21 / 97
第5章 初めての仕事
ギルドへ
しおりを挟む
五郎たちは助けた冒険者パーティーと同道し、数日の旅を経てガレンドの街へとたどり着いた。
潮の香る港町であり、その入口は城壁でしっかりと守られていた。
この世界に転生してから五郎が訪れたどんな街よりも遥かに大きかった。
「大きな街ですねえ」
サリーがつぶやいた。
なるほど、転生以前に近代都市を見てきた五郎から見れば『この世界で初めての大きな街』でしかないが、サリーにとっては正真正銘、生まれて初めて見る巨大都市なのである。その驚きはもっともと言えた。
「道に迷うなよ、お嬢ちゃん」
冒険者一行の1人が笑いながら言った。
サリーは照れて笑う。
「さ、とりあえずギルドまで案内しよう」
冒険者のリーダーである例の髭面の男が言い、一行は歩き出した。
しばらく歩いたところで、ルーが、
「変わったな、ここも」
とポツリつぶやいた。
「来たことがあるのか?」
五郎が聞いた。
「75年も生きてれば冒険者をやってたことだってある」
「じゃ、ギルドにも昔所属してたのか?」
「30年は前のことだ」
と、ルーはつぶやいた。
冒険者ギルドは街の中央からほど近い分かりやすい場所にあり、たどり着くのにそれほどの時間は要さなかった。
石造りの建物の中に入ると、中はそれなりの数の冒険者でごったがえしている。
髭面のリーダーが五郎たちに言った。
「ここで待っててくれ、ゴードンに話をつけてくる」
「ゴードン?」
「ここのギルドのボスさ」
髭面の男が去った。
五郎たちは椅子に座った。
喧騒の中でしばらくを待つ。
しばらく経つと、男が戻ってきた。
「話は通しといた。あとは、あんたらが自分で自己紹介してくれ」
「分かった」
五郎たちは、男たちと手を振って別れた。
そして廊下を渡り、奥のギルド長の部屋へと入る。
部屋の中に入ると、一人のはげた男が執務机を前にして座っていた。
かたわらには護衛なのだろう、筋骨隆々とした男が立っている。
「紹介してもらった者なんだが……」
五郎が言うと、はげた男――すなわちギルド長のゴードンは答えた。
「ああ。うちの連中の失敗の尻拭いをしてくれたそうですな」
柔らかい物腰である。
「まあ、そういうことになるかな」
「紹介のためにタダ働きをなさるとはご苦労でございましたなあ」
「ツテになったんだからタダではないさ」
「左様な考え方もございますな。しかし、そちらのお方がご一緒なら、そんなことをなさらずともよかったでしょうに」
そう言ってゴードンが見たのはルーである。
ルーは髪をかきあげながら答えた。
「お前がまだ現役だとは思わなかった」
「ほほ……丈夫だけが取り柄で」
「知り合いなのか?」
五郎が聞いた。
「私が冒険者だった頃もこいつがギルド長だった。まったく、人間にしては長生きしやがる……」
「ルー様がご一緒でしたなら、オーガ退治も楽な仕事でございましたでしょ」
そう言ってまた、ゴードンはほっほと笑った。
「しかしルー様、あなたはずいぶん前にコロセウムのチャンピオンになられたと聞いておりましたが」
「……色々あったんだ」
「左様ですか。まあ、詮索はいたしますまい。ところで、ええ、そちらの旦那様……」
「大村五郎だ」
「ふむ。格好といいジパング渡りですな」
ジパング。
五郎は、神から与えられたこの世界の「常識」のおかげで、この世界の東方にそうした国があることは知っている。その文化は中世日本に近いという。
とはいえ、その詳細の知識までを与えられたわけではない。
もっとも、異世界から生まれ変わったなどというたわごとを言うよりは、そちらの方が面倒がなかろうと思った。
「まあ、そんなところさ」
「こちらのギルドのシステムをご案内します。こちらがお客様――つまりお困りになった方々から受けたご依頼につきましては、まあ、あちらのうるさいところに掲示させていただいております。掲示物をこちらに持ってきていただければ」
「仕事が出来る、と」
「そんなところでございます。ま、重要な仕事や難しい案件でしたら、こちらに冒険者様をお呼びして内密に仕事をお願いすることもございますが。――皆様くらいの腕利きの方ですとこちらの方法で仕事をお願いすることも多くなると存じます」
「ああ。大体分かった」
と、五郎はうなずいた。
まさに仕事の周旋屋であった。
「さて。もしよろしければ」
と、ゴードンが微笑んだ。
「こちらのギルドでの初めてのお仕事を、なさってみる気はございませんか」
「急だな、ゴードンさん」
「この男は昔からそうだ」
ルーが言った。
「金貨5000枚の大仕事でございます」
なかなかの額である。
五郎は興味をそそられ、話の先を促した。
「どんな仕事なんだ?」
「護衛任務でございます。こちらの街にお住まいの騎士のご子息が、東に3日ばかり行ったところの村に領主として着任いたしますので」
「それを送り届ければいいのか?」
五郎は拍子抜けした。
「ほほ……物足りのうございますか、しかし美味しい仕事でございますよ。手前どもの冒険者の尻を拭っていただいた上に、初めてのお仕事ですからお回しするのです」
ゴードンはそこで、一度息をつぐ。
そして続けた。
「いかにお強いお方でも、常々仕事があるというもんじゃござんせん。悪い仕事ではないと思いますが」
「む、では」
五郎はうなずき、依頼を請けた。
多少口車に乗った感もあったが、しかし、たしかに悪い仕事ではないと思った。
潮の香る港町であり、その入口は城壁でしっかりと守られていた。
この世界に転生してから五郎が訪れたどんな街よりも遥かに大きかった。
「大きな街ですねえ」
サリーがつぶやいた。
なるほど、転生以前に近代都市を見てきた五郎から見れば『この世界で初めての大きな街』でしかないが、サリーにとっては正真正銘、生まれて初めて見る巨大都市なのである。その驚きはもっともと言えた。
「道に迷うなよ、お嬢ちゃん」
