星屑宅配便 ~あったかいもの、お届けします~

真田奈依

文字の大きさ
23 / 40

23 お湯たまごラッシュ!

しおりを挟む
「星屑宅配便で~す! あったかい“お湯たまご”、お届けに来ました!」
 ――とある日を境に、ミズホ号はてんてこまいの大忙しになった。
 きっかけは、寒冷の星〈ユキシロ〉で紹介された“お湯たまご”の便利さとやさしさ。
 “お湯たまご”は、ぬくもりを届けるために開発された、ほんのり温かい、まるい携帯型ヒーターのようなアイテム。見た目はたまご型で手のひらサイズ。
 ほわんとしたぬくもりが手のひらを包み、まるで心までぽかぽかしてくる。
 ひとつ手にすれば、離れて暮らす家族や、職場で忙しい誰かにもあげたくなる。



 🥚 お湯たまご ― その正体と使い方
 • 名前の由来:
  お湯のように「じんわりあたたかい」+「たまご」のようにまるくてやわらかい形状から。
 • 機能:
  手で包むと優しくあたたまり、熱を保ちます。体温のようなやさしい温度。電源なしで6~8時間ほどぬくもりをキープ可能。
 • 使い方:
  ポケットに入れたり、ベッドに忍ばせたり、手を温めたり――人それぞれ。
  寒い宇宙船の中や、ひとりぼっちの夜、心細いときにぎゅっと握ると、気持ちが落ち着く。
 • 感触:
 外装は少しだけやわらかく、握ると「ぷにっ」と反応する。触感にも癒やし効果あり。



「これ、“お湯たまご”って言うんだってさ」
「まさに〈お取り寄せぬくもり便〉にぴったりのアイテムなんですよね。
 寒い星に住んでいたり、誰かのぬくもりを恋しく思っている人には特に重宝されていて――」
 中には、「大切な人とおそろいで持つ」なんて人もいます。遠く離れていても、同じ‘お湯たまご’を握っていると思うと、少しだけ心が近くなる。そんなふうに使われているケースも。
「これ、わたしの母にも……」
「転勤したあの人に、そっと贈りたいんです」
 そんな声が次々と届き、注文はうなぎのぼり。
 ミズホ号の乗組員たちは朝から晩まで“お湯たまご”便の対応に追われていた。



「もう、届け先が山ほどあるぞ……おれたち、三人で大丈夫か?」
 モフルが背中のもふもふの毛を逆立てながらパネルに表示された配達リストを見つめる。
「ワタシたちの、対応では、24時間シフトでも……間に合わない、かもしれません」
 ソルも、ぴっぴっぴっと計算しながらつぶやく。
「でも……届けたいんだよ、あったかい気持ち。だって、それを待ってる人がいるんだもん」
 ピリカは頬を赤くしながら、いつもよりぎゅっと荷物を抱えた。




 その日の便のひとつに、ちょっと変わった依頼があった。
 星を出たばかりの青年から、実家に暮らす“年の離れた弟”へ贈る“お湯たまご”だが、届け先に着いたピリカは驚く。
「……ご家族、じゃないんですか?」
 玄関先に出てきたのは、おばあさん一人。青年の名前を伝えると、彼女はふっと目を伏せた。
「あの子は……小さいころ、うちに一時だけ預けられていたの。血のつながりはないけどね。でもね……あたしは、今でも孫みたいに思ってるのよ」
 ピリカは、そっとお湯たまごをおばあさんの手に乗せる。
「たぶん、その気持ち……ちゃんと届いてます」
 あたたかいお湯たまごを見つめながら、涙をこぼすおばあさん。
 その姿に、ピリカも胸の奥がきゅっとなる。




 その夜、ミズホ号のちゃぶ台には、久しぶりにゆっくりした時間が流れていた。
「いそがしかったけど……でも、あったかかったね、今日」
 ピリカがつぶやくと、モフルが「おれは、ちょっと暑かったぞ」と照れ隠しのように笑った。


《配達完了:お湯たまご(物理的な暖かさと、心のぬくもりの象徴)》
 ――今日も、どこかで誰かが、ぬくもりを待っている。





 🥚 小さな後日談:〈ぬくもりは、まだ冷めていない〉


 数日ぶりにミズホ号のスケジュールに、ぽっかりと空白の時間ができた。
 ピリカは荷物を持たず、ひとりで宇宙港の休憩所を歩いていた。
 ホールの片隅にあるベンチに腰掛けると、ふいに聞き覚えのある声がした。
「あっ……あの時の配達のお兄ちゃん!」
 見ると、かつて届け先だった〈ユキシロ〉の子どもが、家族と旅行中だったらしい。
 手には、すっかり使い込まれた“お湯たまご”。
「これね、夜眠れないときに、ぎゅってにぎると、すぐ眠れるんだ。
 それに……泣きそうになったときも、ちょっと平気になるよ」
 ピリカは思わず微笑んで、そっとその子の頭をなでた。
「お湯たまご、えらいね。毎日ちゃんと寄り添ってくれてるね」
 その言葉を聞いて、子どもは照れくさそうにうなずいた。


 ミズホ号に戻ったあと、ピリカは居住スペースの隅にある棚から、自分の“お湯たまご”を取り出した。
 農耕星〈オルオリ〉のリネおばさんにもらったマフラーと、並べて置いたそのぬくもりは、触れずとも、たしかにそこにあった。

 マフラーを巻いて、ほうっと息をつく。
「……ねえ、ソル。ぬくもりって、冷めないのかな?」
 ピリカの問いに、ソルはそっとティーカップを置いて答えた。
「“想い”のある限り、あたたかさは、消えません。
 お湯が冷めても、心に残っていれば、それで充分です」
 ピリカはうなずいて、静かに“お湯たまご”を手のひらに包んだ。
 さわってみると、ほんのり――ぬくもりが、まだ残っていた。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

君を探す物語~転生したお姫様は王子様に気づかない

あきた
恋愛
昔からずっと探していた王子と姫のロマンス物語。 タイトルが思い出せずにどの本だったのかを毎日探し続ける朔(さく)。 図書委員を押し付けられた朔(さく)は同じく図書委員で学校一のモテ男、橘(たちばな)と過ごすことになる。 実は朔の探していた『お話』は、朔の前世で、現世に転生していたのだった。 同じく転生したのに、朔に全く気付いて貰えない、元王子の橘は困惑する。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~

双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。 なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。 ※小説家になろうでも掲載中。 ※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...