星屑宅配便 ~あったかいもの、お届けします~

真田奈依

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30 星の贈り手と届け屋たち

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 ミズホ号が銀河の中ほどで補給停泊していたときのことだった。
 港の小さなカフェで、ピリカたちはひとりの人物とすれ違う。
 その人は、灰色のマントをまとい、背中には少し大きすぎるリュックを背負っていた。
 まるで宇宙の風を受ける帆のように、それは静かに揺れている。

 モフルもふん、と鼻を鳴らした。「おれ、あの匂い、どっかで嗅いだことあるぞ」
 ソルのセンサーが反応する。「ノルネ星と、ウート星に、関連する、成分と、一致します」
「……あれ?」とピリカがつぶやく。」
 そのとき、灰色の人物がこちらを振り向いた。
「――届けてくれたんだね。ありがとう」
 やさしい笑みとともにそう言ったのは、メッセンジャー・カナタだった。

 カナタは、小さな惑星に贈り物を届ける“送り手”だった。
 けれど彼は、自分では星のそばまで行けない。理由は言わなかったが、「生きている星は、ときに贈り物を受け取らないこともあるんだ。だから“届けてくれる人”が必要なんだ」とだけ言った。
 ピリカはカナタに尋ねた。
「どうして、星に贈り物をしようと思ったの?」
 カナタは、空になったティーカップを指でなぞりながら、静かに語った。
「昔、ぼくはひとりぼっちだった星に救われたんだ。声も、夢も、光も失ってたあの星が、ぼくの笛の音に、うっすら光を返してくれた。…それが、うれしくてね」
 それ以来、彼は星々に贈り物を続けているという。
「声のない星にはメロディーを。においのない星には記憶の香りを。
 眠れぬ星には夢を、眠りすぎる星には目覚めを。……どれも“おまけ”つきだけどね」
「“おまけ”?」ピリカが首をかしげる。
「“やさしさ”さ」
 カナタは微笑んで言った。「あたたかくなるものは、だいたいそれがついてる」

 別れ際、モフルがもじもじと聞いた。
「なあ、カナタさん。おれたち、アンタの“家族”みたいなもんか?」
 カナタは少しだけ考えてから、こう答えた。
「うん。――“想いを届ける人たち”は、みんな、どこかでつながってると思ってる。
 星たちも、きっと、そう思ってるよ」
 そしてリュックのポケットに、ささやかな種のようなものをしまいながら、こうつぶやいた。
「次の星には、どんな想いを贈ろうかな」
 カナタはしばらくピリカたちと過ごしたのち、また宇宙のどこかへ旅立っていった。




 その夜、ミズホ号のログに新たな記録が残された。
《航行記録:メッセンジャーと交流(あたたかい気持ちつき)》
 贈り手の想いは、届け屋の心にも、ちゃんと届いた。

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