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23 お湯たまごラッシュ!
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「星屑宅配便で~す! あったかい“お湯たまご”、お届けに来ました!」
――とある日を境に、ミズホ号はてんてこまいの大忙しになった。
きっかけは、寒冷の星〈ユキシロ〉で紹介された“お湯たまご”の便利さとやさしさ。
“お湯たまご”は、ぬくもりを届けるために開発された、ほんのり温かい、まるい携帯型ヒーターのようなアイテム。見た目はたまご型で手のひらサイズ。
ほわんとしたぬくもりが手のひらを包み、まるで心までぽかぽかしてくる。
ひとつ手にすれば、離れて暮らす家族や、職場で忙しい誰かにもあげたくなる。
🥚 お湯たまご ― その正体と使い方
• 名前の由来:
お湯のように「じんわりあたたかい」+「たまご」のようにまるくてやわらかい形状から。
• 機能:
手で包むと優しくあたたまり、熱を保ちます。体温のようなやさしい温度。電源なしで6~8時間ほどぬくもりをキープ可能。
• 使い方:
ポケットに入れたり、ベッドに忍ばせたり、手を温めたり――人それぞれ。
寒い宇宙船の中や、ひとりぼっちの夜、心細いときにぎゅっと握ると、気持ちが落ち着く。
• 感触:
外装は少しだけやわらかく、握ると「ぷにっ」と反応する。触感にも癒やし効果あり。
「これ、“お湯たまご”って言うんだってさ」
「まさに〈お取り寄せぬくもり便〉にぴったりのアイテムなんですよね。
寒い星に住んでいたり、誰かのぬくもりを恋しく思っている人には特に重宝されていて――」
中には、「大切な人とおそろいで持つ」なんて人もいます。遠く離れていても、同じ‘お湯たまご’を握っていると思うと、少しだけ心が近くなる。そんなふうに使われているケースも。
「これ、わたしの母にも……」
「転勤したあの人に、そっと贈りたいんです」
そんな声が次々と届き、注文はうなぎのぼり。
ミズホ号の乗組員たちは朝から晩まで“お湯たまご”便の対応に追われていた。
「もう、届け先が山ほどあるぞ……おれたち、三人で大丈夫か?」
モフルが背中のもふもふの毛を逆立てながらパネルに表示された配達リストを見つめる。
「ワタシたちの、対応では、24時間シフトでも……間に合わない、かもしれません」
ソルも、ぴっぴっぴっと計算しながらつぶやく。
「でも……届けたいんだよ、あったかい気持ち。だって、それを待ってる人がいるんだもん」
ピリカは頬を赤くしながら、いつもよりぎゅっと荷物を抱えた。
その日の便のひとつに、ちょっと変わった依頼があった。
星を出たばかりの青年から、実家に暮らす“年の離れた弟”へ贈る“お湯たまご”だが、届け先に着いたピリカは驚く。
「……ご家族、じゃないんですか?」
玄関先に出てきたのは、おばあさん一人。青年の名前を伝えると、彼女はふっと目を伏せた。
「あの子は……小さいころ、うちに一時だけ預けられていたの。血のつながりはないけどね。でもね……あたしは、今でも孫みたいに思ってるのよ」
ピリカは、そっとお湯たまごをおばあさんの手に乗せる。
「たぶん、その気持ち……ちゃんと届いてます」
あたたかいお湯たまごを見つめながら、涙をこぼすおばあさん。
その姿に、ピリカも胸の奥がきゅっとなる。
その夜、ミズホ号のちゃぶ台には、久しぶりにゆっくりした時間が流れていた。
「いそがしかったけど……でも、あったかかったね、今日」
ピリカがつぶやくと、モフルが「おれは、ちょっと暑かったぞ」と照れ隠しのように笑った。
《配達完了:お湯たまご(物理的な暖かさと、心のぬくもりの象徴)》
――今日も、どこかで誰かが、ぬくもりを待っている。
🥚 小さな後日談:〈ぬくもりは、まだ冷めていない〉
数日ぶりにミズホ号のスケジュールに、ぽっかりと空白の時間ができた。
ピリカは荷物を持たず、ひとりで宇宙港の休憩所を歩いていた。
ホールの片隅にあるベンチに腰掛けると、ふいに聞き覚えのある声がした。
「あっ……あの時の配達のお兄ちゃん!」
見ると、かつて届け先だった〈ユキシロ〉の子どもが、家族と旅行中だったらしい。
手には、すっかり使い込まれた“お湯たまご”。
「これね、夜眠れないときに、ぎゅってにぎると、すぐ眠れるんだ。
それに……泣きそうになったときも、ちょっと平気になるよ」
ピリカは思わず微笑んで、そっとその子の頭をなでた。
「お湯たまご、えらいね。毎日ちゃんと寄り添ってくれてるね」
その言葉を聞いて、子どもは照れくさそうにうなずいた。
ミズホ号に戻ったあと、ピリカは居住スペースの隅にある棚から、自分の“お湯たまご”を取り出した。
農耕星〈オルオリ〉のリネおばさんにもらったマフラーと、並べて置いたそのぬくもりは、触れずとも、たしかにそこにあった。
マフラーを巻いて、ほうっと息をつく。
「……ねえ、ソル。ぬくもりって、冷めないのかな?」
ピリカの問いに、ソルはそっとティーカップを置いて答えた。
「“想い”のある限り、あたたかさは、消えません。
お湯が冷めても、心に残っていれば、それで充分です」
