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33 本の森からの宅配便
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ミズホ号に届いた、ひとつのオーダー。
送り主は、森の中の図書館を営むおばあさん・シララ。
届け先は、乾いた星で暮らす少年・トキ。
ピリカは本を抱えて、その星へ向かった。
その本のタイトルは――─
『風をさがして』。
かつて旅人が、風を追って世界をめぐった物語。
図書館の人気本らしく、ページの端は少し丸まり、でも丁寧に手入れされた跡があった。
トキが暮らす星は、風も水も乏しい、ほこりっぽい星だった。
人工ドームの中で、トキは一人、外の世界に夢を見るようにして暮らしていた。
「……届けに来たよ」
ピリカの声に、少年は目を輝かせてドアを開けた。
本を受け取ったトキは、最初こそ無言だったが、ページを一枚めくった途端、表情がほどけた。
「これ……おばあちゃんの本だ」
「知ってるの?」
「昔、旅の途中で図書館に寄ったんだ。おばあちゃん、僕に言ってた。
"また読みたくなったら、風のかわりに届けてもらいなさい"って。ピリカさんのこと、教えてくれたよ」
その夜、ピリカは少しだけトキの家に滞在した。
ミズホ号の整備の合間、トキは嬉しそうにページを読み進めていた。
「このページが好きなんだ」
と、トキが開いたのは、旅人が「風を持ち帰ろうとしたけれど、ポケットには入らなかった」とつぶやく場面。
「だから風って、誰かとわけあうものなんだって……」
ピリカは小さくうなずいた。
それは、どこか“ぬくもり”と似ている。
翌朝、出発の時間。
トキは、ドームの外までピリカを見送った。
「ありがとう、ピリカさん。また、あの本を誰かに届けるの?」
「うん。もしかしたら、また風が恋しくなる誰かにね」
トキはポケットから、ちいさな手紙を一枚取り出した。
「これ……読んだ感想、シララおばあちゃんに届けてくれる?」
ピリカは受け取ってにっこり笑う。
「もちろん。風といっしょに運んでいくよ」
宇宙船ミズホ号が飛び立つとき、ドームの外にふわりと風が吹いた。
それは、きっと気のせいじゃなかった。
《配達完了:えほん(風とともに)》
今日も、届けてきました。だいじな想い。
🌳 小さな後日談:〈図書館の窓辺で〉
森の中の図書館では、シララおばあさんが椅子に座って、本を読みながら窓の外を見ていた。
「戻ってきたのね」
届いた封筒を開けると、トキの丸文字でこう書かれていた。
〔風は、まだこの星には来ていないけれど、
きっと、あの本とピリカさんが連れてきてくれたんだと思う。
ありがとう。次の旅人にも、あの風を。〕
おばあさんは、ページに挟まれていた四つ葉のしおりをそっと本に戻し、貸出ノートに一言書き足した。
「風がまた、届きました」
送り主は、森の中の図書館を営むおばあさん・シララ。
届け先は、乾いた星で暮らす少年・トキ。
ピリカは本を抱えて、その星へ向かった。
その本のタイトルは――─
『風をさがして』。
かつて旅人が、風を追って世界をめぐった物語。
図書館の人気本らしく、ページの端は少し丸まり、でも丁寧に手入れされた跡があった。
トキが暮らす星は、風も水も乏しい、ほこりっぽい星だった。
人工ドームの中で、トキは一人、外の世界に夢を見るようにして暮らしていた。
「……届けに来たよ」
ピリカの声に、少年は目を輝かせてドアを開けた。
本を受け取ったトキは、最初こそ無言だったが、ページを一枚めくった途端、表情がほどけた。
「これ……おばあちゃんの本だ」
「知ってるの?」
「昔、旅の途中で図書館に寄ったんだ。おばあちゃん、僕に言ってた。
"また読みたくなったら、風のかわりに届けてもらいなさい"って。ピリカさんのこと、教えてくれたよ」
その夜、ピリカは少しだけトキの家に滞在した。
ミズホ号の整備の合間、トキは嬉しそうにページを読み進めていた。
「このページが好きなんだ」
と、トキが開いたのは、旅人が「風を持ち帰ろうとしたけれど、ポケットには入らなかった」とつぶやく場面。
「だから風って、誰かとわけあうものなんだって……」
ピリカは小さくうなずいた。
それは、どこか“ぬくもり”と似ている。
翌朝、出発の時間。
トキは、ドームの外までピリカを見送った。
「ありがとう、ピリカさん。また、あの本を誰かに届けるの?」
「うん。もしかしたら、また風が恋しくなる誰かにね」
トキはポケットから、ちいさな手紙を一枚取り出した。
「これ……読んだ感想、シララおばあちゃんに届けてくれる?」
ピリカは受け取ってにっこり笑う。
「もちろん。風といっしょに運んでいくよ」
宇宙船ミズホ号が飛び立つとき、ドームの外にふわりと風が吹いた。
それは、きっと気のせいじゃなかった。
《配達完了:えほん(風とともに)》
今日も、届けてきました。だいじな想い。
🌳 小さな後日談:〈図書館の窓辺で〉
森の中の図書館では、シララおばあさんが椅子に座って、本を読みながら窓の外を見ていた。
「戻ってきたのね」
届いた封筒を開けると、トキの丸文字でこう書かれていた。
〔風は、まだこの星には来ていないけれど、
きっと、あの本とピリカさんが連れてきてくれたんだと思う。
ありがとう。次の旅人にも、あの風を。〕
おばあさんは、ページに挟まれていた四つ葉のしおりをそっと本に戻し、貸出ノートに一言書き足した。
「風がまた、届きました」
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