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第5章 初めての仕事
村の直前で
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3日めである。
もはや、カーツ村までは間近い。
一行は歩を進めた。
晴れたいい日だった。
アルフェンバッファは、実戦能力の低さこそ苦笑ものではあったが、決して嫌な人物ではなく、道行きはそれほど嫌なものでもなかった。
しばらく、順調な旅程が続いた。
しかし、それを遮るものがあったのである。
パカッパカッという音が、街道のはるか先から響いてきた。
1人の黒い鎧の騎士が、馬に乗って歩いてくる。
騎士は五郎たちの最前まで来ると、止まった。
そして言う。
「そちらにおわす騎士はアルフェンバッファ家のご子息か?」
「いかにも」
アルフェンバッファは答えた。
「ならば、この場で決闘を受けていただこう」
「なんと?」
アルフェンバッファは驚きの声を出す。
五郎たちとて、驚きの声をあげざるをえない。
一体、こんな実戦もろくにしたことのない騎士がなんの恨みを持たれたというのだろう。
「50年前、ゲリンフの戦い。こういえば思い出すであろう」
「おお……それは父上が反乱を起こしたゲリンフ公の軍隊をさんざんっぱらに打ち破った戦いであった」
と、アルフェンバッファは言った。
それに答えて黒騎士が言う。
「我が祖父は、その戦いにおいて貴君の父に討ち取られた」
「その敵討ちというわけか」
「左様。街から出ぬうちは機会がなかったが、その子息が村へと赴任すると聞いて、これこそもっけの幸いと思い、馬を走らせ、街道で待ち構えていた次第」
「うぬぬ……分かった」
アルフェンバッファは言った。
そして、槍を構える。
「ご、五郎さん。アルフェンバッファさん、殺されてしまいます」
サリーが五郎のそでをつかむ。
「うーむ」
五郎もまさに同感であった。
とはいえ……。
「止めるわけにもいくまい」
こう言ったのはルーである。
騎士が親のカタキと決闘を挑まれて、それを受けずにいれば家名の名折れとなるだろう。止めて止まるものでもなかった。
「よしっ」
五郎はそう言って、アルフェンバッファの方へと歩いた。
「アルフェンバッファ殿」
「お止めめさるなら無駄というもの」
「いや、お止めはいたしません。御身は馬の手綱と槍をしっかと握り、敵に向かって突進していただけばよろしい。そうすればご武運は微笑まれましょう」
「かたじけない」
アルフェンバッファは一礼をして、馬を走らせた。
それに呼応するかのように、黒騎士も馬を走らせる。
馬の走らせ方ひとつとっても、お互いの腕の差は歴然としている。
このまま槍をぶつけあえば、アルフェンバッファが血にまみれて倒れることは火を見るよりも明らかだった。
五郎はすうと息を吸い、タイミングを見計らう。
アルフェンバッファと黒騎士、互いの槍が近づいた瞬間である。
五郎は、刀を抜き、振った。
その切っ先から、かまいたちのような風が飛ぶ。
まさに秘剣であった。
五郎はその切っ先の勢いでもって、一種の風の刃を作り出したのである。
風の刃は、黒騎士の馬の前足を切った。
「ぐおっ」
突然に馬がバランスを崩し、黒騎士は馬から転げ落ちる。
それをなんとか見て取ったのだろう、アルフェンバッファは馬を止めた。
しばしの沈黙が流れた。
五郎が言った。
「それまで! アルフェンバッファ殿の勝利!」
アルフェンバッファも黒騎士も、ただ呆然とするばかりである。
しかし、たしかにこの状況は、アルフェンバッファの勝利と呼ぶしかない。
「永年の責務は果たした……やむをえまい」
がくりと肩を落とした黒騎士はびっこを引いた馬を引き、トボトボと道を歩いていった。
「はて……私は勝ったのだろうか?」
アルフェンバッファは馬上で首をかしげた。
「必死の気持ちが天に届き、あなたに勝利をもたらしたのでしょう」
五郎はそう言って、アルフェンバッファを祝福した。
「うむ……」
