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第14章 キメリア公
公爵の城
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翌日。
五郎たちは指定された時間通りに、公爵の城の城門前にいた。
巨大な城門は質実剛健と言った作りで、もし閉まれば簡単には破れないように見えた。とはいえ、今は開けられている。
五郎たちがしばらく待つと、奥の方から太った貴族がやってきた。
貴族は、五郎を見ると、
「君がジパング渡りの大村五郎くんか」
「左様です」
と、五郎は一礼した。
「ま、あいさつはよろしい。キメリア公がお待ちだ、ついてきてくれたまえ」
そう言って太った貴族は歩き出した。
五郎たちもその後に続く。
城は、非常に豪奢――というわけでもなかった。
巨大ではあるが作りは質素であり、そこらの男爵の館の方がよほど豪華であるように見えた。
「みすぼらしくお思いかな。キメリア公は奢侈がお嫌いなものでね」
と、貴族は歩きながら言った。
「だろうな」
と、つぶやいたのはルーである。
やがて、キメリア公の間へと着いた。
10メートル四方ばかりの大きさのホールがあり、その奥に1人の男が座っていた。座っているので正確な大きさは分からないが、立てば2メートルを超えるほどの大男であることは間違いなかった。
髪型は、ハゲ頭の後ろに髪を結ったいわゆる弁髪である。
「キメリア公、大村五郎どのたちをお連れいたしました」
と、太った貴族が言った。
「うむ」
大男――キメリア公は、太い声で答えた。
太った貴族は五郎に、
「さ、ご挨拶を」
と言った。
言われた五郎は、ひざまづき、
「初めてお目にかかります。大村五郎です」
と言った。
これにあわせ、サリーもあわてて、ルーはゆっくりと、やはりひざまづく。
「ここのところの貴公の活躍は聞いておる」
と、キメリア公が言った。そして、続ける。
「魔獣退治の数々の見事さは噂になっておるぞ。それに、わしの部下どもの不始末のケリをつけてくれたこともあるようだな」
不始末。
つまりは、貴族の犯した犯罪をいくつか処理したことを言っているのであろう。
夜道の通り魔であったり、暴走騎士であったりを退治したことである。
「本来ならばわし自らが処分したいところであったが、なに、領主というのはこれでなかなか自由には行かぬものよ」
そう言って、キメリア公は苦笑した。
そして、立ち上がる。
「のう、五郎。お主の腕を少し見たいのだが」
「腕……ですか?」
「わしと立ち会うてくれぬかな?」
キメリア公はそう言って、腰に挿してあった剣を抜いた。
2メートルを超える刃渡りの大剣である。
「実剣で、ですか」
「いかぬか?」
五郎は少し思案したが、
「よろしいでしょう」
そう答え、立ち上がった。
そして刀を抜く。
「ご、五郎さん」
サリーがあわてて止めようとするが、その隣にいたルーがそれを制し、
「構わん、やらせろ」
と言った。
「でも……」
「それが『あいつ』の今日の目的だ」
と、ルーが笑った。
さて、一方、立ち会った2人である。
キメリア公が、まずしかける。
大剣がすさまじい速度で五郎を襲った。
五郎はさっとかわす。
(大した腕だ)
と、五郎は思う。
過去に武勲で名を上げただけのことはある、と思った。
これならば、下手に手加減するのも失礼であるだろう。
五郎はキメリア公の「剣」をめがけて刀を振った。
キンという音がし、剣がたちまちに、折れる。
「ほう」
キメリア公は驚嘆の声を上げる。
「なるほど、思った以上だ。わしの完敗よ」
そう言ってキメリア公は、椅子に再び座る。
そして、
「ルー・バラティを倒した話、まんざら嘘でもなかったようだ」
と言い、ルーの方を見て笑った。
「ふん。人の恥を掘り返すな」
ルーはそう言って、ぷいと横を向いた。
「お2人はご知り合いなんですか?」
サリーが聞くと、キメリア公が、
「昔、冒険者だった頃に共に戦った。あの頃はわしも若造だったが――」
と笑った。そして、
「なるほど五郎、貴様は次代の英雄かもしれん。もし運命が許せばまた会おうぞ」
その後、五郎たちとキメリア公は、いくらかの談笑をしたあと、分かれた。
五郎たちは、城を出た。
城を出て歩きながら、ルーが五郎に聞いた。
「奴と私、どちらが強い?」
五郎は少し考え、
「互角というところかな」
と答えた。
「気を使っているわけではあるまいな」
「そういうことはしない」
「そうか……」
と、ルーは黙った。
五郎は、
「なぜそんなことを聞くね」
と問い返した。
「奴とは昔、何度か打ち合ったことがある。一度も決着がついていない。だから、両方と戦ったお前に――」
「判定をしてほしかったというわけか。それなら悪かった。分からん」
「まあ、構うまい」
ルーはそう言うと、五郎と腕を組んだ。
「あら、ルーさん……」
と、サリーが驚いた。
ルーがこういう風に五郎に好意を直接示すことは珍しかったからである。
「今日は寝るぞ」
ルーが言った。
「まあ、いいが……」
「私は自分より強い男としか寝ない主義だ」
「む」
「つまりあいつとは寝てない。安心しろ」
「なるほど」
五郎は苦笑した。
どうやら、キメリア公が「昔の男」でないと言いたかったようである。
それを気にするかどうかはともかく、それだけの好意を向けられていることは嬉しかった。
