星屑宅配便 ~あったかいもの、お届けします~

真田奈依

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39 未来便・あたためておきました

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 宇宙港の小さな整備室で、年季の入ったミズホ号が点検を受けていた。
 白髪が少し混じったピリカは、スーツの袖をまくりながら、カプセル型のロッカーを開けた。
「……あった、これ」
 ずっとしまっていた、小さな銀の缶。
 それは、かつてユウリから手渡された──**“未来のピリカへ”**と書かれたカプセルだった。
「ずいぶん長く……あたためちゃったね」
 缶のふたを開ける。
 中には、折りたたまれた便箋と、小さな音楽プレイヤー。
 そして、見覚えのあるお湯たまごが、丁寧に包まれて入っていた(保温機能つき宇宙版)。
 ピリカは笑って、便箋を開く。


【手紙】
 ピリカさんへ。
 このカプセルを開けているということは、あなたはまだ届けているんだね。
 あるいは、少し立ち止まっているところかもしれない。
 でも、どちらでもいい。
 このカプセルには、あなたがくれた“ぬくもり”を、ぼくなりに詰めました。
 音楽プレイヤーには、あの日庭で聞いた焚き火の音と、ぼくが作った曲を入れました。
 あたたかさって、時間がたってもちゃんと残るんですね。
 ピリカさんがくれたように、ぼくもあなたの少し先の未来に、何かを届けたかったんです。
 受け取ってくれて、ありがとう。
 また、どこかで。
 ――ユウリ


 ピリカは、音楽プレイヤーをそっと起動させる。
 懐かしい焚き火の音。
 それに続いて、穏やかで優しいメロディ。
「あったかいな……」
 肩の力が、すっと抜ける。
 静かな宇宙港の夕暮れ、窓の外には、明日飛び立つ星の光がまたたいていた。
 ぬくもりは、誰かの手にわたるまで、ちゃんとあたためておきたい。

 その夜、ピリカはまた、荷物のラベルを書いていた。
 宛先は──「未来の誰かへ」。
「今度は僕の番だね」









〈未来便・まだ知らない誰かから〉

 その日、私は少し疲れていた。
 補給ステーションの片隅で、修理待ちのドローンたちの調整をしていたら、ロビーの自動受付が呼んだ。
「イチノセ・ルナ様、未来便が届いております」
 未来便? 差出人欄にはただ、「P」とだけ書かれていた。
 手のひらほどの銀色のカプセル。
 開けると、中には古びた便箋と──見慣れない丸い物体。
 タグには「お湯たまご」と書かれている。小型の保温球のような、あたたかい光がともっていた。


【手紙】
 こんにちは。
 このカプセルを開けたあなたは、きっと少し疲れているときかもしれません。
 でも大丈夫。これは“あったかいもの”です。
 中には、かつてもらった“ぬくもり”を、そっと込めました。
 もし寒い場所にいたら、ポケットに入れてみてください。
 もし心が寒かったら、目を閉じて、少しのあいだ音に耳を澄ましてみてください。
 誰かが、どこかで、あなたのことを想っていました。
 だから、あなたがまた誰かのことを想う日が来たら、今度はあなたが、あたたかいものを手渡してくれるとうれしいです。
 ―― 宇宙宅配員 ピリカより


 その夜、私は「お湯たまご」を両手に挟んで、いつもの屋上に座った。
 宇宙は広いのに、この小さな球から伝わってくる温もりは、とても近くて、人の手みたいだった。
 翌朝、私は久しぶりに同僚に声をかけた。
 夜勤明けで疲れていた彼に、そっとカプセルを渡して言った。
「これ、あたたかいものだから。ポケットに入れてみて」



“まだ知らない誰か”から届いたぬくもりが、今度は“これから出会う誰か”へ手渡されていく。
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