぶの!?
「ねぇモフル、温泉って、どうやって宇宙に持っていくんだろう?」
「湯気ごと冷凍便にするか? てか、ピリカ、お前また“ノリ”だけで受けただろ」
「きっと、すごく、すごく寒い星なんだと思う。だから、お湯じゃなくて、“あったかい気持ち”を届けよう」
モフルに突っ込まれつつも、ピリカは前向き。
材料集めは一苦労。火山星で湯気石を採り、時にはモフルの毛で保温材を作ったり。
「ちょ、勝手に毛を切るな! これ自然素材じゃないからな!」
宇宙のあちこちから素材を集め、レッカ9番星・氷星の、技術者のおばあさんに“温泉カプセル”を組み立ててもらうことにお願いした。
「温泉カプセルを作りたいってのはあんたかい?
子どもに見えるけどいくつなんだい?」
技術者のおばあさんは、工房に来たピリカに聞いた。
「12歳です」
「で、宇宙宅配員やってるって?
児童労働じゃないか。子どもとしての時間を犠牲にしてるね。親は何をしてるんだい!?」
「……いません」
「え? あ!! あんたの名前って、ピリカ・ミズホだったね。
ミズホ博士って、有名な科学者がいたけど、それって、もしかして……」
「僕の両親です」
「遠い星へ調査に出かけたまま、連絡が途絶えたんだよね。
確か2年前くらいだったよね。事故だろうって言われてたけど……」
「……生きてます、二人は。この宇宙のどこかで。僕は信じてます!
両親は一通のデジタルメッセージと、小さな宇宙船を遺していました。
僕はそれを改造し、宅配の仕事をしながら宇宙をめぐり、両親の行方を探しているんです」
携帯式“心の温泉”ユニットが完成した。
カプセルの中には、地球産の鉱石、湯気の出るミニ湯けむり装置、ぽかぽかの足湯スペース、そして何より、彼自身の「届けたい」という気持ちがこもっていた。
「ご両親にと会えるといいね。これ、持っていきな」
おばあさんは熱々の焼き芋を2本くれた。
「わぁ! これ僕の大好物。ありがとうおばあさん」
「元気でね」
「おばあさんもお元気で」
ピリカの“星屑宅配便”は飛び立った。お金を稼ぐため、そして両親の痕跡をたどるため。
〔ピリカ、もし私たちに何かあったら――この船に乗って、“心の声を聞く旅”をして。あなたなら、できる〕
両親は宇宙船とともに遺したメッセージでそう告げていた。
「二人はどこかで生きている。だから、届けながら探すんだ」
配送船《ミズホ号》は小型だが、居心地のよい居住スペースにはちゃぶ台、モフルの専用クッションなどがある多目的型。
焼き芋を食べたあと、ピリカは移動時間にルーティンのオンライン学習。モフルはアップデートという名のお昼寝をしていた。
モフルと出会ったのは、1年半前。
ピリカが星屑宅配便を始めて、半年経った頃だった。
とある辺境の宇宙廃墟惑星〈アマポラ〉で、ピリカは物資調達中に、不思議な郵便受けを見つけた。
中には、丸まった大きな黒い毛玉。ピリカがそっと手を伸ばすと、それがムクっと動いた。
「モフッ!? だれだ、おれの午睡をじゃまする奴は──!」
「わあ! しゃべった! もふもふが!」
「もふもふ言うな。おれは高機能生体アシスタント型第12号、愛称モフル!」
実はモフルは、昔この星にあった郵便管理システムの中核AIだった。
星の衰退とともに役目を失い、ひとりぼっちで郵便を待ち続けていたのだった。
「なあ、ピリカはなんで配達なんかしてんだ?」
「届けたいものがあるんだ。それは荷物だけじゃなくて……。
