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2 あったか小包と、とおくの星へ
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銀河のはずれに住む人々に“あったかい心”を届ける、ちょっと不思議な宅配サービスがある。その名も――星屑宅配便。
12歳の少年ピリカは、相棒のモフルと、そして新たに加わったロボットのソルと共に、手作り宇宙船《ミズホ号》で宅配サービスをしている。
モフルはもふもふの毛に包まれた万能系AI。12歳の宇宙宅配員の心強い相棒。ニューファンドランド犬に似ている。しっぽで宇宙船を修理するし、遠距離通信をするときの動作は犬の遠吠えそっくり。
その日、ミズホ号が立ち寄ったのは、風のなだらかな音が流れる、落ち着いた農耕星〈オルオリ〉。
ピリカたちに依頼をくれたのは、畑のそばにある一軒家に暮らす女性・リネおばさんだった。
「あら……まぁ、あなたが……」
リネおばさんは、集荷に、子どもが黒い超大型犬とブリキの人型ロボットと来たので、驚いた表情を浮かべた。
「はい、ピリカ。宇宙宅配便の配達員です!」
ぴしっと胸を張るピリカに、リネおばさんはふっと微笑んだ。
「なんだか……うちの子が小さかった頃を思い出すわ」
そう言って、あたたかい麦茶と手作りのクッキーを差し出してくれる。
やさしい声。包み込むような笑顔。ほんのり焼けたクッキーのにおい。
───ピリカは、一瞬、ずっと会えていない自分のお母さんに再会したような気がした。
「……息子に、小包を送りたいの。とおくの〈ノヴァリス〉に行って、もう何年も帰ってこなくて……」
「これはね、お味噌。自家製よ。風邪をひかないようにって」
「こっちは、息子の好きだった干し柿。あの子、よく木に登って……」
「それから、あたたかい手袋。編んだの、ヘタだけど」
ピリカは、小包をていねいにミズホ号に運んだ。
長い航路を越え、ミズホ号がたどり着いたのは、機械都市〈ノヴァリス〉。コンクリートと蒸気が立ちのぼる、無機質な星だった。
届け先は、整備工場で働く青年・ユーリ。
オイルまみれの作業服に、無精ひげ。けれど、目はやさしかった。
「……オルオリから?」
ピリカが手渡した包みを受け取った彼は、無言で一つひとつ、包みを開いていった。
干し柿を見て、口角がすこしゆるむ。
味噌の香りをかいで、目を閉じる。
手袋を手にとって、ぎゅっと握る。
「……母さん」
小さくつぶやいた声に、ピリカの胸がじんわりとあたたまった。
(荷物じゃない。想いが届いたんだ)
「届けにきてくれて、ありがとう」
「お母さん、元気でしたよ」
「そっか……それが一番だな」
帰り道、ミズホ号の中でピリカはノートを広げた。
「届けたのは小包だけど、入っていたのは“あったかさ”だった」
「ワタシも、あの手袋、すこし欲しかった、です」とソル。
「おれは干し柿がよかったな~」とモフル。
ピリカは、そっとつぶやいた。
「……お母さん、今どこにいるのかなぁ」
そして最後に、ノートにこう書いた。
“とどけ、小さな箱にいっぱいのぬくもり。”
《配達完了:あったかさ(おとどけ先は、心の奥)》
今日も、届けてきました。だいじな想いと、大きなぬくもりを。
________________________________________
ある日、ミズホ号の通信機に、ぴこりと明るい音が鳴った。
「……差出人は、オルオリ星、リネさん」
ソルが読み上げると、ピリカは思わず身を乗り出した。
「また集荷の依頼かな?」
「今回は……、ミズホ号、乗組員あての、小包です」
――─まるで、家から届いた荷物のような包みに、三人はいつになくそわそわしていた。
〈オルオリ〉の空気がまだふんわり残る、やわらかい布包みをほどくと、その中には、手紙と小さな包みが3つ。
「ピリカちゃんへ」
やさしい色合いの毛糸で編まれた、ふんわりしたマフラー。
〔寒い星にも行くことがあるでしょう? あなたの首元が冷えないようにね〕
やさしい手紙に、ピリカは目をぱちぱちとさせたあと、ぎゅっとマフラーを抱きしめた。
「ソルさんへ」
ちょっと不思議な形の手編みの腹巻。
ソルはそれを巻いて「ワタシ、あたたかい、ということ、わかるような、気がします……」
「モフルくんへ」
〔モフルくんは手編みのものは不要だと思ったので、ひまわり型の香り付きクッションです〕
「おれ、これ……好き」
照れ隠しに鼻をすんすん鳴らす。ほんのりぽかぽかで、モフルの好きなバタークッキーの香りがした。
そして、小包の底には、やっぱりあった。
干し柿が3つ。
それぞれ、ひとつずつ受け取り、包み紙を開く。果肉はとろりと甘く、星の光を受けて少し透けている。
「おいしい……」
「モフモフ!」
「……あったかいです」
ミズホ号の中、窓の向こうを星々が流れてゆくなかで、三人はしばらく無言のまま、干し柿をかみしめていた。
ピリカは、ノートにこう書いた。
“あったかい、おすそ分け。
