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第24章 トロールの橋
橋
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五郎たちが近づくと、トロールはゆっくりと五郎たちを見下ろした。
トミーが、
「ここ、通りたい。どいて欲しい」
と、トロールに言った。
トロールはぐわしゃしゃと笑う。
「ここはおらの橋だ。タダで通らせるわけにはいかね」
「いくら欲しい?」
「ん……」
トロールはしばらく考えたあと、
「トカゲは美味くねえが、まあ、子供の20人も差し出せば許してやる」
と言い、またぐわしゃと笑った。
トミーは、
「子供は困る。肉なら、ある程度はあげられる」
と提案したが、
「おらは生の生き物しか食わねえ」
トロールは首を振った。
らちのあかなさにいらついたルーが、
「話にならん。切り伏せて通れ」
と言った。
すると、トロールがルーに気づき、その臭いをかぐように鼻をひくひくとさせ、
「くんくん……おや、ドワーフのメスがおるのか。ドワーフはおら、好きだ」
好きだ、というのはもちろん通常の意味での好意ではなく、食物としてのそれであろう。
「ドワーフの女、置いてくなら通らせてやる」
トミーは困ったようにルーの方を向く。
が、すぐにトロールの方を向き直って、
「私たち、冒険者たくさん連れてる。このままでは、あなた、殺すことになるよ」
と言った。
「ふん、やってみればええ」
と、トロールが答える。
もちろん冒険者の群れに襲われて勝てるはずもないが、トロールにその勘定を出来るほどの知能はない。
ここまでの交渉は、あくまでも冒険者やキャラバンの消耗を嫌ったリザードマンたちのいわば危険回避であった。
が、こうなってはそれも無駄のように思えた。
トミーが、
「なら、今から引き返して連れてくるよ……。」
と振り向いたが、ルーが、
「いや、いいぞ」
とそれを制す。
そして、一歩トロールの方へと近づき、
「どうだ? 私を食べてみろ」
と言った。
トロールは、
「ぐへへ……いただきます」
と言い、ルーをつかんで、自らの口の中に放り込んだ。
その数秒後である。
「ぐえ……ごおお……!」
トロールは腹を抑えてもがきだした。
どうやら、噛まれる前に腹に飛び込んだルーが、腹の中でおおいに暴れているようだった。
数十秒の時がすぎた。
倒れたトロールの腹に、内部から穴が開く。
鮮血の雨がぶしゃりと散った。
そして、返り血を浴びたルーが、トロールの腹からゆっくりと出てくる。
五郎たちの方に寄ってきたルーは、
「この死体を片付ける人手がいる。戦える奴らでなくてもいいから連れてきてくれ」
と言った。
「あと、ルーさんを洗う人も必要ですね」
と、サリーが鼻をつまみながら言った。
ルーは自分の体を見て、
「……ああ。たしかにな」
とつぶやいた。
リザードマンや冒険者から適当に集められた男衆がトロールの死体を橋から寄せているあいだに、ルーはサリーやリザードマンの女たちに体を洗われていた。
五郎もまた、それを眺めている。
最初は五郎もトロールをかたづけるのを手伝おうと申し出たが、トミーに断られた。トロールを倒した功労者たちに死体のかたづけまでさせるのは悪い、ということらしい。
だからこうして、女ばかりがルーの体を洗っているのを、路傍の石ころに座って眺めることになっていた。
「こら、そんなところを触るな」
洗われているルーが、サリーに言った。
「あ、おへそは弱いですもんね」
サリーはそう言って、また同じ箇所をタオルでぬぐう。
「やめろって……」
「ふふ」
その様子そのものは牧歌的だが、彼女らが拭いているのはトロールの血であり内臓である。
そのことがなんだかひどくアンバランスな気がして、五郎は苦笑した。
空は青く、体を洗うのにはいい天気であった。
トミーが、
「ここ、通りたい。どいて欲しい」
と、トロールに言った。
トロールはぐわしゃしゃと笑う。
「ここはおらの橋だ。タダで通らせるわけにはいかね」
「いくら欲しい?」
「ん……」
トロールはしばらく考えたあと、
「トカゲは美味くねえが、まあ、子供の20人も差し出せば許してやる」
と言い、またぐわしゃと笑った。
トミーは、
「子供は困る。肉なら、ある程度はあげられる」
と提案したが、
「おらは生の生き物しか食わねえ」
トロールは首を振った。
らちのあかなさにいらついたルーが、
「話にならん。切り伏せて通れ」
と言った。
すると、トロールがルーに気づき、その臭いをかぐように鼻をひくひくとさせ、
「くんくん……おや、ドワーフのメスがおるのか。ドワーフはおら、好きだ」
好きだ、というのはもちろん通常の意味での好意ではなく、食物としてのそれであろう。
「ドワーフの女、置いてくなら通らせてやる」
トミーは困ったようにルーの方を向く。
が、すぐにトロールの方を向き直って、
「私たち、冒険者たくさん連れてる。このままでは、あなた、殺すことになるよ」
と言った。
「ふん、やってみればええ」
と、トロールが答える。
もちろん冒険者の群れに襲われて勝てるはずもないが、トロールにその勘定を出来るほどの知能はない。
ここまでの交渉は、あくまでも冒険者やキャラバンの消耗を嫌ったリザードマンたちのいわば危険回避であった。
が、こうなってはそれも無駄のように思えた。
トミーが、
「なら、今から引き返して連れてくるよ……。」
と振り向いたが、ルーが、
「いや、いいぞ」
とそれを制す。
そして、一歩トロールの方へと近づき、
「どうだ? 私を食べてみろ」
と言った。
トロールは、
「ぐへへ……いただきます」
と言い、ルーをつかんで、自らの口の中に放り込んだ。
その数秒後である。
「ぐえ……ごおお……!」
トロールは腹を抑えてもがきだした。
どうやら、噛まれる前に腹に飛び込んだルーが、腹の中でおおいに暴れているようだった。
数十秒の時がすぎた。
倒れたトロールの腹に、内部から穴が開く。
鮮血の雨がぶしゃりと散った。
そして、返り血を浴びたルーが、トロールの腹からゆっくりと出てくる。
五郎たちの方に寄ってきたルーは、
「この死体を片付ける人手がいる。戦える奴らでなくてもいいから連れてきてくれ」
と言った。
「あと、ルーさんを洗う人も必要ですね」
と、サリーが鼻をつまみながら言った。
ルーは自分の体を見て、
「……ああ。たしかにな」
とつぶやいた。
リザードマンや冒険者から適当に集められた男衆がトロールの死体を橋から寄せているあいだに、ルーはサリーやリザードマンの女たちに体を洗われていた。
五郎もまた、それを眺めている。
最初は五郎もトロールをかたづけるのを手伝おうと申し出たが、トミーに断られた。トロールを倒した功労者たちに死体のかたづけまでさせるのは悪い、ということらしい。
だからこうして、女ばかりがルーの体を洗っているのを、路傍の石ころに座って眺めることになっていた。
「こら、そんなところを触るな」
洗われているルーが、サリーに言った。
「あ、おへそは弱いですもんね」
サリーはそう言って、また同じ箇所をタオルでぬぐう。
「やめろって……」
「ふふ」
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空は青く、体を洗うのにはいい天気であった。
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