俺のファルハ 《黒豹獣人と俺》

大島Q太

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「ダギル、すぐ戻ってくるからマナト様の世話を頼む」
ダギルはアーリムさんに声をかけられにっこりとうなずいた。

ナミルは俺の耳をくすぐっておでこにキスを落とし、アーリムさんと連れ立ち出て行った。それを見送るとダギルは「お茶入れましょうか」と飲み物の準備を始めていた。「よろしくお願いします」と言うとにっこり笑ってお茶を淹れてくれた。
「一緒にどうですか? 話……しませんか?」
俺はおそるおそるダギルを誘った。ダギルはうなずくと二人分お茶を淹れてテーブルに着いた。
「話ですか?」
「俺、何でもいいから知りたい」
ダギルは考えるそぶりをしてにっこりと口角を上げた。
「落ち人がこの部屋で過ごすのは4日間です。4日間生き抜いたら何があるかご存じですか?」
俺は横に首を振る。
「落ち人は4日間でこの世界に馴染むと言われています。最初の4日間は拾った人がお世話するのがしきたりだけど。4日目に無事生きていたらお披露目の儀式が行われます。それ以降は落ち人自身が保護して欲しい人を選べます。えっと、落ち人で言うところのオミアイ? コンイン? をします」

ダギルは少し大げさな仕草で悲壮感を出していた。俺はぎょっとしてダギルを見た。
「端的に言うよ。僕からナミルを奪わないでくれ。僕はそれこそ、まだシッポが白い頃からナミルのことが好きだったんだ。だかr……っあでっ」
「あ……アーリムさん!」
ダギルを見下ろすようにアーリムさんが立っていた。そしてその大きな拳がダギルの頭に押し付けられていた。殴られた拍子にダギルの頭には茶色い耳がぴょこんと生えた。
「ダギル、またあなたはそんなことをしていたのですか」
ダギルは頭に手をのせてべっと舌を出していた。
「だって、ナミルが悲しむところは見たくなかったんだ。落ち人ってタジョーなんだろ」
「あなたがぼっちゃんの害になるようなことはしないと、それだけは信頼していたのですが、まさか、マナト様に嘘を吹き込むとは」
「俺が好きって言ったくらいで身を引くなら、最初からナミルを選ぶ権利はないよ」
二人の間でとんとんと言い合いが始まって俺はあっけにとられながら見守った。
「待って、じゃあ。ダギルはナミルのことが好きじゃないの?」
アーリムさんとダギルはそこでやっとマナトを置いてけぼりで話し込んでいたことに気付いた。ダギルはちらりとアーリムさんを見てため息をつく。
「好きだけど、ナミルは幼馴染で友達だ。幸せになって欲しいって心から思ってる。だけど、落ち人は魔力が分からないから誰とでも繋がっちゃうんだ。それでナミルが傷つくのを見たくない」
「俺、もしダギルがナミルを好きだって言い出したらどうやって戦おうかって思ってたんだ。俺はナミルをあきらめるなんてできない」
ダギルはニヤリと笑う。
「ナミルは魔力の色で損はしているが、皆から慕われているし良い男なんだ」
「ナミルの魔力好きだよ。まだ1日しか一緒に過ごしてないけど。彼が優しくて素敵な人なのは感じている」
アーリムさんが優しく微笑む。ダギルの耳がぴょこりと揺れた。
「試すようなことして、ごめん」
「良かった。ダギルとは友達になれそうだ」
俺がにっこり笑うとダギルの耳がぴょこぴょこと動いた。ダギルは頬を掻きながら唇を尖らせる。
「では、大丈夫そうなのでぼっちゃんのところに帰ります。ダギル、あらためてマナト様のお世話を頼みましたよ」
アーリムさんはそのまま部屋を出て行った。

「俺さ、ナミルの魔力しか感じたことないんだ。だから、良く分からないんだけど。ナミルの魔力はその……ちょっと……「エロくなる?じゃあ、僕のも試す?許可をちょうだい」
うつむいて貫頭衣の裾をぎゅっと握った。そして、うなずいた。ダギルが俺の手に手をかぶせてふっと温かいものを出した。それはすぐにふわりと消えた。
「相性が良くないとね、魔力はこんな風に消えるんだ。マナトの中にとどまって渦を巻くのは君にとってその魔力が馴染むからだ。それって特別ってことなんだよ」
ダギルは耳をピコピコさせながらにっこり笑う。
「あぁ、でも。僕も名乗りをあげようかな。俺の魔力も痛くないだろ?それって相性が良いってことなんだ。それにマナトの器って魅力的だよ」
ダギルは人差し指で俺のおでこをコツンと押すとお茶を飲み干して片付けを始めた。手伝おうと手を出すと止められた。俺は手持ち無沙汰にダギルを見ていた。ダギルの尻には茶色いしっぽが生えていて。奈良で見たなと思いだしていた。


昼ご飯の前にはナミルとアーリムさんは帰ってきた。ナミルはまっすぐ俺のところに来るからなんとなく手を広げて待ってみた。ナミルは嬉し気に笑みを浮かべると俺を抱きしめてくれる。
「おかえり」
「ただいまマナト、フアルの実を取ってきたからまた夜食べような」
昨晩食べたあの実か。不思議な感じがしたが今まで食べたものの中で一番おいしかった。俺がにんまりと笑ったのを感じ取ったのか抱きしめてくる腕に力がこもる。ナミルの肌からは太陽と草の匂いがした。
「へぇ、マナトはフアルの実も大丈夫なんだね」
ダギルがこちらを見てにっこりと笑う。アーリムさんがダギルの横腹を肘で突いた。
「あれ、マナト…ダギルの魔力を感じる」
「あぁ、俺がナミルの魔力しか感じたことがないって言ったら教えてくれた」
言ったとたんに触れ合う肌から温かな気が流れてくる。ぐるぐると渦巻いてふらつきそうになった。
「わーナミルってば嫉妬深いな。まだ、選ばれてもないのに」
「我々は落ち人に許可を頂かなければ魔力は流せません。相手に魔力を感じさせるのは交際を申し込むのと同じです。許可を与えるという事はまんざらでもないと返すのと勘違いされますよ」
アーリムさんがうなるようにつぶやく。
ダギルがナミルを揶揄うとアーリムさんがダギルを引っ張って入口の向こうに連れて行ってしまった。見上げるとナミルの金色の目が細くなっていた。俺が戸惑っているとナミルの顔が近づいて唇が合った。
「嫉妬深いかもしれない。俺はマナトが他の誰かの魔力に染まるのが嫌だ」
抱きしめてくるナミルの胸を押してナミルの頬を撫でた。ナミルってすごい真っすぐだ。
「ダギルが教えてくれたよ。魔力がこうやって身に定着して馴染むのは相性が良いからだって。俺もナミルの魔力…気持ち良いなって思ってる。他の魔力を感じたからよけい良く分かったんだ」
頬に添えた手を取ってナミルがそこにキスをくれた。先ほどまで逆立っていた雰囲気が柔らかなものに変わる。
「でもその重要性を分かってなかったんだごめん。もう誰にもお願いしない、約束する」
「……もう俺以外の魔力を欲しがらないでくれ」
俺はにっこりうなずいて約束した。

それからはナミルの過保護っぷりが増して、昼ご飯もナミルに食べさせられることになった。一日中べったりと背中に張り付いて俺を離さなかった。この過保護ナミルは4日目の夜まで続いた。
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