星屑宅配便 ~あったかいもの、お届けします~

真田奈依

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22 お取り寄せ、ぬくもり便

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 ユグリ星――
 そこは、森もない、街もない、ほとんど訪れる人もいない、ひっそりとした星だった。
 けれどピリカは、小さな依頼を受けていた。
〔届けてください。“あったかい心”を、ひとつ〕

「えーっと……届け先は、ユグリ星・ナギさん」
 今日の配達先は、ひとり暮らしの星だった。
 ユグリ星は、いつも静かで、風もあまり吹かない。
 星の中心にぽつんとある家に、ピリカは荷物を運んだ。
「こんにちは! 宇宙宅配、ぬくもり便でーす!」
 ピリカが声をかけると、すぐに扉が開いた。
 中から出てきたのは、やせっぽちで、メガネの青年。ナギさんだった。
 きちんとした服を着ていたけれど、どこか、毎日それを着て待っていたような、そんな雰囲気だった。
「……君が、届けてくれる人?」
「はいっ! これ、おとどけです! “あったかい心”のお取り寄せですね!」
 ピリカはにっこり笑って、ていねいに包まれた小箱を手渡した。

「わ……本当に来てくれたんだ……」
 彼の手は少しふるえていた。おそるおそる箱を開ける。
 中に入っていたのは、毛糸のポーチと、ころんと丸い、たまごのようなものが入っていた。
「これは何?」
「“お湯たまご”。ぬくもりを届けるために開発された、ほんのり温かい、まるい携帯型ヒーターです」
 ピリカは、お湯たまごをナギの手にそっとのせた。
 じんわり、やさしいぬくもりが伝わってくる。
「これ……ちゃんと、ぬくもりがある」
 ナギは目を細める。

 ポーチには小さな手紙の束が入っていた。
「手紙……?」
「はいっ。“心があったかくなる言葉”を集めたものなんです。
 星のあちこちから集まった、おすそ分けのことばです」
 ナギはひとつ手紙を取り出して読んだ。
〔今日は、ちゃんとお昼たべた? わたしはパンケーキにしたよ〕
 ――見えない友だち・匿名

 ナギは、ふっと目を伏せ、ポーチをぎゅっと握った。
「ずっと独りで……。誰も、こんなふうに声かけてくれないけど」
 ナギは、しずかに言った。
「でも、これを読んでる間だけは……誰かがぼくを思ってくれてる気がする。
 ……あったかい心って、ほんとに届くんだね」



 帰り際、ナギが小さくつぶやいた。
「……ぼくも誰かに、こんなふうに手紙を書いてみようかな」
「うん! それ、すっごくいいです。
 そしうしたら、もらった人がまた、誰かに分けてあげられるんです!」
「ぼくも……誰かに分けられるかな」
「きっとできます。だって今、そのお湯たまご、ちゃんとあったかいもん」




 その夜、ピリカたちはミズホ号のちゃぶ台で、温かいスープを飲んでいた。
 ふと、ピリカは思った。
「“あったかい心”って、手紙でも、お湯たまごでも、スープの匂いでも――どこにだって、ちゃんとあるんだね」
「はい。ときどき、お取り寄せ、してみるのも、いいですね」
 とソルがうなずいた。
「ピリカの声も、あったかいよ」
 モフルが言って、ピリカはちょっと照れくさそうに笑った。



《配達完了:ぬくもり(とどけ先は、さみしさのすき間)》
 今日も、届けてきました。ひとりで過ごす心に、ささやかなあたたかさを。
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