中年剣士異世界転生無双

吉口 浩

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第17章 リザードマン

バザー

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 リザードマンのバザーは町外れに構えられており、人であふれていた。

「たいした盛況だな」

 五郎はその人通りの多さに驚きながら言った。

「ここでしか買えんものも多いからな。バザーは初めてか?」

 ルーが言い、五郎とサリーは、

「ああ」
「はい」

 と答えた。
 ぶらぶらと見回っていると、

「おにいさん、胡椒、いりませんか」

 と、1人のリザードマンに声をかけられた。
 見ると、香辛料の屋台を出しているリザードマンがいる。

「胡椒か……」

 五郎は少し考えた。
 こちらの世界の西方諸国では胡椒は貴重品であり、口にする機会が多くはなかった。
 現代から生まれ変わった五郎にしてみれば、いささか物足りなさを覚えていたのも事実ではある。

「いくらだね」

 と、五郎は聞いた。

「グラム10ゴールド」
「そいつは少しばかり暴利だな」
「暴利なこと、ないよ。砂漠を運ぶの、とても大変」

 リザードマンはたどたどしい人間語で言う。
 どうやらトカゲに似た彼らの口では、人間語をうまく発音するのが難儀であるらしかった。
 ともあれ五郎は、

「少し考えさせてもらうよ」

 と言い、リザードマンに手を振った。

「私たち、割と長くこの街にいるから。考えておいて」

 と、リザードマンは五郎を見送った。
 五郎がしばらくバザーを見回っていると、サリーが織物に見とれているのを見つけた。

「東方諸国の織物なんですって」

 と、サリーが五郎に言った。
 見事な縫い目の代物で、宿の部屋に飾ればよく合いそうだった。

「これ、200ゴールド。お値打ちよ」

 と、リザードマンが言った。
 また、サリーも、

「私、縫い物が趣味だからよく分かるんです。職人モノですよ」

 と、五郎をねだるように見た。
 こういう目で見られては弱い。

「買わせてもらおう」

 五郎は200ゴールドをリザードマンに渡し、織物を買った。

「ありがとうございます」

 サリーが織物を手にして言った。

「なに、たまには贅沢もいい」

 五郎が言うと、

「早速口車に乗ったな」

 と、背後からルーの声がした。
 ふと見ると、そこにはたくさんのツボや巻物を手にしたルーがいた。
 どうやら彼女のバザーでの「収穫品」であるようである。

「君もなかなか乗せられたようだが」

 と五郎が言うと、

「私は価値が分かった上で買っただけだ。口車に乗ったわけじゃない」

 と、ルーはそっぽを向いた。
 サリーがルーに近づいて、

「おいくら使ったんですか」
「2700……」
「使いすぎです!」

 サリーがぴしゃりと言った。

「闘技場のチャンピオンだった頃は今よりも金があったんだ。ちょっとその頃の調子で……」

 と、親に怒られた子供のようにルーが言った。
 五郎は割って入り、

「まあ、まあ。ギルドでなにか仕事を受ければいいだろう」

 とサリーをなだめる。

「浪費はあんまりよくないんですよ。それに今月の宿代も……」

 と、サリーがお説教を始めたところで、バザーの中央から声がした。

「力持ちラリーと勝負する人、いませんか。挑戦金額100ゴールド。勝てば1000ゴールドのお返しよ」

 見ると、バザーに即席のリングが作ってあり、その中央に一人のたくましい体つきの巨漢のリザードマンがいる。
 先程の声は、リングのそばで声を張り上げているリザードマンのものだった。
 どうやら、あのリザードマンとレスリングをして、勝てば賞金という趣向らしい。
 群衆はそれを見てざわめいている。

「どうだい、やってみちゃあ」
「冗談じゃねえ、大体リザードマンなんてのは元々強い連中なんだ、それのあんな大きいのとやりあうなんて来た日にはくびり殺されちまうぜ」
「あっちだって商売だ、怪我まではさせてこねえよ」
「かもしれねえが、どっちにしろ100ゴールドが丸損だ」

 なかなか、挑戦しようという気になる人間はいないようだった。
 そんな中、五郎は人をかき分け進み出て、呼び込みのリザードマンに言った。

「挑戦させてもらっていいいかな」
「おや、おや、お客さん、勇気あるね。では挑戦代」
 
 五郎は100ゴールドを取り出し、渡した。

「五郎さん、大丈夫ですか?」

 サリーが五郎に言う。

「今日の浪費を少しは取り戻さんとな」

 と、五郎はサリーに微笑んで、リングに上がる。

「おたがいに武器はなしよ。素手で組み伏せるか、気絶させれば勝ち」

 と、呼び込みのリザードマンが言う。
 五郎は刀を置いた。
 それを見て、リザードマンが、

「ファイト!」

 と叫ぶ。
 巨漢のリザードマンが、五郎をつかもうと突進する。
 五郎はつかもうと差し出されたリザードマンの腕をつかみ、ひょいと投げた。
 リザードマンは自らの勢いに乗ったまま、リングの上に叩きつけられた。叩きつけられたあと、なにが起こったのか分からない、という顔でふらふらと立ち上がる。
 立ち上がったリザードマンは、五郎を見つけると、ふたたび突進した。
 五郎は今度は高く跳び、その首筋をしたたかに蹴る。
 リザードマンがばたりと倒れた。

 観衆がしん、となる。
 が、数秒の後、歓声があふれた。
 そのうち、呼び込みのリザードマンが五郎のところにやって来て、

「参った、参った。強いね、おにいさん。これ賞金」

 と、賞金の入った袋を渡す。

「ありがたくもらっておこう。あの大男は怪我まではしておらんはずだ。そのうち目を覚ます」

 と、五郎は言い、リザードマンと別れた。


 五郎たちはほどなくして帰路についた。

「これでなんとか、宿代が払えます」

 と、歩きながらサリーが言う。

「しかし、あのリザードマンには初日から損をさせてしまったな」

 五郎は言った。

「なに、そういう商売だ。それに、逆に宣伝にもなる」

 と、ルーが言う、

「そうかね?」

 五郎が聞くと、ルーが答え、

「誰にも倒せない相手と、誰かが倒した相手のどちらに勝負を挑む気になる?」

「……なるほど」

 と、五郎は得心する。
 そして、2人に、

「楽しかったか?」

 と聞いた。

「はい!」
「……まあ、な」

 と答えた。

「では、また来よう」
「今度はルーさんをちゃんと見張ってませんとね」
「……言うな!」

 家路につく3人を、夕日が照らしていた。
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