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第33章 魔王
戦いのあとで
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五郎は、倒れたドラウドの元にひざまづいた。
ドラウドは、つぶやくように、
「あーあ、俺も終わりか」
と言った。
五郎はドラウドに聞く。
「お前も別の世界から来たのか?」
「そうだ。元の名は月影兵吾」
「兵吾?」
兵吾。ひょうご。
聞いたことのある音の響きである。
「勇者ヒョーゴ」
五郎がつぶやくと、ドラウドはにやりと笑い、
「そう、それも俺だ」
「勇者ヒョーゴがドラウドを封印したのではなかったのか?」
「そいつは、外れだな……ぐっ!」
ドラウドは胸を押さえた。
「大丈夫か」
「てめえで刺しておいて大丈夫かもねえもんだ」
「それはそうだが」
「なに、まだ話は出来る……。俺はな、向こうの世界で死んで、こっちに呼び出されたんだ」
「理由は」
「さあ、あんまり昔のことなんであやふやだが……事故からガキを助けようとしたとか、そんなところだったぜ」
「そして神によってこちらに転生した」
ドラウドはうなずいた。
「俺はしばらくは、客観的に見れば善良なもんだったさ。弱い奴をいたわって、悪漢や悪貴族はぶちのめし、化物はぶっ殺す。まさに勇者よ」
「それがなぜ、心変わりした?」
「飽きたのさ」
「飽きた?」
「ゲームはやるか? ……いや、こっちの世界のじゃない、向こうのテレビゲームだ」
「多少は」
「RPGなんかでな、好きなように行動できるってゲームがあるだろう。最初は真面目にその世界の住人として振る舞ったり、メインクエストを進めてたりするもんだが……」
「やがては飽きる」
五郎はつぶやいた。
「その通り。俺は善行の勇者様に飽きた。そうして勇者ヒョーゴは姿を消し……」
「魔王ドラウドに生まれ変わったのか?」
「そういうこと。こっちの方が性にあってたようだ。魔法使いどもから長寿の秘法を奪い、魔王として暴れまわった。が、それもやがて……」
「飽きたか?」
「その通り。俺は城を魔力で封じて眠りについた。なにもなければ永久にそのままだったかもしれねえ」
「なにかきっかけがあったのか?」
「おそらくはお前だ」
「俺だと?」
五郎は驚いた。
「そう、お前だ。神がお前をこの世界に呼んだ時、その魔力の振動で俺は目覚めた。神が力を行使することなんざそうそうないから、これはなにかあるなと思った。俺は水晶で魔力の跡をたどったよ。……そこで気づいたのが、お前だ」
「俺が来たから悪行を再開したというのか? なんのために?」
「こっちに来て正義も悪行も飽きた。あと1つだけやり残したことがあるとするなら――自分と同じ場所から来た奴との戦いだ」
「それが俺か」
「そうだ。軍隊を立て直して、お前の住むガレンド地方へと攻め込むつもりだった……まあ、たまたまお前の方から俺に気づいてくれたから手間は省けたぜ」
そう言ってドラウドは笑った。
「もはや俺に悔いはねえさ。やることはやり尽くした……」
ドラウドは――月影兵吾はそう言って、こときれた。
五郎は、その死体を前に立ち上がった。
しばらく、黙考する。
「五郎さん……」
と、そばで話を聞いていたサリーがつぶやいた。
「……お前もやはり、別の世界から来た者だったのか」
こう言ったのはルーである。
ドラウドにやられたダメージはだいぶ回復したようで、既に自分の2本の足で立っている。
「そうだ」
とだけ、五郎は答えた。
「まあ、お前が来たのがジパングだろうと別の世界だろうと変わりはないさ。お前はお前だ」
ルーはそう言って、五郎の肩を叩く。
「ありがとう」
五郎はそう言ったあと、
「さあ、帰ろう。魔王は倒した。」
