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第11章 暴走騎士
西の街道
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日も暮れかけた夕方近く。
五郎たち3人は、ガレンドの街から西に出た街道を歩いていた。
普通であれば、歩くにはいい時間帯とは言えない。
なにかに襲われる可能性があった。
しかしながら、今回の五郎たちの場合はそれでよかった。
その「なにか」に襲われるのが目的であったからである。
五郎たちは、ゆっくりと街道を歩いていた。
「うまく出てくれますかね?」
サリーが聞いた。
「それは分からん」
と、五郎が答える。そして、
「ただ、強そうな相手は狙わんという手合ではないようだ。通り魔の時のような小細工をする必要はあるまい」
と、つけたした。
しばらく街道を歩くうち、夜になった。
サリーが、
「灯りをつけますね」
といい、手の先から光の玉を出した。
先日魔術師から手に入れた指輪の魔法である。
サリーの指先から出た光の玉は、ぽうと光を放って空を浮く。
五郎たちは、光の玉に照らされながら街道を歩いた。
やがて、パカッ、パカッという音がどこからか響いてくる。
無論、馬の蹄の音であった。
(来たか)
五郎は思った。
案の定である。
街道の果てから、一騎の騎士が、ランスを構えて突進してくる。
まさに猛進とも言うべきすさまじきスピードである。
五郎は騎士の突進方向を見極め、
「サリー、身を守れ!」
と叫んだ。
もっとも与しやすいと見てとったのだろう、騎士はサリーを最初の標的に見定めたようだった。
サリーは、
「はいっ!」
と言うと、その体を光るバリアで包んだ。
魔法による防壁である。
騎士がサリーに接近した。
馬の速力によるすさまじきスピードに乗ったランスが、サリーを襲う。
しかし、ギュインという音と共に、ランスは弾かれる。
サリーの張った防壁がランスを止めたのだった。
(あの魔術師の指輪をもらっていて助かったな)
と五郎は思った。
ランスを弾かれた騎士は、しかしそれで倒れることなく、しばらく五郎たちの遠くに走り、そして円を描いて馬を走らせた。
再び、五郎たちに向かって突進してくる。
「顔! 左脚!」
と、五郎はサリーとルーに向かって言った。
2人ともが、その言葉を意味することに気づいてうなずく。
騎士が五郎たちに近づいた。
その瞬間。
サリーの手から、炎の玉が騎士にめがけて飛び出した。
炎は、騎士の兜に直撃し爆音を上げる。
騎士がひるんだそのスキに、五郎とルーは、それぞれ馬の右脚と左脚に斬りかかった。
馬の脚はどちらともがぴっと斬れてなくなる。
当然、馬は倒れ伏す。
しかし、騎士は共には倒れず、馬から飛び降りた。
「くっ……」
騎士は声をもらした。
炎の痛みに顔を抑えてはいるが、致命傷ではなかったようである。
そして、馬上戦用のランスではなく、剣へと持ち替えた。
臨戦態勢となる。
斬りかかろうとするルーを制して、五郎は言った。
「なぜ、街道を行く人間を襲っていた?」
そう言われて騎士は、
「腕試しよ。実戦をせずば腕はなまる」
と、答えた。
「ならばコロセウムにでも行けばよかろうに。互いに命を賭けて殺し合いが出来るだろう」
五郎がそう言うと、
「それでは面白くない」
と、騎士は答えた。
(所詮は)
この男は殺戮を楽しんでいただけだ、と五郎は思った。
一方的な奇襲による殺戮戦を面白がっていただけなのである。
ただ、腕自体はあり、それを自己正当化の方便に使っていたにすぎない。
「では、俺で腕を試してはどうだ」
五郎はそう言って、刀を構えて歩いた。
騎士は意外そうに、
「ほう、相手はお前1人か」
と言う。
そして、態度に落ち着きを取り戻した。
3人に囲まれ、もはや破れかぶれに思っていたところで、相手が1人となったのを天恵と思ったのだろう。
「そうだ」
五郎はじりじりと近づいた。
騎士が剣を持って近づく。
あと一歩の距離まで近づいたところで、五郎は刀を振った。
同時に、騎士の両手が飛ぶ。
「……?」
騎士は一瞬、なにが起こったかを理解できなかったようである。
しかし、自らの肩からの流血と、本来そこか生えていたはずの腕が「ない」ことによって、状況をようやく悟る。
「腕が……俺の腕がない!」
「試した結果だ。悔いはないだろう」
五郎はそう言って、向きを変えた。
「殺さんのか」
ルーが聞いた。
「それもいいが……腕だけで証拠になる」
五郎はその手に持った騎士の腕2本を持って言った。
「それに、なくなった腕を見て自分の愚かさを悔やませる方が、あるいはあの男には効くかもしれん」
五郎はそう言って歩き出す。
サリーとルーも、それに続いた。
五郎はサリーに、
「血なまぐさいものを見せたな」
と言った。
サリーは首を振り、
「一緒にいるから、覚悟はしてます。いいえ、ああいう人、許せません」
と答えた。
