俺のファルハ 《黒豹獣人と俺》

大島Q太

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俺はナミルを見た。
「ナミル、そう言えばずっと俺のことふあるはって呼んでた。さっきも俺のふあるはって」
ナミルが不意に抱き寄せて俺の耳をかじってくる。さっき耳を触る意味を教えたのはナミルなのに。
「ファルハは運命とか。番とか。大切なもの…半身とか。お前が死んだら俺も死ぬみたいな意味の言葉だ」
噛まれた耳が真っ赤に染まる。確かに、そんな言葉は日本語にはない。だから、翻訳の魔法もそのままファルハと聞こえていたのか。ファルハはこの世界の最上級の愛の言葉だった。

……不意打ちが過ぎる。

俺はおずおずとナミルに向き直る。どうしようもなく好きになったのは俺の方もだ。
「ナミル、耳を触っても良い?」
俺はナミルの股座に膝をついて向き合った。ナミルが口角を上げて少しだけ頭を下げてくれた。不意に近づいた顔に俺は意を決して唇を合わす。そして、宣言通りナミルの耳を触った。目の細かな被毛はベルベットみたいに柔らかく少し冷たい。すりすりと耳を擦りながら懸命に唇を合わせてナミルにキスする。俺の気持ちが少しでも伝わればいいのに。祈りのようなキスをしてナミルに向き合う。ナミルは優しい笑みを浮かべて俺の後頭部を支えて引き寄せた。急なことにバランスを崩して慌ててナミルの首に腕を回す。顔を上にそらせてしまい、ナミルの口が喉仏に当たった。あっと思った瞬間、ガブリと噛まれた。
犬歯の生えた獣の歯だ。甘噛みだと感じたが痕がつくぐらいいはしっかりと噛みつかれた。驚いて手を突いて距離を取ったが逃がさないというように今度は唇を合わせてくる。唇をかまれて強引に口を開かされた、荒々しい舌が俺の咥内に入ってきた。いつもより性急で俺自身を求められているような荒ぶったキスだった。ナミルの魔力が唾液に混じり俺の中に溶け込んでくる。俺は夢中で舌を絡め返した。

すると、ドーンという太鼓の音がまた会場内に響く。
びっくりして会場を見渡すと、皆がこちらを拍手しながら見ていた。ヤバイ、俺は衆人環視の中で盛ってしまった。だが、座ろうにもナミルが腰にまわした手を緩めてくれない。ナミルの顔を抱きしめる形で動けなくなった。
リフヤさんが立ちあがり盃を掲げる。
「どうやら二人は我慢ができないようだ。これよりファルハたちは七日夜の儀式に移る。皆で見送ろう」
なのかよ? とナミルを見下ろしたが答える気はないようだ。ナミルは俺を抱きかかえていることをものともせず立ち上がる。
「皆、集まってくれてありがとう。俺は良き伴侶を得た。皆にも幸多からんことを」
ナミルは俺を腕一本で抱えたまま挨拶をし。そのまま、俺が入ってきたあの回り廊下の方へズンズンと進んだ。背後では獣人たちが一層盛り上がっている声が聞こえた。

アーリムさんが回り廊下を先導して歩き。入り口の布を上げて俺たちを待ってくれていた。慣れ親しんだ部屋に戻ると、部屋の真ん中にナミルと同じ紺色の蔦模様が描かれた布が蚊帳のように吊るされている。一部がまくり上げられていて中には俺が4日間お世話になった巣のような布の塊が敷いてあった。初夜の舞台みたいで恥ずかしくなってしまう。俺はそこに丁寧に下ろされてナミルも横に座った。向いにはアーリムさんが座って頭を下げる。
「ナミル様、マナト様おめでとうございます。七日夜の儀式の立ち合いは私が行います。どうぞ、おくつろぎくださいね」
「は…はいっ」
俺はそっとナミルを見上げる。ナミルが手をついてアーリムさんにお辞儀をしたから俺もならって同じように頭を下げた。
「では、湯の準備はできておりますのでどうぞ」

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