中年剣士異世界転生無双

吉口 浩

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第9章 プレゼント

魔術師の塔

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 五郎はガレンドの街を出て歩いた。
 無論、魔術師の塔へとたどり着くためである。
 しばらく歩くと、高い塔が見えてきた。
 そして塔の入り口には、何人もの男たちがぐったりと倒れていた。
 その体には、めいめい怪我を負っている。
 五郎はその中に、見慣れた髭面の男を見つけた。
 知り合いの冒険者、ダドリー・マルケである。

「おお、五郎か」

 ダドリーは笑った。
 しかし、そのすぐ後に、

「あ、いたったた……」

 とうなる。
 どうやらどこかに怪我をしているらしかった。

「大丈夫か?」

 五郎が言うと、

「なに、少し腰をやられただけだ。塔の中でひどいめにあってな……」
「手当てはいるか?」
「いや、それほどの傷じゃない。さっき自分で手当てした。それに、サリーどのならともかくおぬしに手当てしてもらっても嬉しくない」

 ダドリーはそう言って笑った。
 このぶんなら大した怪我ではなさそうである。
 ダドリーは五郎に言った。

「しかし、やはりおぬしも来たか」
「ああ、街で張り紙を見たのでな」
「ふむ、おぬしならやれるかもしれん」
「それはやってみなければ分からんよ」
「ま、がんばってこい。わしはここでしばらく休む」

 ダドリーはそう言うと、また腰をさすりだした。
 五郎はダドリーに分かれをつげると、開け放しになっている塔の中へと入っていく。

 五郎が中に入ると、塔のドアはばたんとしまった。
 どうやら、1人ずつしか挑戦できないようになっているようだった。

「ルーがいなくてよかった」

 と、五郎はつぶやいた。
 プライドの高い彼女のことだから、どちらが先に挑戦するかでもめることになっただろう。
 五郎は部屋の中を見回した。
 なにもない。
 ただ、上に登るはしごがあるばかりである。
 五郎は、はしごに向かって歩き出した。
 すると、空中に何個もの炎が現れる。
 炎たちは、五郎に向かって殺到した。
 五郎は腰の刀を振り回した。
 狙い誤ることなく炎に命中し、炎はふっと消える。
 しかし、それで終わりではない。
 炎がまた、現れた。
 
(これはまた切りのないことだ)

 と五郎は思い、走った。
 そして、はしごに飛び移る。
 炎の群れが五郎を追う。
 五郎はまた、刀を振った。
 炎たちが再び消えた。
 そしてまた現れる。
 無論、五郎はそれは先刻承知の上である。
 はしごを登り、かつ斬った。
 それを幾度か繰り返すうちに、五郎ははしごの上にたどり着いた。
 つまりは2階にたどり着いた、ということである。
 2階にたどり着いたとたん、炎たちの殺到はぴたりとやんだ。
 あの炎の罠は、1階にいる人間にだけ反応するようになっているのだろう。
 五郎は、2階を見回した。
 そして、目の前に大きな彫像があるのを見て取る。
 五郎は刀を持って、彫像の方に構えた。
 轟音がし、彫像が動き出す。

(やはりか)

 五郎の見込んだ通りである。
 彫像は魔法で動くゴーレムだったのである。
 ゴーレムは無言で、かつ巨体に似合わぬ素早さで、五郎めがけて拳を振り下ろした。
 五郎はすばやくかわす。
 そして腕を斬った。
 ゴーレムの腕が落ちる。
 しかし、ゴーレムの腕は宙に浮かび、また、元あった場所に接着された。

「ふむ。再生の呪文か」

 五郎はつぶやいた。
 一流の魔法使いともなれば、ゴーレムにそうした魔法をかけておくこともあるだろう。
 五郎はひゅうと一息をつく。
 そして、ゴーレムめがけて跳んだ。
 一瞬に刀が乱舞した。
 ゴーレムが粉々にくだけ散る。
 いや、1つだけ、粉々になっていないものがあった。
 人の心臓を模した形の1つの魔法石が、光うごめいている。
 粉々になったパーツたちが、その魔法石めがけて集まろうとしている。
 形のとおり、この魔法石がこのゴーレムの心臓であり、コアなのだろう。
 五郎は刀を振り下ろし、魔法石をも粉々にした。
 集まろうとしていたゴーレムのパーツはぴたりと止まり、部屋は静かになった。

 ゴーレムが止まるのと同時に、どこからかはしごが降りてきた。
 どうやらゴーレムを倒すとはしごが降りてくる仕掛けであったらしい。
 五郎ははしごに飛びつき、登った。

 はしごを登った先には、書斎があった。
 これまでのがらんとした部屋とは打って変わった物の多さで、あちこちに本や魔術道具が並んでいた。
 そんな部屋の隅の机で、1人のローブを着た老人が本を読んでいた。

「魔術師のラスークどのかな?」

 と、五郎が言った。
 老人はふっと向き直った。

「これはこれは……こうも早く攻略者が現れるとは」

 と、老人は驚いたあと、

「その通り。わしがラスークよ」

 と言った。そして更に続けて、

「面白かったかね?」

 と五郎に聞いた。

「あまり手応えがあるとは言えなかったな」
「お主の腕がありすぎるのかもしれんぞ」
「さあ……それは自分では分からんよ」
「ふふふ……神の刀を持つ男がそう言うか」

 どうやらラスークは、五郎が腰に差している刀の価値を見抜いたようだった。
 五郎は感心しつつも、

「現金なようだが、試練を越えたご褒美というものをもらえるかな」

 と言った。ラスークは

「もちろん、やろう。その刀に比べると、大したものではないがね」

 と答えると、懐から小箱を出した。
 小箱はすうと宙を飛んで、五郎の手へと収まった。
 五郎は小箱を開けてみる。
 中には、1つの指輪が入っていた。

「これは……?」
「魔法の指輪だ」
「ふむ」

 五郎はまじまじと見つめた。

「俺の指には少し細いようだ」
「男物ではない」
「ほう」
「といって、女も簡単にはつけられんがな」
「どういうことだ?」

 と、五郎はいぶかしんだ。
 ラスークは笑いながら答える。

「女がもっとも愛する男の手によってはめられた時に、初めて指輪はその手にはまる。一度はまれば、外すことは出来るがなくすことはない。常に持ち主の元へと戻ってくる」
「難儀な指輪だな」
「その代わり、このラスークと同等の魔力を得ることができる。魔法の障壁で身を守り、指からは魔力の火炎を発射し、空を飛び、時空を超える」
「大したものだ」
「作るのには苦労した。面白くもあったが」
 ラスークはそう言って笑い、
「では、さらばだ」
 と呪文を唱えた。
 五郎の目の前が光に包まれた。

 気づくと五郎は、平原に立っていた。
 周りには、先程から塔の周りにいた失敗した冒険者たちが転がっていた。
 どうやら、ラスークは塔ごとこの地から去ったようである。

「おお、どうやらやったな」

 そう声をかけてきたのは、髭面のダドリーである。

「まあ、そんなところだ」
「『モノ』はなんだった」
 モノとはもちろん、ラスークにもらったもののことだろう。
「これだ」
「指輪か。あまり高そうなものでもないが」
「魔力の指輪だそうだ」
「ふむ。……誰にやる」

 と、ダドリーが言った。
 五郎は答えて、

「まあ、大体の算段はある」

 と言った。
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