星屑宅配便 ~あったかいもの、お届けします~

真田奈依

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3 さかさまの街にまっすぐな手紙

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 銀河のはずれに住む人々に“あったかい心”を届ける、ちょっと不思議な宅配サービスがある。その名も――星屑宅配便。
 12歳の少年ピリカは、相棒のもふもふのAIモフルと、ロボットのソルと共に、手作り宇宙船《ミズホ号》で宅配サービスをしている。アップデートしている時は、お昼寝しているように見える。




 銀河第六ルート、コリドー彗星帯のそばを航行中、宙にぽつんと浮かぶ小さな郵便ポッドを見つけた。
〔あの子に、まっすぐな気持ちを届けたい。
だけど、うまく言えない。
あなたなら、代わりに伝えてくれますか?〕

「これ、届けに行こう」
 ピリカは手のひらに乗るほどのポッドを抱えながら言った。
「モフル、航路は?」
「行き先は……逆さま星〈ウプサラ〉。
 重力、逆転してるから注意だな。床が天井だぞ」
 モフルはもふもふの毛に包まれた万能系AI。12歳の宇宙宅配員の心強い相棒だった。ニューファンドランド犬に似ている。しっぽで宇宙船を修理するし、遠距離通信をするときの動作は犬の遠吠えそっくり。

「つまり天井が床? ……ってことは、落ちたら空の底?」
「おれの毛、全部逆立つかもしれん……」
 モフルがもふもふの体毛を揺らしながら言う。
「……ワタシの体、重力反転に、耐えられるかな」
 130年前に製造されたブリキのロボットのソルが、機械音で首をかしげる。
「みんなで、気をつけて行こ!」



 ウプサラ星に降り立つと、ピリカたちはすぐに重力の異変を感じた。
「ぼ、僕……浮いてる!?  いや、落ちてる!? どっち!?」
 そこは、まるで空に張りついたような街だった。
 建物が“空”にぶら下がり、人々は地面ではなく天井のような空を歩いていた。
 ピリカたちも専用の重力ブーツを履いて、逆さまの街を訪ねていく。
 
 やっとポッドの宛先の家にたどり着いた。
「こんにちはー! 星屑宅配便でーす!」
 郵便受けは、やっぱり逆さ。ポストに手紙を入れようとして、ピリカは宙をくるり。
「おっとっと……あれ? この家、誰もいないみたい」
「待って、反応が、あります」
 ソルのセンサーが、家の奥を指した。

 そこにいたのは、銀髪の少女だった。空の逆さまのブランコで、ぼんやり揺れていた。
「……だれ?」
「お手紙、届けにきました。えっと…… “まっすぐな気持ち”を伝えてほしいって」
「まっすぐって、なに? この星では全部ひっくり返っちゃう。想いだって、重さに負けるよ」
 少女は首をかしげた。

 少女が封を開けると、中には、文字が書かれていなかった。
 折り紙の花と、ホログラム記憶のチップだけが入っていた。
「手紙……じゃないの?」
「ホログラム、再生します」とロボットのソル。
 手のひらサイズのホログラムに映し出されたのは、幼い少女と年上の少年が、逆さの空でブランコに乗って笑い合う映像だった。
 少女は目を丸くして言った。
「……お兄ちゃんだ。旅に出たまま、戻ってこなくて……」

 ───その星では、長く宇宙港が封鎖されていた。家族はみな外へ出て行き、少女だけが残されていたのだ。
「たぶんこの手紙は、“まっすぐな言葉”じゃなくて、“まっすぐな気持ち”を届けたかったんだと思う。だから、文字じゃなかったんだね」
 ブランコを見つめていたピリカが言った。
「おれもそう思う。重力は逆でも、心は逆にならないさ。だれかを想う気持ちは……いつだって、まっすぐだ」
 モフルが、ふわっと飛んで逆さまのブランコを揺らす。
 少女はしばらく無言で映像を見つめていたが、やがてぽつりと言った。
「うん……ありがとう。ちゃんと届いた。気持ち、まっすぐに」
 少女は、目に涙を浮かべて笑った。




 帰り道、ミズホ号にて。
「今回の配達、手紙の中身は、“言葉”、じゃなかった、ですね」とソル。
「でも、心のこもった荷物だったね」とピリカ。
「伝わるものは、文字じゃなくて気持ち。もふもふしたやつ」
 モフルがソルの背中にくっついた。
「……あったかいです」
 ふわふわ、ぐるぐる、ゆらゆら。
 今日もミズホ号は、ひっくり返った世界のどこかへ――
“まっすぐなもの”を、まっすぐに届けるために旅を続ける。



 ミズホ号の航行記録に、新たなログが刻まれる。
《配達完了:てがみ(心あたたまる気持ちつき)》
 まっすぐな想いは、ちゃんと届いた。
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