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王の失脚
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ベルントが持ち出した裏帳簿から様々な悪行が露見した。
教会を隠れ蓑に違法薬物の売買と他国への輸出、さらには人身売買を行っていた。集めた貧しい者達を信徒と偽り無償の労働力にする為と思われる。
これらのことが易々と行われたことで辺境伯も加担していたと嫌疑が持ち上がった、文官武官で組織された調査隊によって、便宜を図るようにと王命が下されていたと暴かれる。王派閥である辺境伯は教会の荷馬車などの見分を碌にしていなかったのである。
教会内と信徒関係にある貴族家に立ち入り調査した報告書に目を通した宰相は、まるで犯罪組織そのものだと呆れかえった。温い法律のせいで犯罪の温床となってしまったアルゴリオ聖教会の解体へと動き出す。
これらを踏まえ王妃と宰相らは法改正について会議を開く事で合意をした。
王妃は大臣らが召集された大会議室に王を呼び出して告げる。
「我が王よ、奇跡の一つも見せず多数の男と浮名を流す者が巫女のはずがありません。それでも彼女を擁護し教会を支持するというのなら玉座から下ろし王族から排斥します、すでに宰相はじめ大臣らも賛同してます。変革の時ですわ」
王妃の言葉に狼狽する王は地位を奪われると知り漸く現実を見た。
「余は、余はただ国の為にと!ただそれだけだったのだ、猊下が姫巫女が現れたと嬉しそうに……あぁ……治癒術に長けた彼を余は信じすぎたのだな」
王の信頼はとうに地の底まで失墜していたので早めの退位は避けられまいと王妃は悲しい顔をした。ともに蟄居することを決めた王妃は早々に第一王子の戴冠式を行うように宰相たちに要請した。
同時に国王を誑かして国を食い物にしようとした教会と姫巫女に、国民たちから非難の集中砲火が始まる。
教会周囲には暴徒化した民衆で犇めき罵声が飛び交い、投石やゴミなどの投棄が連日止まない。
こうして姫巫女などと祭り上げた聖教会の大司教は窮地に陥った。
「猊下、もはやこれまでかと……」
裏で悪さをしてきた司教達と信徒であった貴族らも逮捕状が出されるのは時間の問題であった。
「く、くそう!やっと国の頂にまで手が届こうとしたというのに!ベルントめ!この裏切り行為は終生忘れぬぞ!」
やはり大司教は国家の転覆を目論んでいたらしい、それに侍っていた下位貴族はお零れにあずかれなくなった現実を見て怒り、そして罪に問われることを何より恐れた。
諦めの悪い大司教たちは籠城を決め込むが、屈強な騎士団に敵うわけもなく、逮捕状が出された数日後には関係者はほぼ全員捕縛された。
***
騒動がひと段落したある日、ステラロザーデ侯爵邸にリカルデルが訪問してきた。
「悪の巣窟は潰されたが、まだ腐敗したゴミの一掃とはいかないだろう。国を守るべき辺境伯が裏切っていたのはかなり痛い」
王の息がかかった貴族は少なくない、大半は下位貴族ではあっても執政に影響は続くだろうと王子は厳しい顔をする。応接間に揃った侯爵一家は神妙な面持ちで王子の報告に耳を傾けている。
財務大臣である侯爵は王による使途不明金の調査と回収でかなり疲弊していた、やはり省庁内でも息のかかった小者はいたらしい。
「国の瓦解の危機かと存じます、だが我らは諦めない。国の子らの未来の為にも」
「ああ、その通りだな。想像以上の悪影響に私も驚いたさ。国の中枢にまで悪の手が及んでいたのだから」
王子とフィオネは場所を変えて話し合いをすることにした。場所は王子宮のサロンである。そこには彼の側近たちも同席していた。
「少し痩せたかいフィ……心配だ」
「いいえ、リカルほどではないわ。貴方こそご自愛くださいな」
互いを気遣って苦笑する二人はほんの少しだけいつもの日常に戻れたようだ。学園では教師たちの総替えが行われており新任教師たちが派遣されるまで休園中なのだ。
「ボクは休暇が出来て嬉しいけど父上は忙しくて機嫌悪いんだぁ」
「うちも似たようなものさ、外務大臣の父上は騎士団と共に他国に売られてしまった民の行方探しに奔走されている。外交問題に発展したからな」
彼らの暮らしぶりを黙って聞いていたフィオナだったが、わざわざ王子宮に全員を呼び出した意図が気になる。
「リカル、そろそろ教えて、親睦を深めるために皆さんを呼びつけたわけじゃないのでしょ?」
「ん?あぁ、聡いな本題に入ろうか向こうも待ちくたびれただろうから」
「え、向こう……お客人がいらっしゃるの?」
フィオナはサロンの入口に目をやって何方が来るのかと緊張した。王子は侍女にドアを開けるように合図して悪戯な笑みを浮かべた。
開け放たれたドアの側にいたのは切れ長の目をした青年が少し面倒そうに立っていた。
「紹介しよう!私の新しい側近ベルントだ!」
「えええ!?」
「なんだって?」
「王子……あんたって人は」
ベルント青年は長い手足を所在無げに揺らしてから挨拶した。
「どーも、ベルント・アルゴリオ改めベルント・ウェバーだ、爵位は子爵を賜った。よろしく」
教会を隠れ蓑に違法薬物の売買と他国への輸出、さらには人身売買を行っていた。集めた貧しい者達を信徒と偽り無償の労働力にする為と思われる。
これらのことが易々と行われたことで辺境伯も加担していたと嫌疑が持ち上がった、文官武官で組織された調査隊によって、便宜を図るようにと王命が下されていたと暴かれる。王派閥である辺境伯は教会の荷馬車などの見分を碌にしていなかったのである。
教会内と信徒関係にある貴族家に立ち入り調査した報告書に目を通した宰相は、まるで犯罪組織そのものだと呆れかえった。温い法律のせいで犯罪の温床となってしまったアルゴリオ聖教会の解体へと動き出す。
これらを踏まえ王妃と宰相らは法改正について会議を開く事で合意をした。
王妃は大臣らが召集された大会議室に王を呼び出して告げる。
「我が王よ、奇跡の一つも見せず多数の男と浮名を流す者が巫女のはずがありません。それでも彼女を擁護し教会を支持するというのなら玉座から下ろし王族から排斥します、すでに宰相はじめ大臣らも賛同してます。変革の時ですわ」
王妃の言葉に狼狽する王は地位を奪われると知り漸く現実を見た。
「余は、余はただ国の為にと!ただそれだけだったのだ、猊下が姫巫女が現れたと嬉しそうに……あぁ……治癒術に長けた彼を余は信じすぎたのだな」
王の信頼はとうに地の底まで失墜していたので早めの退位は避けられまいと王妃は悲しい顔をした。ともに蟄居することを決めた王妃は早々に第一王子の戴冠式を行うように宰相たちに要請した。
同時に国王を誑かして国を食い物にしようとした教会と姫巫女に、国民たちから非難の集中砲火が始まる。
教会周囲には暴徒化した民衆で犇めき罵声が飛び交い、投石やゴミなどの投棄が連日止まない。
こうして姫巫女などと祭り上げた聖教会の大司教は窮地に陥った。
「猊下、もはやこれまでかと……」
裏で悪さをしてきた司教達と信徒であった貴族らも逮捕状が出されるのは時間の問題であった。
「く、くそう!やっと国の頂にまで手が届こうとしたというのに!ベルントめ!この裏切り行為は終生忘れぬぞ!」
やはり大司教は国家の転覆を目論んでいたらしい、それに侍っていた下位貴族はお零れにあずかれなくなった現実を見て怒り、そして罪に問われることを何より恐れた。
諦めの悪い大司教たちは籠城を決め込むが、屈強な騎士団に敵うわけもなく、逮捕状が出された数日後には関係者はほぼ全員捕縛された。
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騒動がひと段落したある日、ステラロザーデ侯爵邸にリカルデルが訪問してきた。
「悪の巣窟は潰されたが、まだ腐敗したゴミの一掃とはいかないだろう。国を守るべき辺境伯が裏切っていたのはかなり痛い」
王の息がかかった貴族は少なくない、大半は下位貴族ではあっても執政に影響は続くだろうと王子は厳しい顔をする。応接間に揃った侯爵一家は神妙な面持ちで王子の報告に耳を傾けている。
財務大臣である侯爵は王による使途不明金の調査と回収でかなり疲弊していた、やはり省庁内でも息のかかった小者はいたらしい。
「国の瓦解の危機かと存じます、だが我らは諦めない。国の子らの未来の為にも」
「ああ、その通りだな。想像以上の悪影響に私も驚いたさ。国の中枢にまで悪の手が及んでいたのだから」
王子とフィオネは場所を変えて話し合いをすることにした。場所は王子宮のサロンである。そこには彼の側近たちも同席していた。
「少し痩せたかいフィ……心配だ」
「いいえ、リカルほどではないわ。貴方こそご自愛くださいな」
互いを気遣って苦笑する二人はほんの少しだけいつもの日常に戻れたようだ。学園では教師たちの総替えが行われており新任教師たちが派遣されるまで休園中なのだ。
「ボクは休暇が出来て嬉しいけど父上は忙しくて機嫌悪いんだぁ」
「うちも似たようなものさ、外務大臣の父上は騎士団と共に他国に売られてしまった民の行方探しに奔走されている。外交問題に発展したからな」
彼らの暮らしぶりを黙って聞いていたフィオナだったが、わざわざ王子宮に全員を呼び出した意図が気になる。
「リカル、そろそろ教えて、親睦を深めるために皆さんを呼びつけたわけじゃないのでしょ?」
「ん?あぁ、聡いな本題に入ろうか向こうも待ちくたびれただろうから」
「え、向こう……お客人がいらっしゃるの?」
フィオナはサロンの入口に目をやって何方が来るのかと緊張した。王子は侍女にドアを開けるように合図して悪戯な笑みを浮かべた。
開け放たれたドアの側にいたのは切れ長の目をした青年が少し面倒そうに立っていた。
「紹介しよう!私の新しい側近ベルントだ!」
「えええ!?」
「なんだって?」
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