中年剣士異世界転生無双

吉口 浩

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第5章 初めての仕事

ギルドへ

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 五郎たちは助けた冒険者パーティーと同道し、数日の旅を経てガレンドの街へとたどり着いた。
 潮の香る港町であり、その入口は城壁でしっかりと守られていた。
 この世界に転生してから五郎が訪れたどんな街よりも遥かに大きかった。

「大きな街ですねえ」

 サリーがつぶやいた。
 なるほど、転生以前に近代都市を見てきた五郎から見れば『この世界で初めての大きな街』でしかないが、サリーにとっては正真正銘、生まれて初めて見る巨大都市なのである。その驚きはもっともと言えた。

「道に迷うなよ、お嬢ちゃん」

 冒険者一行の1人が笑いながら言った。
 サリーは照れて笑う。

「さ、とりあえずギルドまで案内しよう」

 冒険者のリーダーである例の髭面の男が言い、一行は歩き出した。

 しばらく歩いたところで、ルーが、

「変わったな、ここも」

 とポツリつぶやいた。

「来たことがあるのか?」

 五郎が聞いた。

「75年も生きてれば冒険者をやってたことだってある」
「じゃ、ギルドにも昔所属してたのか?」
「30年は前のことだ」

 と、ルーはつぶやいた。

 冒険者ギルドは街の中央からほど近い分かりやすい場所にあり、たどり着くのにそれほどの時間は要さなかった。
 石造りの建物の中に入ると、中はそれなりの数の冒険者でごったがえしている。
 髭面のリーダーが五郎たちに言った。

「ここで待っててくれ、ゴードンに話をつけてくる」
「ゴードン?」
「ここのギルドのボスさ」

 髭面の男が去った。
 五郎たちは椅子に座った。
 喧騒の中でしばらくを待つ。
 しばらく経つと、男が戻ってきた。

「話は通しといた。あとは、あんたらが自分で自己紹介してくれ」
「分かった」

 五郎たちは、男たちと手を振って別れた。
 そして廊下を渡り、奥のギルド長の部屋へと入る。

 部屋の中に入ると、一人のはげた男が執務机を前にして座っていた。
 かたわらには護衛なのだろう、筋骨隆々とした男が立っている。

「紹介してもらった者なんだが……」

 五郎が言うと、はげた男――すなわちギルド長のゴードンは答えた。

「ああ。うちの連中の失敗の尻拭いをしてくれたそうですな」

 柔らかい物腰である。

「まあ、そういうことになるかな」
「紹介のためにタダ働きをなさるとはご苦労でございましたなあ」
「ツテになったんだからタダではないさ」
「左様な考え方もございますな。しかし、そちらのお方がご一緒なら、そんなことをなさらずともよかったでしょうに」

 そう言ってゴードンが見たのはルーである。
 ルーは髪をかきあげながら答えた。

「お前がまだ現役だとは思わなかった」
「ほほ……丈夫だけが取り柄で」
「知り合いなのか?」

 五郎が聞いた。

「私が冒険者だった頃もこいつがギルド長だった。まったく、人間にしては長生きしやがる……」
「ルー様がご一緒でしたなら、オーガ退治も楽な仕事でございましたでしょ」

 そう言ってまた、ゴードンはほっほと笑った。

「しかしルー様、あなたはずいぶん前にコロセウムのチャンピオンになられたと聞いておりましたが」
「……色々あったんだ」
「左様ですか。まあ、詮索はいたしますまい。ところで、ええ、そちらの旦那様……」
「大村五郎だ」
「ふむ。格好といいジパング渡りですな」

 ジパング。
 五郎は、神から与えられたこの世界の「常識」のおかげで、この世界の東方にそうした国があることは知っている。その文化は中世日本に近いという。
 とはいえ、その詳細の知識までを与えられたわけではない。
 もっとも、異世界から生まれ変わったなどというたわごとを言うよりは、そちらの方が面倒がなかろうと思った。

「まあ、そんなところさ」
「こちらのギルドのシステムをご案内します。こちらがお客様――つまりお困りになった方々から受けたご依頼につきましては、まあ、あちらのうるさいところに掲示させていただいております。掲示物をこちらに持ってきていただければ」
「仕事が出来る、と」
「そんなところでございます。ま、重要な仕事や難しい案件でしたら、こちらに冒険者様をお呼びして内密に仕事をお願いすることもございますが。――皆様くらいの腕利きの方ですとこちらの方法で仕事をお願いすることも多くなると存じます」
「ああ。大体分かった」

 と、五郎はうなずいた。
 まさに仕事の周旋屋であった。

「さて。もしよろしければ」

 と、ゴードンが微笑んだ。

「こちらのギルドでの初めてのお仕事を、なさってみる気はございませんか」
「急だな、ゴードンさん」
「この男は昔からそうだ」

 ルーが言った。

「金貨5000枚の大仕事でございます」

 なかなかの額である。
 五郎は興味をそそられ、話の先を促した。

「どんな仕事なんだ?」
「護衛任務でございます。こちらの街にお住まいの騎士のご子息が、東に3日ばかり行ったところの村に領主として着任いたしますので」
「それを送り届ければいいのか?」

 五郎は拍子抜けした。

「ほほ……物足りのうございますか、しかし美味しい仕事でございますよ。手前どもの冒険者の尻を拭っていただいた上に、初めてのお仕事ですからお回しするのです」
 
 ゴードンはそこで、一度息をつぐ。
 そして続けた。

「いかにお強いお方でも、常々仕事があるというもんじゃござんせん。悪い仕事ではないと思いますが」
「む、では」

 五郎はうなずき、依頼を請けた。
 多少口車に乗った感もあったが、しかし、たしかに悪い仕事ではないと思った。
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