五郎はそう言い、向きを変えて門に向かう。
サリーと、ルーもそれに続いた――。
ドラウドは、つぶやくように、
「あーあ、俺も終わりか」
と言った。
五郎はドラウドに聞く。
「お前も別の世界から来たのか?」
「そうだ。元の名は月影兵吾」
「兵吾?」
兵吾。ひょうご。
聞いたことのある音の響きである。
「勇者ヒョーゴ」
五郎がつぶやくと、ドラウドはにやりと笑い、
「そう、それも俺だ」
「勇者ヒョーゴがドラウドを封印したのではなかったのか?」
「そいつは、外れだな……ぐっ!」
ドラウドは胸を押さえた。
「大丈夫か」
「てめえで刺しておいて大丈夫かもねえもんだ」
「それはそうだが」
「なに、まだ話は出来る……。俺はな、向こうの世界で死んで、こっちに呼び出されたんだ」
「理由は」
「さあ、あんまり昔のことなんであやふやだが……事故からガキを助けようとしたとか、そんなところだったぜ」
「そして神によってこちらに転生した」
ドラウドはうなずいた。
「俺はしばらくは、客観的に見れば善良なもんだったさ。弱い奴をいたわって、悪漢や悪貴族はぶちのめし、化物はぶっ殺す。まさに勇者よ」
「それがなぜ、心変わりした?」
「飽きたのさ」
「飽きた?」
「ゲームはやるか? ……いや、こっちの世界のじゃない、向こうのテレビゲームだ」
「多少は」
「RPGなんかでな、好きなように行動できるってゲームがあるだろう。最初は真面目にその世界の住人として振る舞ったり、メインクエストを進めてたりするもんだが……」
「やがては飽きる」
五郎はつぶやいた。
「その通り。俺は善行の勇者様に飽きた。そうして勇者ヒョーゴは姿を消し……」
「魔王ドラウドに生まれ変わったのか?」
「そういうこと。こっちの方が性にあってたようだ。魔法使いどもから長寿の秘法を奪い、魔王として暴れまわった。が、それもやがて……」
「飽きたか?」
「その通り。俺は城を魔力で封じて眠りについた。なにもなければ永久にそのままだったかもしれねえ」
「なにかきっかけがあったのか?」
「おそらくはお前だ」
「俺だと?」
五郎は驚いた。
「そう、お前だ。神がお前をこの世界に呼んだ時、その魔力の振動で俺は目覚めた。神が力を行使することなんざそうそうないから、これはなにかあるなと思った。俺は水晶で魔力の跡をたどったよ。……そこで気づいたのが、お前だ」
「俺が来たから悪行を再開したというのか? なんのために?」
「こっちに来て正義も悪行も飽きた。あと1つだけやり残したことがあるとするなら――自分と同じ場所から来た奴との戦いだ」
「それが俺か」
「そうだ。軍隊を立て直して、お前の住むガレンド地方へと攻め込むつもりだった……まあ、たまたまお前の方から俺に気づいてくれたから手間は省けたぜ」
そう言ってドラウドは笑った。
「もはや俺に悔いはねえさ。やることはやり尽くした……」
ドラウドは――月影兵吾はそう言って、こときれた。
五郎は、その死体を前に立ち上がった。
しばらく、黙考する。
「五郎さん……」
と、そばで話を聞いていたサリーがつぶやいた。
「……お前もやはり、別の世界から来た者だったのか」
こう言ったのはルーである。
ドラウドにやられたダメージはだいぶ回復したようで、既に自分の2本の足で立っている。
「そうだ」
とだけ、五郎は答えた。
「まあ、お前が来たのがジパングだろうと別の世界だろうと変わりはないさ。お前はお前だ」
ルーはそう言って、五郎の肩を叩く。
「ありがとう」
五郎はそう言ったあと、
「さあ、帰ろう。魔王は倒した。」
五郎はそう言い、向きを変えて門に向かう。
サリーと、ルーもそれに続いた――。
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