アルフェンバッファはそう言って、目をつむった。
口元を見ると、神に感謝の祈りを捧げているようだった。
もはや、カーツ村までは間近い。
一行は歩を進めた。
晴れたいい日だった。
アルフェンバッファは、実戦能力の低さこそ苦笑ものではあったが、決して嫌な人物ではなく、道行きはそれほど嫌なものでもなかった。
しばらく、順調な旅程が続いた。
しかし、それを遮るものがあったのである。
パカッパカッという音が、街道のはるか先から響いてきた。
1人の黒い鎧の騎士が、馬に乗って歩いてくる。
騎士は五郎たちの最前まで来ると、止まった。
そして言う。
「そちらにおわす騎士はアルフェンバッファ家のご子息か?」
「いかにも」
アルフェンバッファは答えた。
「ならば、この場で決闘を受けていただこう」
「なんと?」
アルフェンバッファは驚きの声を出す。
五郎たちとて、驚きの声をあげざるをえない。
一体、こんな実戦もろくにしたことのない騎士がなんの恨みを持たれたというのだろう。
「50年前、ゲリンフの戦い。こういえば思い出すであろう」
「おお……それは父上が反乱を起こしたゲリンフ公の軍隊をさんざんっぱらに打ち破った戦いであった」
と、アルフェンバッファは言った。
それに答えて黒騎士が言う。
「我が祖父は、その戦いにおいて貴君の父に討ち取られた」
「その敵討ちというわけか」
「左様。街から出ぬうちは機会がなかったが、その子息が村へと赴任すると聞いて、これこそもっけの幸いと思い、馬を走らせ、街道で待ち構えていた次第」
「うぬぬ……分かった」
アルフェンバッファは言った。
そして、槍を構える。
「ご、五郎さん。アルフェンバッファさん、殺されてしまいます」
サリーが五郎のそでをつかむ。
「うーむ」
五郎もまさに同感であった。
とはいえ……。
「止めるわけにもいくまい」
こう言ったのはルーである。
騎士が親のカタキと決闘を挑まれて、それを受けずにいれば家名の名折れとなるだろう。止めて止まるものでもなかった。
「よしっ」
五郎はそう言って、アルフェンバッファの方へと歩いた。
「アルフェンバッファ殿」
「お止めめさるなら無駄というもの」
「いや、お止めはいたしません。御身は馬の手綱と槍をしっかと握り、敵に向かって突進していただけばよろしい。そうすればご武運は微笑まれましょう」
「かたじけない」
アルフェンバッファは一礼をして、馬を走らせた。
それに呼応するかのように、黒騎士も馬を走らせる。
馬の走らせ方ひとつとっても、お互いの腕の差は歴然としている。
このまま槍をぶつけあえば、アルフェンバッファが血にまみれて倒れることは火を見るよりも明らかだった。
五郎はすうと息を吸い、タイミングを見計らう。
アルフェンバッファと黒騎士、互いの槍が近づいた瞬間である。
五郎は、刀を抜き、振った。
その切っ先から、かまいたちのような風が飛ぶ。
まさに秘剣であった。
五郎はその切っ先の勢いでもって、一種の風の刃を作り出したのである。
風の刃は、黒騎士の馬の前足を切った。
「ぐおっ」
突然に馬がバランスを崩し、黒騎士は馬から転げ落ちる。
それをなんとか見て取ったのだろう、アルフェンバッファは馬を止めた。
しばしの沈黙が流れた。
五郎が言った。
「それまで! アルフェンバッファ殿の勝利!」
アルフェンバッファも黒騎士も、ただ呆然とするばかりである。
しかし、たしかにこの状況は、アルフェンバッファの勝利と呼ぶしかない。
「永年の責務は果たした……やむをえまい」
がくりと肩を落とした黒騎士はびっこを引いた馬を引き、トボトボと道を歩いていった。
「はて……私は勝ったのだろうか?」
アルフェンバッファは馬上で首をかしげた。
「必死の気持ちが天に届き、あなたに勝利をもたらしたのでしょう」
五郎はそう言って、アルフェンバッファを祝福した。
「うむ……」
アルフェンバッファはそう言って、目をつむった。
口元を見ると、神に感謝の祈りを捧げているようだった。
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