僕もできる人になりたいな”
《配達完了:ぬくもり(とどけ先は、宇宙船のまんなか)》
今日、届きました。大きなぬくもりのおすそ分け。
12歳の少年ピリカは、相棒のモフルと、そして新たに加わったロボットのソルと共に、手作り宇宙船《ミズホ号》で宅配サービスをしている。
モフルはもふもふの毛に包まれた万能系AI。12歳の宇宙宅配員の心強い相棒。ニューファンドランド犬に似ている。しっぽで宇宙船を修理するし、遠距離通信をするときの動作は犬の遠吠えそっくり。
その日、ミズホ号が立ち寄ったのは、風のなだらかな音が流れる、落ち着いた農耕星〈オルオリ〉。
ピリカたちに依頼をくれたのは、畑のそばにある一軒家に暮らす女性・リネおばさんだった。
「あら……まぁ、あなたが……」
リネおばさんは、集荷に、子どもが黒い超大型犬とブリキの人型ロボットと来たので、驚いた表情を浮かべた。
「はい、ピリカ。宇宙宅配便の配達員です!」
ぴしっと胸を張るピリカに、リネおばさんはふっと微笑んだ。
「なんだか……うちの子が小さかった頃を思い出すわ」
そう言って、あたたかい麦茶と手作りのクッキーを差し出してくれる。
やさしい声。包み込むような笑顔。ほんのり焼けたクッキーのにおい。
───ピリカは、一瞬、ずっと会えていない自分のお母さんに再会したような気がした。
「……息子に、小包を送りたいの。とおくの〈ノヴァリス〉に行って、もう何年も帰ってこなくて……」
「これはね、お味噌。自家製よ。風邪をひかないようにって」
「こっちは、息子の好きだった干し柿。あの子、よく木に登って……」
「それから、あたたかい手袋。編んだの、ヘタだけど」
ピリカは、小包をていねいにミズホ号に運んだ。
長い航路を越え、ミズホ号がたどり着いたのは、機械都市〈ノヴァリス〉。コンクリートと蒸気が立ちのぼる、無機質な星だった。
届け先は、整備工場で働く青年・ユーリ。
オイルまみれの作業服に、無精ひげ。けれど、目はやさしかった。
「……オルオリから?」
ピリカが手渡した包みを受け取った彼は、無言で一つひとつ、包みを開いていった。
干し柿を見て、口角がすこしゆるむ。
味噌の香りをかいで、目を閉じる。
手袋を手にとって、ぎゅっと握る。
「……母さん」
小さくつぶやいた声に、ピリカの胸がじんわりとあたたまった。
(荷物じゃない。想いが届いたんだ)
「届けにきてくれて、ありがとう」
「お母さん、元気でしたよ」
「そっか……それが一番だな」
帰り道、ミズホ号の中でピリカはノートを広げた。
「届けたのは小包だけど、入っていたのは“あったかさ”だった」
「ワタシも、あの手袋、すこし欲しかった、です」とソル。
「おれは干し柿がよかったな~」とモフル。
ピリカは、そっとつぶやいた。
「……お母さん、今どこにいるのかなぁ」
そして最後に、ノートにこう書いた。
“とどけ、小さな箱にいっぱいのぬくもり。”
《配達完了:あったかさ(おとどけ先は、心の奥)》
今日も、届けてきました。だいじな想いと、大きなぬくもりを。
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ある日、ミズホ号の通信機に、ぴこりと明るい音が鳴った。
「……差出人は、オルオリ星、リネさん」
ソルが読み上げると、ピリカは思わず身を乗り出した。
「また集荷の依頼かな?」
「今回は……、ミズホ号、乗組員あての、小包です」
――─まるで、家から届いた荷物のような包みに、三人はいつになくそわそわしていた。
〈オルオリ〉の空気がまだふんわり残る、やわらかい布包みをほどくと、その中には、手紙と小さな包みが3つ。
「ピリカちゃんへ」
やさしい色合いの毛糸で編まれた、ふんわりしたマフラー。
〔寒い星にも行くことがあるでしょう? あなたの首元が冷えないようにね〕
やさしい手紙に、ピリカは目をぱちぱちとさせたあと、ぎゅっとマフラーを抱きしめた。
「ソルさんへ」
ちょっと不思議な形の手編みの腹巻。
ソルはそれを巻いて「ワタシ、あたたかい、ということ、わかるような、気がします……」
「モフルくんへ」
〔モフルくんは手編みのものは不要だと思ったので、ひまわり型の香り付きクッションです〕
「おれ、これ……好き」
照れ隠しに鼻をすんすん鳴らす。ほんのりぽかぽかで、モフルの好きなバタークッキーの香りがした。
そして、小包の底には、やっぱりあった。
干し柿が3つ。
それぞれ、ひとつずつ受け取り、包み紙を開く。果肉はとろりと甘く、星の光を受けて少し透けている。
「おいしい……」
「モフモフ!」
「……あったかいです」
ミズホ号の中、窓の向こうを星々が流れてゆくなかで、三人はしばらく無言のまま、干し柿をかみしめていた。
ピリカは、ノートにこう書いた。
“あったかい、おすそ分け。
僕もできる人になりたいな”
《配達完了:ぬくもり(とどけ先は、宇宙船のまんなか)》
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