ピリカはうなずいて、静かに“お湯たまご”を手のひらに包んだ。
さわってみると、ほんのり――ぬくもりが、まだ残っていた。
――とある日を境に、ミズホ号はてんてこまいの大忙しになった。
きっかけは、寒冷の星〈ユキシロ〉で紹介された“お湯たまご”の便利さとやさしさ。
“お湯たまご”は、ぬくもりを届けるために開発された、ほんのり温かい、まるい携帯型ヒーターのようなアイテム。見た目はたまご型で手のひらサイズ。
ほわんとしたぬくもりが手のひらを包み、まるで心までぽかぽかしてくる。
ひとつ手にすれば、離れて暮らす家族や、職場で忙しい誰かにもあげたくなる。
🥚 お湯たまご ― その正体と使い方
• 名前の由来:
お湯のように「じんわりあたたかい」+「たまご」のようにまるくてやわらかい形状から。
• 機能:
手で包むと優しくあたたまり、熱を保ちます。体温のようなやさしい温度。電源なしで6~8時間ほどぬくもりをキープ可能。
• 使い方:
ポケットに入れたり、ベッドに忍ばせたり、手を温めたり――人それぞれ。
寒い宇宙船の中や、ひとりぼっちの夜、心細いときにぎゅっと握ると、気持ちが落ち着く。
• 感触:
外装は少しだけやわらかく、握ると「ぷにっ」と反応する。触感にも癒やし効果あり。
「これ、“お湯たまご”って言うんだってさ」
「まさに〈お取り寄せぬくもり便〉にぴったりのアイテムなんですよね。
寒い星に住んでいたり、誰かのぬくもりを恋しく思っている人には特に重宝されていて――」
中には、「大切な人とおそろいで持つ」なんて人もいます。遠く離れていても、同じ‘お湯たまご’を握っていると思うと、少しだけ心が近くなる。そんなふうに使われているケースも。
「これ、わたしの母にも……」
「転勤したあの人に、そっと贈りたいんです」
そんな声が次々と届き、注文はうなぎのぼり。
ミズホ号の乗組員たちは朝から晩まで“お湯たまご”便の対応に追われていた。
「もう、届け先が山ほどあるぞ……おれたち、三人で大丈夫か?」
モフルが背中のもふもふの毛を逆立てながらパネルに表示された配達リストを見つめる。
「ワタシたちの、対応では、24時間シフトでも……間に合わない、かもしれません」
ソルも、ぴっぴっぴっと計算しながらつぶやく。
「でも……届けたいんだよ、あったかい気持ち。だって、それを待ってる人がいるんだもん」
ピリカは頬を赤くしながら、いつもよりぎゅっと荷物を抱えた。
その日の便のひとつに、ちょっと変わった依頼があった。
星を出たばかりの青年から、実家に暮らす“年の離れた弟”へ贈る“お湯たまご”だが、届け先に着いたピリカは驚く。
「……ご家族、じゃないんですか?」
玄関先に出てきたのは、おばあさん一人。青年の名前を伝えると、彼女はふっと目を伏せた。
「あの子は……小さいころ、うちに一時だけ預けられていたの。血のつながりはないけどね。でもね……あたしは、今でも孫みたいに思ってるのよ」
ピリカは、そっとお湯たまごをおばあさんの手に乗せる。
「たぶん、その気持ち……ちゃんと届いてます」
あたたかいお湯たまごを見つめながら、涙をこぼすおばあさん。
その姿に、ピリカも胸の奥がきゅっとなる。
その夜、ミズホ号のちゃぶ台には、久しぶりにゆっくりした時間が流れていた。
「いそがしかったけど……でも、あったかかったね、今日」
ピリカがつぶやくと、モフルが「おれは、ちょっと暑かったぞ」と照れ隠しのように笑った。
《配達完了:お湯たまご(物理的な暖かさと、心のぬくもりの象徴)》
――今日も、どこかで誰かが、ぬくもりを待っている。
🥚 小さな後日談:〈ぬくもりは、まだ冷めていない〉
数日ぶりにミズホ号のスケジュールに、ぽっかりと空白の時間ができた。
ピリカは荷物を持たず、ひとりで宇宙港の休憩所を歩いていた。
ホールの片隅にあるベンチに腰掛けると、ふいに聞き覚えのある声がした。
「あっ……あの時の配達のお兄ちゃん!」
見ると、かつて届け先だった〈ユキシロ〉の子どもが、家族と旅行中だったらしい。
手には、すっかり使い込まれた“お湯たまご”。
「これね、夜眠れないときに、ぎゅってにぎると、すぐ眠れるんだ。
それに……泣きそうになったときも、ちょっと平気になるよ」
ピリカは思わず微笑んで、そっとその子の頭をなでた。
「お湯たまご、えらいね。毎日ちゃんと寄り添ってくれてるね」
その言葉を聞いて、子どもは照れくさそうにうなずいた。
ミズホ号に戻ったあと、ピリカは居住スペースの隅にある棚から、自分の“お湯たまご”を取り出した。
農耕星〈オルオリ〉のリネおばさんにもらったマフラーと、並べて置いたそのぬくもりは、触れずとも、たしかにそこにあった。
マフラーを巻いて、ほうっと息をつく。
「……ねえ、ソル。ぬくもりって、冷めないのかな?」
ピリカの問いに、ソルはそっとティーカップを置いて答えた。
「“想い”のある限り、あたたかさは、消えません。
お湯が冷めても、心に残っていれば、それで充分です」
ピリカはうなずいて、静かに“お湯たまご”を手のひらに包んだ。
さわってみると、ほんのり――ぬくもりが、まだ残っていた。
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