冒険者一行の1人が笑いながら言った。
サリーは照れて笑う。
「さ、とりあえずギルドまで案内しよう」
冒険者のリーダーである例の髭面の男が言い、一行は歩き出した。
しばらく歩いたところで、ルーが、
「変わったな、ここも」
とポツリつぶやいた。
「来たことがあるのか?」
五郎が聞いた。
「75年も生きてれば冒険者をやってたことだってある」
「じゃ、ギルドにも昔所属してたのか?」
「30年は前のことだ」
と、ルーはつぶやいた。
冒険者ギルドは街の中央からほど近い分かりやすい場所にあり、たどり着くのにそれほどの時間は要さなかった。
石造りの建物の中に入ると、中はそれなりの数の冒険者でごったがえしている。
髭面のリーダーが五郎たちに言った。
「ここで待っててくれ、ゴードンに話をつけてくる」
「ゴードン?」
「ここのギルドのボスさ」
髭面の男が去った。
五郎たちは椅子に座った。
喧騒の中でしばらくを待つ。
しばらく経つと、男が戻ってきた。
「話は通しといた。あとは、あんたらが自分で自己紹介してくれ」
「分かった」
五郎たちは、男たちと手を振って別れた。
そして廊下を渡り、奥のギルド長の部屋へと入る。
部屋の中に入ると、一人のはげた男が執務机を前にして座っていた。
かたわらには護衛なのだろう、筋骨隆々とした男が立っている。
「紹介してもらった者なんだが……」
五郎が言うと、はげた男――すなわちギルド長のゴードンは答えた。
「ああ。うちの連中の失敗の尻拭いをしてくれたそうですな」
柔らかい物腰である。
「まあ、そういうことになるかな」
「紹介のためにタダ働きをなさるとはご苦労でございましたなあ」
「ツテになったんだからタダではないさ」
「左様な考え方もございますな。しかし、そちらのお方がご一緒なら、そんなことをなさらずともよかったでしょうに」
そう言ってゴードンが見たのはルーである。
ルーは髪をかきあげながら答えた。
「お前がまだ現役だとは思わなかった」
「ほほ……丈夫だけが取り柄で」
「知り合いなのか?」
五郎が聞いた。
「私が冒険者だった頃もこいつがギルド長だった。まったく、人間にしては長生きしやがる……」
「ルー様がご一緒でしたなら、オーガ退治も楽な仕事でございましたでしょ」
そう言ってまた、ゴードンはほっほと笑った。
「しかしルー様、あなたはずいぶん前にコロセウムのチャンピオンになられたと聞いておりましたが」
「……色々あったんだ」
「左様ですか。まあ、詮索はいたしますまい。ところで、ええ、そちらの旦那様……」
「大村五郎だ」
「ふむ。格好といいジパング渡りですな」
ジパング。
五郎は、神から与えられたこの世界の「常識」のおかげで、この世界の東方にそうした国があることは知っている。その文化は中世日本に近いという。
とはいえ、その詳細の知識までを与えられたわけではない。
もっとも、異世界から生まれ変わったなどというたわごとを言うよりは、そちらの方が面倒がなかろうと思った。
「まあ、そんなところさ」
「こちらのギルドのシステムをご案内します。こちらがお客様――つまりお困りになった方々から受けたご依頼につきましては、まあ、あちらのうるさいところに掲示させていただいております。掲示物をこちらに持ってきていただければ」
「仕事が出来る、と」
「そんなところでございます。ま、重要な仕事や難しい案件でしたら、こちらに冒険者様をお呼びして内密に仕事をお願いすることもございますが。――皆様くらいの腕利きの方ですとこちらの方法で仕事をお願いすることも多くなると存じます」
「ああ。大体分かった」
と、五郎はうなずいた。
まさに仕事の周旋屋であった。
「さて。もしよろしければ」
と、ゴードンが微笑んだ。
「こちらのギルドでの初めてのお仕事を、なさってみる気はございませんか」
「急だな、ゴードンさん」
「この男は昔からそうだ」
ルーが言った。
「金貨5000枚の大仕事でございます」
なかなかの額である。
五郎は興味をそそられ、話の先を促した。
「どんな仕事なんだ?」
「護衛任務でございます。こちらの街にお住まいの騎士のご子息が、東に3日ばかり行ったところの村に領主として着任いたしますので」
「それを送り届ければいいのか?」
五郎は拍子抜けした。
「ほほ……物足りのうございますか、しかし美味しい仕事でございますよ。手前どもの冒険者の尻を拭っていただいた上に、初めてのお仕事ですからお回しするのです」
ゴードンはそこで、一度息をつぐ。
そして続けた。
「いかにお強いお方でも、常々仕事があるというもんじゃござんせん。悪い仕事ではないと思いますが」
「む、では」
五郎はうなずき、依頼を請けた。
多少口車に乗った感もあったが、しかし、たしかに悪い仕事ではないと思った。
11
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー
芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。
42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。
下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。
約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。
それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。
一話当たりは短いです。
通勤通学の合間などにどうぞ。
あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。
完結しました。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる