中年剣士異世界転生無双

吉口　浩

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プロローグ　死と転生

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　大村五郎は、道路で一人ため息をついていた。
　今年でもう４０になる。しかし、なにごとをもなしていない。単なる一会社員に過ぎない。単調な労働、つまらない日々。
　――もし、生まれる時代が違ったら。
　そう思う時もある。
　彼は剣道家だった。若い頃にはインターハイで上位に入ったこともある。
　しかし、それがなんになろう？　現実にはこうして一介のサラリーマンをやっているだけだ。
　結婚もしていない。このまま朽ちていくのか――。

　そう思っていた矢先、轟音が五郎の耳に入った。
　音の方を見ると、１台のトラックが走り込んでくるところだった。そして、その先には――１人の少年がいた。
　五郎はパッと体を翻した。そうした理由はしれない。しかし、その少年を助けなければならないと思った。
　五郎は跳び、少年の体をつかみ、その体を安全な場所へ放り投げた。そして五郎自身は――死んだ。

　気づくと、五郎は謎の空間にいた。辺りを紫の霧が覆っている。

「ここは……」
「生と死のはざまの空間だ」

　どこからか声が聞こえた。

「死んだのか、俺は」

　五郎はため息をついた。

「その通り。私は――まあ神のようなものだ。望むならこのままあの世に連れて行ってもいい」
「別の道があるのか？」
「元の肉体を復元するのは不可能だ。しかし、別の世界での新たな生を与えることはできる」
「ずいぶんと優しいな」
「自らの命を呈して少年を助けたご褒美だ。ついでに、貴様の真なる能力を『開花』させてやろう」
「ご褒美だけにいたれりつくせりというわけか。では、頼む」
「よかろう」

　五郎の眼前を光が覆った。

　気づくと、五郎は草原に座っていた。体には、着物を身に着けている。
　体中から力が溢れてくる。年齢が若返っているのを感じた。おそらくは２０歳ほどになっている。
　手元に一本の刀があった。抜いて、その輝きを見た。相当な業物であることは間違いない。
　辺りを見回すと、少し先に村が見えた。

「ふむ」

　五郎は刀を取り、歩き出した。

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