五郎たちは、ガレンドの街を歩く。
五郎たちは指定された時間通りに、公爵の城の城門前にいた。
巨大な城門は質実剛健と言った作りで、もし閉まれば簡単には破れないように見えた。とはいえ、今は開けられている。
五郎たちがしばらく待つと、奥の方から太った貴族がやってきた。
貴族は、五郎を見ると、
「君がジパング渡りの大村五郎くんか」
「左様です」
と、五郎は一礼した。
「ま、あいさつはよろしい。キメリア公がお待ちだ、ついてきてくれたまえ」
そう言って太った貴族は歩き出した。
五郎たちもその後に続く。
城は、非常に豪奢――というわけでもなかった。
巨大ではあるが作りは質素であり、そこらの男爵の館の方がよほど豪華であるように見えた。
「みすぼらしくお思いかな。キメリア公は奢侈がお嫌いなものでね」
と、貴族は歩きながら言った。
「だろうな」
と、つぶやいたのはルーである。
やがて、キメリア公の間へと着いた。
10メートル四方ばかりの大きさのホールがあり、その奥に1人の男が座っていた。座っているので正確な大きさは分からないが、立てば2メートルを超えるほどの大男であることは間違いなかった。
髪型は、ハゲ頭の後ろに髪を結ったいわゆる弁髪である。
「キメリア公、大村五郎どのたちをお連れいたしました」
と、太った貴族が言った。
「うむ」
大男――キメリア公は、太い声で答えた。
太った貴族は五郎に、
「さ、ご挨拶を」
と言った。
言われた五郎は、ひざまづき、
「初めてお目にかかります。大村五郎です」
と言った。
これにあわせ、サリーもあわてて、ルーはゆっくりと、やはりひざまづく。
「ここのところの貴公の活躍は聞いておる」
と、キメリア公が言った。そして、続ける。
「魔獣退治の数々の見事さは噂になっておるぞ。それに、わしの部下どもの不始末のケリをつけてくれたこともあるようだな」
不始末。
つまりは、貴族の犯した犯罪をいくつか処理したことを言っているのであろう。
夜道の通り魔であったり、暴走騎士であったりを退治したことである。
「本来ならばわし自らが処分したいところであったが、なに、領主というのはこれでなかなか自由には行かぬものよ」
そう言って、キメリア公は苦笑した。
そして、立ち上がる。
「のう、五郎。お主の腕を少し見たいのだが」
「腕……ですか?」
「わしと立ち会うてくれぬかな?」
キメリア公はそう言って、腰に挿してあった剣を抜いた。
2メートルを超える刃渡りの大剣である。
「実剣で、ですか」
「いかぬか?」
五郎は少し思案したが、
「よろしいでしょう」
そう答え、立ち上がった。
そして刀を抜く。
「ご、五郎さん」
サリーがあわてて止めようとするが、その隣にいたルーがそれを制し、
「構わん、やらせろ」
と言った。
「でも……」
「それが『あいつ』の今日の目的だ」
と、ルーが笑った。
さて、一方、立ち会った2人である。
キメリア公が、まずしかける。
大剣がすさまじい速度で五郎を襲った。
五郎はさっとかわす。
(大した腕だ)
と、五郎は思う。
過去に武勲で名を上げただけのことはある、と思った。
これならば、下手に手加減するのも失礼であるだろう。
五郎はキメリア公の「剣」をめがけて刀を振った。
キンという音がし、剣がたちまちに、折れる。
「ほう」
キメリア公は驚嘆の声を上げる。
「なるほど、思った以上だ。わしの完敗よ」
そう言ってキメリア公は、椅子に再び座る。
そして、
「ルー・バラティを倒した話、まんざら嘘でもなかったようだ」
と言い、ルーの方を見て笑った。
「ふん。人の恥を掘り返すな」
ルーはそう言って、ぷいと横を向いた。
「お2人はご知り合いなんですか?」
サリーが聞くと、キメリア公が、
「昔、冒険者だった頃に共に戦った。あの頃はわしも若造だったが――」
と笑った。そして、
「なるほど五郎、貴様は次代の英雄かもしれん。もし運命が許せばまた会おうぞ」
その後、五郎たちとキメリア公は、いくらかの談笑をしたあと、分かれた。
五郎たちは、城を出た。
城を出て歩きながら、ルーが五郎に聞いた。
「奴と私、どちらが強い?」
五郎は少し考え、
「互角というところかな」
と答えた。
「気を使っているわけではあるまいな」
「そういうことはしない」
「そうか……」
と、ルーは黙った。
五郎は、
「なぜそんなことを聞くね」
と問い返した。
「奴とは昔、何度か打ち合ったことがある。一度も決着がついていない。だから、両方と戦ったお前に――」
「判定をしてほしかったというわけか。それなら悪かった。分からん」
「まあ、構うまい」
ルーはそう言うと、五郎と腕を組んだ。
「あら、ルーさん……」
と、サリーが驚いた。
ルーがこういう風に五郎に好意を直接示すことは珍しかったからである。
「今日は寝るぞ」
ルーが言った。
「まあ、いいが……」
「私は自分より強い男としか寝ない主義だ」
「む」
「つまりあいつとは寝てない。安心しろ」
「なるほど」
五郎は苦笑した。
どうやら、キメリア公が「昔の男」でないと言いたかったようである。
それを気にするかどうかはともかく、それだけの好意を向けられていることは嬉しかった。
五郎たちは、ガレンドの街を歩く。
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