星屑宅配便 ～あったかいもの、お届けします～

２６ 小さな返事便

　それは、アストリア星から地球経由で、ミズホ号宛に届いた小包だった。
　宛名は――リクト。
　差出人は、「エナの妹」と名乗る、アストリア星の女性からだった。
　中には、一通の手紙と、布で包まれた小さな箱。
　添えられた手紙にはこう書かれていた。



〔ピリカ様
　あの日、あなたが届けてくださった手紙。
　エナは、最期の瞬間に、しっかりと胸に抱いていました。
　息を引き取るほんの少し前、ぽつりと呟いたんです。
“ああ、リクトの字だわ。ちゃんと、届いたのね……”
　目を閉じるその顔が、子どもみたいに穏やかでした。
　おそらく、あなたが来られるほんの数分前に、静かに眠ったのだと思います。
　けれど、彼女には、あの手紙が“ちゃんと届いた”と感じられたのです。
　それが、どれほど幸せだったか……お伝えしたくて、筆をとりました。
　この箱の中は、リクトくんが小さい頃、お母さんが大事にしていた“家族の時間”の記録です。
　写真や、メモや、小さなお守り……どれも、リクトくんと一緒に過ごした証。
　できれば、届けていただけませんか？
　母から子へ、最後の返事として。〕


　ピリカは箱を開け、そっと覗いた。
　中には、家族の写真。手編みの小さな袋。
　そして――ひらがなで「りくとへ」と書かれた、古いメモ用紙。
　モフルが鼻をひくひくさせて、「モフぅ……」と鳴いた。
　ピリカは小さくうなずく。
「……次の配達先、決まったね」
　ソルが操作盤を見て、穏やかに答えた。
「航路調整、完了しました」


　数日後、地球のとある研究施設の前。
　リクトがピリカから受け取った小さな箱を開け、言葉を失った。
　そして、メモを抱きしめ、涙をこぼした。
「……母さん……ちゃんと、読んでくれたんだ」
　ピリカの胸の奥には、やさしい光が残った。


　宇宙に戻るミズホ号の中、ピリカはポストの表示を見つめながら、静かに呟いた。
「今回の配達、少しだけ時間がかかったけど……
　やっと、全部届けられた」
　モフルが満足げにぐるぐる回り、ソルも小さく頷く。



《再配達完了：アストリア星 → 地球》
　あたたかい記憶も、言葉も、想いも――ちゃんと、つながったのです。