ほんとは、会いたい人がいるだけなんだけど」
「……ふーん」
その日の夜、ピリカが出発しようとしたとき。宇宙船の荷室に、こっそり潜り込んだ毛玉がいた。
「おれ、ついてってやるよ。おれ、まだ届けたことないんだよ」
「え?」
「つまり、“あったかい心”ってやつさ。おれも、それ、届けてみたくなった」
こうしてこうして、配送少年と元郵便AIのもふもふ旅がはじまった。
ココロ星に着いたピリカとモフルが出会ったのは、100年間ひとりで過ごしてきた古いロボットのソル。誰かが来る日を、じっと待っていたのだった。
感情はないはずだが、どこか寂しげだった。
「……ワタシ、ここで、ずっと、おるすばん。さむかった。さみしかった。……来てくれて、ありがとう」
ピリカとモフルは、湯けむりの出る温泉ユニットを設置した。ソルはその中心にぽつんと座る。
「ワタシ、あたたかい、ということ、わかるような、気がします……」
ロボットのボディに湯けむりが映り、蒸気に包まれたその場所で、ピリカは一緒に足湯につかる。
ソルも一緒に旅をすることになった。
その夜、ミズホ号のちゃぶ台で、三人は一緒にスープをすする。
「こういうのも、配達のうちかな」
「配達っていうか、もはや合宿だろ」
モフルの体がふわりとピリカの背中にかかる。あったかい。心も、体も。
ミズホ号のログに、新たな記録が追加された。
「配達完了:おんせん(心あたたまる気持ちつき)」
今日もお届け完了――あったかいもの、ちゃんと届いたよ
12歳の少年ピリカは、相棒のモフルと共に、手作り宇宙船《ミズホ号》で宅配サービスをしている。
モフルはもふもふの毛に包まれた万能系AI。12歳の宇宙宅配員の心強い相棒。ニューファンドランド犬に似ている。しっぽで宇宙船を修理するし、遠距離通信をするときの動作は犬の遠吠えそっくり。
ある日、辺境の惑星「ココロ星」から奇妙な依頼が届く。
〔おんせんを、とどけてください〕
おんせん? 温泉? でも、それって……空間だよね? 宇宙でどうやって運ぶの!?
「ねぇモフル、温泉って、どうやって宇宙に持っていくんだろう?」
「湯気ごと冷凍便にするか? てか、ピリカ、お前また“ノリ”だけで受けただろ」
「きっと、すごく、すごく寒い星なんだと思う。だから、お湯じゃなくて、“あったかい気持ち”を届けよう」
モフルに突っ込まれつつも、ピリカは前向き。
材料集めは一苦労。火山星で湯気石を採り、時にはモフルの毛で保温材を作ったり。
「ちょ、勝手に毛を切るな! これ自然素材じゃないからな!」
宇宙のあちこちから素材を集め、レッカ9番星・氷星の、技術者のおばあさんに“温泉カプセル”を組み立ててもらうことにお願いした。
「温泉カプセルを作りたいってのはあんたかい?
子どもに見えるけどいくつなんだい?」
技術者のおばあさんは、工房に来たピリカに聞いた。
「12歳です」
「で、宇宙宅配員やってるって?
児童労働じゃないか。子どもとしての時間を犠牲にしてるね。親は何をしてるんだい!?」
「……いません」
「え? あ!! あんたの名前って、ピリカ・ミズホだったね。
ミズホ博士って、有名な科学者がいたけど、それって、もしかして……」
「僕の両親です」
「遠い星へ調査に出かけたまま、連絡が途絶えたんだよね。
確か2年前くらいだったよね。事故だろうって言われてたけど……」
「……生きてます、二人は。この宇宙のどこかで。僕は信じてます!
