俺のファルハ 《黒豹獣人と俺》

大島Q太

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異世界転移させられる奴っていったいどんな奴なんだろう。
天涯孤独とか? 恋人に振られたとか? ひかれそうになった子供を助けてトラックにひかれそうになってるやつとかだろうか。
そう思いながら面前まで迫ったトラックから目が離せない。
今思いついた状況はまさにビンゴで。俺は天涯孤独で、初めて付き合った彼氏に二ヶ月前振られたばっかで、子供を助けてトラックにひかれそうになっている。
いつか誰かと愛し愛されたかった。俺の願いなんてそれだけだったのに。

目の前が真っ白になってドンという衝撃に体を震わせる。リアルな痛みと脳が震える感触。

俺の20年の人生に幕が下りた瞬間だった。




そして、俺が寝っ転がっていたのは、大きな葉っぱとグネグネした木が鬱蒼と茂る場所だった。気温は暑くもなく寒くもない。…が、なぜか裸だ。

「いやんっ」

思わず誰も見ていないのに自分の体を抱きしめてみた。あまり異世界転移に詳しくないからこの状況が正しいのか分からない。トラックにひかれたはずだが体に痛みは感じないし傷もなさそうだ。じっとしてれば、迎えが来るのか? はたまた、自分で探しに行かなければならないのか? 良く分からないまま空を見上げると、でかい鳥が飛んでいた。何ともなしに目で追っているとそこへ細い棒が飛んできて…刺さった。すごい、異世界だ。


それがまっすぐ自分の方へ向かって落ちてくる。慌てて起き上がり近くの草むらに突っ込んだ。小枝が裸の体に刺さって地味に痛い。鳥らしきものは砂埃を上げて俺がいたところにドスンと落ち、グェェと断末魔を上げて絶命した。落ちてきた鳥は俺と同じくらいの大きさで、飛んできた棒はしっかり首のところに刺さっていた。間一髪、避けた俺は鳥をまじまじと見た……見たことのない鳥だ。とりあえず手を合わせて祈った……待てよ。こんな棒が勝手に飛んでくるわけがない……という事はこの棒の持ち主がそのうち現れるんじゃないか? 


俺は手近な葉っぱをちぎって股間を隠した。だが抑える紐的なものがない。ごそごそと探していると、背後の草がガサガサと揺れた。そして、現れたのはどっかの部族か原住民かと思われるような野性的な半裸の男だった。

俺は振り返って見つめた。男は俺より俺の尻を見ている。あぁ、尻はまだ隠せてない。男がごくりと息をのむ音が聞こえた。

「いやん」

俺の声が聞こえたのか男は慌てた様子であわあわとしだした。青みがかったゆるいウェーブの黒髪に褐色の肌。切れ長の目は金色で。金色!? 少し垂れ目だ。鼻梁は高く唇は厚めで、頬は引き締まっている。

ハッキリ言ってイケメンだ。

体もすごい……盛り上がった胸筋に。腹筋も6つ? いや、8つに割れてる……脂肪の薄い引き締まった体だ。褐色の肌には紺色の蔦のような模様が書き込まれていてエキゾチックだな。

わぁ、めちゃくちゃかっこいい。


そして、また視線を顔に戻すと。男もまた俺を見ていた。特に尻に視線を感じる。前を抑えていた手をあわてて後ろにまわした。前を隠していた葉っぱがはらりと落ちた。


…俺の体を隠すものが何もなくなってしまった。


男は何事かを叫ぶと耳としっぽがビュンっと生えた。俺はそれにぎょっとして何も隠さないまま男に向き直った。耳が生えた! しっぽも! どういうこと!?

男の後ろの草むらがガサガサと揺れて体格の良いひげもじゃのおじさんが現れた。おじさんは固まっている男を見てから俺を見る。そして、目をキラキラとさせて何かを叫んだ。

ヤバイ、俺が狩られる? 身じろぐのも恐ろしくて固まっていると。おじさんは鳥を担いでイケメンに話しかけている。イケメンは飛び出た獣の耳をひっこめてズンズンと俺の前まで来ると俺を抱き上げた。軽々と抱き上げられると羞恥心に体が固まる。

イケメンはにっこりと微笑むとうなずいて、俺の戸惑いなどお構いなしに歩き出した。落とされまいと腕を首にまわして、足を腰にまわした。いやまて、これって駅べ…ん…だが俺が冷静になる前にイケメンはそのまま走り出した。


ガンガン上下に揺さぶられた。こんなに激しいの初めてだ。

イケメンは走るのも早いんだなと冷静ぶってみたが無理だ。頭がくらくらして俺は沈むように意識を飛ばした。
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