ともあれ、五郎たちは去った。
夜道には、慟哭する騎士だけが残されていた。
五郎たち3人は、ガレンドの街から西に出た街道を歩いていた。
普通であれば、歩くにはいい時間帯とは言えない。
なにかに襲われる可能性があった。
しかしながら、今回の五郎たちの場合はそれでよかった。
その「なにか」に襲われるのが目的であったからである。
五郎たちは、ゆっくりと街道を歩いていた。
「うまく出てくれますかね?」
サリーが聞いた。
「それは分からん」
と、五郎が答える。そして、
「ただ、強そうな相手は狙わんという手合ではないようだ。通り魔の時のような小細工をする必要はあるまい」
と、つけたした。
しばらく街道を歩くうち、夜になった。
サリーが、
「灯りをつけますね」
といい、手の先から光の玉を出した。
先日魔術師から手に入れた指輪の魔法である。
サリーの指先から出た光の玉は、ぽうと光を放って空を浮く。
五郎たちは、光の玉に照らされながら街道を歩いた。
やがて、パカッ、パカッという音がどこからか響いてくる。
無論、馬の蹄の音であった。
(来たか)
五郎は思った。
案の定である。
街道の果てから、一騎の騎士が、ランスを構えて突進してくる。
まさに猛進とも言うべきすさまじきスピードである。
五郎は騎士の突進方向を見極め、
「サリー、身を守れ!」
と叫んだ。
もっとも与しやすいと見てとったのだろう、騎士はサリーを最初の標的に見定めたようだった。
サリーは、
「はいっ!」
と言うと、その体を光るバリアで包んだ。
魔法による防壁である。
騎士がサリーに接近した。
馬の速力によるすさまじきスピードに乗ったランスが、サリーを襲う。
しかし、ギュインという音と共に、ランスは弾かれる。
サリーの張った防壁がランスを止めたのだった。
(あの魔術師の指輪をもらっていて助かったな)
と五郎は思った。
ランスを弾かれた騎士は、しかしそれで倒れることなく、しばらく五郎たちの遠くに走り、そして円を描いて馬を走らせた。
再び、五郎たちに向かって突進してくる。
「顔! 左脚!」
と、五郎はサリーとルーに向かって言った。
2人ともが、その言葉を意味することに気づいてうなずく。
騎士が五郎たちに近づいた。
その瞬間。
サリーの手から、炎の玉が騎士にめがけて飛び出した。
炎は、騎士の兜に直撃し爆音を上げる。
騎士がひるんだそのスキに、五郎とルーは、それぞれ馬の右脚と左脚に斬りかかった。
馬の脚はどちらともがぴっと斬れてなくなる。
当然、馬は倒れ伏す。
しかし、騎士は共には倒れず、馬から飛び降りた。
「くっ……」
騎士は声をもらした。
炎の痛みに顔を抑えてはいるが、致命傷ではなかったようである。
そして、馬上戦用のランスではなく、剣へと持ち替えた。
臨戦態勢となる。
斬りかかろうとするルーを制して、五郎は言った。
「なぜ、街道を行く人間を襲っていた?」
そう言われて騎士は、
「腕試しよ。実戦をせずば腕はなまる」
と、答えた。
「ならばコロセウムにでも行けばよかろうに。互いに命を賭けて殺し合いが出来るだろう」
五郎がそう言うと、
「それでは面白くない」
と、騎士は答えた。
(所詮は)
この男は殺戮を楽しんでいただけだ、と五郎は思った。
一方的な奇襲による殺戮戦を面白がっていただけなのである。
ただ、腕自体はあり、それを自己正当化の方便に使っていたにすぎない。
「では、俺で腕を試してはどうだ」
五郎はそう言って、刀を構えて歩いた。
騎士は意外そうに、
「ほう、相手はお前1人か」
と言う。
そして、態度に落ち着きを取り戻した。
3人に囲まれ、もはや破れかぶれに思っていたところで、相手が1人となったのを天恵と思ったのだろう。
「そうだ」
五郎はじりじりと近づいた。
騎士が剣を持って近づく。
あと一歩の距離まで近づいたところで、五郎は刀を振った。
同時に、騎士の両手が飛ぶ。
「……?」
騎士は一瞬、なにが起こったかを理解できなかったようである。
しかし、自らの肩からの流血と、本来そこか生えていたはずの腕が「ない」ことによって、状況をようやく悟る。
「腕が……俺の腕がない!」
「試した結果だ。悔いはないだろう」
五郎はそう言って、向きを変えた。
「殺さんのか」
ルーが聞いた。
「それもいいが……腕だけで証拠になる」
五郎はその手に持った騎士の腕2本を持って言った。
「それに、なくなった腕を見て自分の愚かさを悔やませる方が、あるいはあの男には効くかもしれん」
五郎はそう言って歩き出す。
サリーとルーも、それに続いた。
五郎はサリーに、
「血なまぐさいものを見せたな」
と言った。
サリーは首を振り、
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ともあれ、五郎たちは去った。
夜道には、慟哭する騎士だけが残されていた。
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