両親は一通のデジタルメッセージと、小さな宇宙船を遺していました。
僕はそれを改造し、宅配の仕事をしながら宇宙をめぐり、両親の行方を探しているんです」
携帯式“心の温泉”ユニットが完成した。
カプセルの中には、地球産の鉱石、湯気の出るミニ湯けむり装置、ぽかぽかの足湯スペース、そして何より、彼自身の「届けたい」という気持ちがこもっていた。
「ご両親にと会えるといいね。これ、持っていきな」
おばあさんは熱々の焼き芋を2本くれた。
「わぁ! これ僕の大好物。ありがとうおばあさん」
「元気でね」
「おばあさんもお元気で」
ピリカの“星屑宅配便”は飛び立った。お金を稼ぐため、そして両親の痕跡をたどるため。
〔ピリカ、もし私たちに何かあったら――この船に乗って、“心の声を聞く旅”をして。あなたなら、できる〕
両親は宇宙船とともに遺したメッセージでそう告げていた。
「二人はどこかで生きている。だから、届けながら探すんだ」
配送船《ミズホ号》は小型だが、居心地のよい居住スペースにはちゃぶ台、モフルの専用クッションなどがある多目的型。
焼き芋を食べたあと、ピリカは移動時間にルーティンのオンライン学習。モフルはアップデートという名のお昼寝をしていた。
モフルと出会ったのは、1年半前。
ピリカが星屑宅配便を始めて、半年経った頃だった。
とある辺境の宇宙廃墟惑星〈アマポラ〉で、ピリカは物資調達中に、不思議な郵便受けを見つけた。
中には、丸まった大きな黒い毛玉。ピリカがそっと手を伸ばすと、それがムクっと動いた。
「モフッ!? だれだ、おれの午睡をじゃまする奴は──!」
「わあ! しゃべった! もふもふが!」
「もふもふ言うな。おれは高機能生体アシスタント型第12号、愛称モフル!」
実はモフルは、昔この星にあった郵便管理システムの中核AIだった。
星の衰退とともに役目を失い、ひとりぼっちで郵便を待ち続けていたのだった。
「なあ、ピリカはなんで配達なんかしてんだ?」
「届けたいものがあるんだ。それは荷物だけじゃなくて……。
ほんとは、会いたい人がいるだけなんだけど」
「……ふーん」
その日の夜、ピリカが出発しようとしたとき。宇宙船の荷室に、こっそり潜り込んだ毛玉がいた。
「おれ、ついてってやるよ。おれ、まだ届けたことないんだよ」
「え?」
「つまり、“あったかい心”ってやつさ。おれも、それ、届けてみたくなった」
こうしてこうして、配送少年と元郵便AIのもふもふ旅がはじまった。
ココロ星に着いたピリカとモフルが出会ったのは、100年間ひとりで過ごしてきた古いロボットのソル。誰かが来る日を、じっと待っていたのだった。
感情はないはずだが、どこか寂しげだった。
「……ワタシ、ここで、ずっと、おるすばん。さむかった。さみしかった。……来てくれて、ありがとう」
ピリカとモフルは、湯けむりの出る温泉ユニットを設置した。ソルはその中心にぽつんと座る。
「ワタシ、あたたかい、ということ、わかるような、気がします……」
ロボットのボディに湯けむりが映り、蒸気に包まれたその場所で、ピリカは一緒に足湯につかる。
ソルも一緒に旅をすることになった。
その夜、ミズホ号のちゃぶ台で、三人は一緒にスープをすする。
「こういうのも、配達のうちかな」
「配達っていうか、もはや合宿だろ」
モフルの体がふわりとピリカの背中にかかる。あったかい。心も、体も。
ミズホ号のログに、新たな記録が追加された。
「配達完了:おんせん(心あたたまる気持ちつき)」
今日もお届け完了――あったかいもの、ちゃんと届いたよ
0
あなたにおすすめの小説
君を探す物語~転生したお姫様は王子様に気づかない
あきた
恋愛
昔からずっと探していた王子と姫のロマンス物語。
タイトルが思い出せずにどの本だったのかを毎日探し続ける朔(さく)。
図書委員を押し付けられた朔(さく)は同じく図書委員で学校一のモテ男、橘(たちばな)と過ごすことになる。
実は朔の探していた『お話』は、朔の前世で、現世に転生していたのだった。
同じく転生したのに、朔に全く気付いて貰えない、元王子の橘は困惑する。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~
双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。
なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。
※小説家になろうでも掲載中。
※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる