星屑宅配便 ~あったかいもの、お届けします~

真田奈依

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5 まどろみ過ぎた星の目覚まし便

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 銀河第十八ルート、ぐっすり眠る星〈ウート〉への航路は、ゆっくりとした回転のせいで、まるで時間まで眠っているようだった。
「今回は“寝すぎて困ってる星”らしいよ」
 ピリカが通信パネルを覗きながら言うと、相棒のモフルが「うらやましい星だな~」と、もふもふの毛を揺らしてあくびをした。
 12歳の少年ピリカは、宇宙宅配員の仕事をしていた。両親はともに科学者で、遠い星へ調査に出かけたまま連絡が途絶えている。ピリカは自分の存在を届けるように、今日も遠くの誰かに荷物を届ける。
 眠ることで アップデートする、ふわふわの毛に包まれた万能系AIのモフル。ニューファンドランド犬に似ている。そしてもう一人の仲間は、ブリキの人型ロボットのソル。



「今回の配達物、開封します」
 ソルが慎重にコンテナを開けると、なかにはきらびやかな目覚まし時計が入っていた。ひとつひとつが星型や太陽型をしていて、音色のパターンが無数にあるようだった。
「差出人は“メッセンジャー・カナタ”……あ、前に夢を届けた人だ!」
 ピリカは目を見張った。前回、ノルネ星に“眠り”を届けたときの依頼人と同じ名前だった。
〔ウートへ。朝の訪れを届けます。心地よい目覚めで、今日を始められますように〕
「眠れない星の次は、眠り過ぎる星……バランスって大事なんだな」
      
 ウート星に着陸すると、空気全体がまどろんでいるようだった。ピリカたちは、草原のような柔らかな大地をそっと踏みしめて降り立つ。
「……ここ、本当に誰も起きてないの?」とピリカ。
「音も少ない。風も寝てるみたいだ」
 モフルがぴょこんと耳をすます。
 遠くで、かすかにいびきのような地鳴りが聞こえた。すると、地面に埋もれるように小さな端末が光った。
「……配達員さま……ごくろうさまです……」
 端末から聞こえた声は、星の意識そのものだった。ウートは、かろうじて目覚めた意識の断片を保っていた。
「わたし、眠るのが好きすぎて……気がついたら、何百年も寝てしまって……」
「ちょっと起きたいんですね?」
「ええ……本当は、空の色をまた見たいんです。でも、ひとりで起きるのは、こわいの……」
 ピリカは、星の中心に向かう大地にそっと目覚まし時計を置いた。
「大丈夫。ゆっくりでいいんです。今日、ほんの少し目を覚ますお手伝いに来ました」
 ピリカがそう言って、目覚まし時計のタイマーを起動する。
 やがて、星中に響く心地よい音楽が始まった。
 それは、まるで朝日のような音——
 空にゆっくり色が戻り始め、やさしい風が吹き始める。
「……これが……朝……? ああ、こんなにもやさしいものだった……」
 ウートの声が、少しだけ力を帯びてきた。
      
 出発の準備をしていたとき、ふたたび通信が入った。
「ピリカ……ありがとう。わたし……夢ばかり見ていて、大事なことを忘れていたみたい。
 目が覚めるって、少しこわいけど、楽しいこともあるんですね」
「うん。起きてみたら、見えるものもあるよ。いつでもまた、“朝”を届けるよ」
「……それまで、少しずつ目覚めてみる。また来てくれる?」
「もちろん」      
 宇宙船ミズホ号が再び宙を舞う。



「ちょっとだけ眠くなってきた……」
 ピリカはそっと目を閉じた。
「寝てて、いいです。次の星、までは、ワタシが、航行します」
 ソルが優しく言う。
「うん……モフル、毛布貸して」
「もふもふ毛サービス中~」
「モフル、眠りすぎてる時の目覚ましって、なんだと思う?」
「もふもふの抱き枕じゃないことは確かだね~」
 ピリカはくすっと笑いながら、遠くに浮かぶ次の星を見つめた。
 
 彼はこれからも、だれかの「夢」や「目覚め」を、まっすぐに届けにいく。
 宇宙船ミズホ号に、あったかい気持ちと、やさしさを載せて。
 ───星屑宅配便は、止まらない。 


 ミズホ号の航行記録に、新たなログが刻まれる。
《配達完了:星のモーニングコール(まごころの音色つき)》
 まどろみの星が、やっと目を覚ました。
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