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36 小さなあかりのいる星へ
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銀河のはずれに住む人々に“あったかい心”を届けるちょっと不思議な宅配サービスがある。その名も――星屑宅配便。
12歳の少年ピリカは、相棒のニューファンドランド犬そっくりのもふもふのAIモフルと、ブリキのロボットのソルと共に、手作り宇宙船《ミズホ号》で宅配サービスをしていた。
ミズホ号のエンジンが、やさしく宇宙を押し出して進む。
「さて……これが、“あらためての一件目”だね」
モフルがそう言って、ピリカの手元に新しい依頼ファイルを表示した。
差出人:マーヤ(8歳)
宛先:ルー(マーヤの弟、4歳)
内容:「お姉ちゃんの、だいすきな絵本を、ルーにとどけてください」
ソルが画面をのぞきこみながら、眉を少しひそめた。
「……この依頼、気になるのは、“届け先”、ですね」
「うん。ルーくんは、まだ療養中で……“星の医療コロニー”にいるみたい」
依頼文には、こうも添えられていた。
〔ルーは星の病院で、まだ帰れません。
でも、あの子がさびしくないように、私の“だいすき”を届けたいんです〕
ピリカはファイルをそっと閉じた。
「行こう。マーヤちゃんの“あったかい気持ち”、届けに」
向かうは、小さな医療コロニーが浮かぶ“灯星〈ランプスター〉”。
まるで夜空にともるろうそくのように、ポツンと浮かぶ孤独な星だった。
ミズホ号が着陸すると、スタッフが案内してくれた病棟の窓際。
そこに、ルーくんはいた。
点滴を腕に受けながらも、ぬいぐるみをぎゅっと抱いている。
ピリカは、そっと声をかけた。
「こんにちは。宇宙宅配員のピリカです。マーヤちゃんから、お届けものです」
封筒を開けると、中から現れたのは――色あせた絵本。
表紙には、二人のきょうだいが手をつないでいるイラスト。
そして、折りたたまれた手紙も添えられていた。
〔ルーへ。これを読んだら、私の声がきこえるかもって思ってます。
さびしくなったら、ページをめくってね。いっしょに笑ってるから〕
ルーくんは最初、何も言わなかった。
でも絵本を開いた瞬間、表情がふっとほどけて、小さく口元がゆるんだ。
「……マーヤ、の……声、きこえた……」
ぽつりとつぶやいたその声に、ピリカの胸がじんわりあたたかくなった。
帰り道。
ミズホ号のコックピットで、ピリカは小さく深呼吸した。
「今日も、“心”を届けられたかな」
「届けられたよ」と、モフル。
「はい。すごく、やわらかくて、いい音が、しました」と、ソルも言った。
小さな依頼。
小さな灯り。
でも、それは確かに誰かを救う“あたたかさ”だった。
ピリカは操縦席に背をあずけ、そっとつぶやいた。
「もう一緒に暮らせなくても――
僕は、お父さんとお母さんの想いを届け続けてきた。
そしてこれからも、そうしていくんだ。
……これからも、きっと大丈夫。
“心の旅”は、まだまだ続いていくよ」
ミズホ号は、ゆっくりと宇宙に溶けていった。
新たな“おとどけ”と、次の誰かの“あったかい気持ち”をのせて――。
ミズホ号の航行記録には、新たなログがこれからも刻まれていく。
《配達完了:えほん(心と一緒に)》
さびしくないよ。
12歳の少年ピリカは、相棒のニューファンドランド犬そっくりのもふもふのAIモフルと、ブリキのロボットのソルと共に、手作り宇宙船《ミズホ号》で宅配サービスをしていた。
ミズホ号のエンジンが、やさしく宇宙を押し出して進む。
「さて……これが、“あらためての一件目”だね」
モフルがそう言って、ピリカの手元に新しい依頼ファイルを表示した。
差出人:マーヤ(8歳)
宛先:ルー(マーヤの弟、4歳)
内容:「お姉ちゃんの、だいすきな絵本を、ルーにとどけてください」
ソルが画面をのぞきこみながら、眉を少しひそめた。
「……この依頼、気になるのは、“届け先”、ですね」
「うん。ルーくんは、まだ療養中で……“星の医療コロニー”にいるみたい」
依頼文には、こうも添えられていた。
〔ルーは星の病院で、まだ帰れません。
でも、あの子がさびしくないように、私の“だいすき”を届けたいんです〕
ピリカはファイルをそっと閉じた。
「行こう。マーヤちゃんの“あったかい気持ち”、届けに」
向かうは、小さな医療コロニーが浮かぶ“灯星〈ランプスター〉”。
まるで夜空にともるろうそくのように、ポツンと浮かぶ孤独な星だった。
ミズホ号が着陸すると、スタッフが案内してくれた病棟の窓際。
そこに、ルーくんはいた。
点滴を腕に受けながらも、ぬいぐるみをぎゅっと抱いている。
ピリカは、そっと声をかけた。
「こんにちは。宇宙宅配員のピリカです。マーヤちゃんから、お届けものです」
封筒を開けると、中から現れたのは――色あせた絵本。
表紙には、二人のきょうだいが手をつないでいるイラスト。
そして、折りたたまれた手紙も添えられていた。
〔ルーへ。これを読んだら、私の声がきこえるかもって思ってます。
さびしくなったら、ページをめくってね。いっしょに笑ってるから〕
ルーくんは最初、何も言わなかった。
でも絵本を開いた瞬間、表情がふっとほどけて、小さく口元がゆるんだ。
「……マーヤ、の……声、きこえた……」
ぽつりとつぶやいたその声に、ピリカの胸がじんわりあたたかくなった。
帰り道。
ミズホ号のコックピットで、ピリカは小さく深呼吸した。
「今日も、“心”を届けられたかな」
「届けられたよ」と、モフル。
「はい。すごく、やわらかくて、いい音が、しました」と、ソルも言った。
小さな依頼。
小さな灯り。
でも、それは確かに誰かを救う“あたたかさ”だった。
ピリカは操縦席に背をあずけ、そっとつぶやいた。
「もう一緒に暮らせなくても――
僕は、お父さんとお母さんの想いを届け続けてきた。
そしてこれからも、そうしていくんだ。
……これからも、きっと大丈夫。
“心の旅”は、まだまだ続いていくよ」
ミズホ号は、ゆっくりと宇宙に溶けていった。
新たな“おとどけ”と、次の誰かの“あったかい気持ち”をのせて――。
ミズホ号の航行記録には、新たなログがこれからも刻まれていく。
《配達完了:えほん(心と一緒に)》
さびしくないよ。
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