中年剣士異世界転生無双

吉口 浩

文字の大きさ
52 / 97
第13章 街道の家

宿で

しおりを挟む
「夕食はあとで運びますから、お待ちになっておくんなさいよ」

 と、五郎たちを部屋に通した老婆は言った。
 部屋はあまり上等なものとは言えず、ところどころ蜘蛛の巣も張っていたが、しかし野宿よりはマシである。

「ふう、疲れました」

 サリーはそう言い、ベッドに座った。

「ゆっくり休むといい」

 五郎はそう言い、サリーの頭をなでた。

「……気に入らん」

 ルーが言った。
 
「なにがだ? たしかにいい部屋とは言えんが」

 五郎が聞くと、

「どうも殺気がする」
「君はいつも感じているな」
「用心深すぎてすぎることはない」
「それもそうだが……」

 そこで、ドアをノックする音がした。

「どうぞ」

 五郎が答えた。
 すると、ドアがぎいと開く。

「おまたせしました、夕飯になります」

 老婆が夕飯を持ってきたのだった。

「では、私はこれで失礼」

 そう言って老婆は帰った。
 夕飯は粗末な、しかしまずそうではないスープとパンだった。
 こうした時に出てくるものとしてはひどいとは言えない。
 
「いただきます……」

 サリーがそう言って、まず食べようとした。
 が、すぐに鼻をひくひくとさせて、

「なんだか変な匂いがしますね」

 と言った。
 言われて、五郎とルーも匂いをかいでみる。

「たしかに妙だ。ばあさんが変な野草でも入れたかな」

 と五郎が言うと、ルーが、

「そんな生易しいものとは思えん」

 と言う。
 五郎はサリーに、

「鑑定の魔法を使ってみてくれないか」

 と言った。
 
「あ、はい」

 サリーは魔法の指輪をかざし、スープに向かって呪文を唱えた。
 スープの中身についての情報が、サリーの頭に流れ込む。
 サリーはやがて、

「強い眠り薬が入ってます」

 と答えた。

「やはりな。どうする?」

 と、ルーが五郎に聞いた。
 五郎は答えて、

「食わずに返せば怪しまれる。窓から捨てよう」

 と言った。
 2人も答え、中身の半分ほどを捨てた。
 そして、部屋の中でてんでばらばらに眠る。
 つまり、食事中に眠りこけたような格好になった。
 まるで食事の中の眠り薬を飲んだかのように、である。

 しばらくの時間が経った。
 ぎい、という音がした。
 ドアが開き、老婆が入ってくる。

「けっけ、うまくいった、うまくいった」

 老婆はそう言って、しゃあしゃあと音をさせた。
 五郎は薄目で老婆の方を見る。
 老婆は巨大な包丁を持っている。
 その頭には角が生えていた。

(女鬼か)

 五郎は思った。

「さあて、どいつからいただくか……」

 女鬼は、包丁を持ったまま見定めている。

「女の方が美味い。……ここは楽しみを後にとっておこう」

 女鬼はそう言い、五郎に向かって歩いてくる。
 そのすぐそばまで来て、女鬼は、

「さて、こいつからバラバラにするか」

 と、包丁を振り上げ、振り下ろした。
 五郎はパッと身をかわし、女鬼の右手――すなわち包丁を持つ手をしたたかに打った。

「ぎゃっ!」

 女鬼は包丁を取り落とす。
 五郎は女鬼が取り落とした包丁をつかんだ。

「起きていたかっ」
「残念ながらな」
「しかし、包丁ごときを奪った程度で勝ったと思うな」

 女鬼はたちまちにその爪を伸ばす。
 爪は、1メートルばかりの長さまで伸びた。

「しゃあっ!」

 と言いながら、女鬼は五郎に襲いかかった。
 五郎は女鬼の爪の一撃をかわし、その左目に向かって包丁を突き刺す。

「ぎゃっ!」

 達人の手にかかれば、ただの包丁とて素人の刀よりは危険なものだ。
 この場合の五郎もそうだった。
 女鬼のひるんだのを見て、爪の生えた右手と左手とを包丁で切った。
 普段使っている刀ほどではないにせよ、包丁で切ったとは思えぬ見事な切り口ができる。

「ひ…ひ……」

 女鬼は身を翻して逃げようとするが、五郎はそれを見逃さない。
 たっと走り、女鬼の前に回り込む。
 そして、その首筋を包丁で刺した。

「ぎゃあ!」

 女鬼は声を上げ、倒れ、うごめいた。
 五郎はしばらくそれを見ていたが、やがて、女鬼は動かなくなった。

「すんだようだな」

 そう言ったのは、ルーだった。
 もちろん彼女も眠り薬の入ったスープは飲んでいないので、この様子を見ていたのだ。

「手伝ってくれてもよかったんだがな」
「私なら嫌だ」

 なるほど、これで戦ったのがルーならば、1人で戦いたいと思ったことだろう。
 五郎は苦笑して、

「俺は君ほどはプライドは高くない」
「楽な方がいいか」
「ま、こういうときはね」
「ところで、サリーはどうした?」

 とルーが言った。
 たしかに、ルーはともかくサリーが助けに入らないのは不自然ではある。
 五郎は、ベッドに寝転がっているサリーの方に近づいた。
 そこには、すうすうと寝息を立てているサリーがいた。

「まったく、のんきなやつだ」

 と、ルーは言った。

「あるいは大物かもしれんぞ」

 五郎はそう言ったあと、サリーの髪をなで、

「魔法を得たとはいえ、まだまだ我々が守ってやる必要がありそうだ」

 と言った。
 ルーがうなずく。

「で、どうする? 五郎」
「サリーを起こすのもかわいそうだ。この女鬼をかたづけた後は、一晩、ここを借りるとしよう」

 と、五郎は言った。
 サリーの寝顔を見て、それを壊すのが惜しくなったのである。

 翌日、五郎たちは女鬼の家を出た。

「これで少しは、この街道での行方不明者が減るかもしれんな」

 家を出たあとルーが言った。

「ですね」

 と、サリーが相槌を打つ。

「しかし大胆な女鬼だ。こんな人里近くで人を食っていたんだからな」

 五郎は、感心するように言った。
 サリーも、

「逆に気づかれないかもしれませんからね、頭がいいです」

 と続く。
 その会話を聞いてルーが、

「自分たちを食おうとした化物を褒める奴らがあるか」

 と、苦笑した。
 3人は、ガレンドへと続く街道を歩いていく。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...