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第34章 神との再会
空間
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五郎は、紫の霧に包まれた空間の中にいた。
この場所には覚えがあった。
転生の際に――この世界に来る前に「声」と話した場所である。
「久しぶりだな」
聞き覚えのある声が空間に響く。
五郎は、
「ああ。……姿を見せたらどうだ」
「姿、というほどの姿は私にはないよ。まあ、あえて言うなら……」
声が途切れて、五郎の前に1人の少年が現れた。
少年はにやりと笑い、またたくまに美女へと姿を変える。
更には、犬、猫、悪魔、竜と次々と姿を変じ――やがて、1人の老人へと変わった。
教会の神像にそっくりな姿である。
「太古、下界に顕現する時はこの姿を取ることが多かった」
と、老人は言った。
老人の手が光り、2つの椅子が空間に出現する。
老人は片方に自らが座ると、
「座りたまえ」
と、五郎に薦めた。
五郎は言われたままに座った。
「北の大地での働きは見事だった」
「あれをやらせるために、あんたは俺をこの世界へと生まれ変わらせたのか?」
五郎の脳裏を、魔王の部下の竜の死ぬ時の言葉がよぎっていた。
「神は異分子でわれらを掃除しようとしている」
五郎が思い出すと同時に、老人の――神の口からも同じ言葉が放たれた。
「俺の心を読んだか?」
五郎が言うと、
「すまん、すまん。……しかし、竜の言葉は当たりじゃない。君は魔王を倒すためにもたらされた勇者ではない」
「だったら、なんだ?」
「君にあの世界でなにかをして欲しかったわけではない。ただ、マナのバランス的に、そろそろあの世界に異世界からの誰かを送り込む必要があった」
「どういうことだ」
五郎はいぶかしんだ。
「私の管理する7つの世界の中でも、君が転生したような魔力に満ちた世界は少々不安定でね。幾百年かに一度、異世界からの生命を混ぜ込む必要がある。その者の力を強化してね。そうすることで召喚のショックによってマナのバランスが循環を再開し、世界は破滅から救われる」
「それを行わなければ?」
「停滞したマナが暴走し……バーン」
と、神は爆発のジェスチャーをした。
「前の転生者――兵吾を送ってから、もうこちらの時間ではだいぶ経っていた。だから、君のような善良で、かつ人生に未練のありそうな人間に声をかけた」
「善良か」
五郎は苦笑した。
「兵吾は目論見違いだったようだな」
「彼も最初の数十年は善良だった」
「しかし飽きた」
「そう、そして魔王となった。やがてそれにも飽きた」
「そして最後には俺と殺しあいか」
五郎はため息をついた。
「……なぜ魔王と化した後も奴を放っておいた?」
「もはやあの世界は古代ではない。世界の維持に必要最低限以上の介入はしたくないのだ。むやみに顕現してあの世界を私の意のままに動かせば、あの世界の人々は結局は私の人形と変わらなくなる」
「なるほどな。では、たとえば――」
五郎は続けた。
「俺が暴走したとしても、あんたはなにもしないというわけだ」
「その通り。……しかし、今のところ、君にはそのつもりはない」
「今のところはな」
椅子がパッと消えた。
五郎と神の2人が、空間に立って向かいあっている。
「俺は何人めの転生者だ?」
「1458人めだ」
「どれだけの人数がおかしくなった?」
「兵吾のようにか」
五郎はうなずいた。
神は答えた。
「あえて言うなら、半分――もっとも、誰も彼もが不老の秘術を手にしたわけではないから、兵吾のように長く生きたものばかりでもないが」
「俺はどうなるかな」
「それは私にも分かることではない。ただ……」
「ただ?」
「あの世界に生きる他の者も自分と同じ人間であるのを忘れないことだ」
神はそう言った。
やがて、空間が光に満ちていく。
「そろそろ他の仕事がある。……久しぶりに人と長く話せて、楽しかった」
空間は光に満たされ、やがて、五郎の目にはなにも捉えられなくなった――。
この場所には覚えがあった。
転生の際に――この世界に来る前に「声」と話した場所である。
「久しぶりだな」
聞き覚えのある声が空間に響く。
五郎は、
「ああ。……姿を見せたらどうだ」
「姿、というほどの姿は私にはないよ。まあ、あえて言うなら……」
声が途切れて、五郎の前に1人の少年が現れた。
少年はにやりと笑い、またたくまに美女へと姿を変える。
更には、犬、猫、悪魔、竜と次々と姿を変じ――やがて、1人の老人へと変わった。
教会の神像にそっくりな姿である。
「太古、下界に顕現する時はこの姿を取ることが多かった」
と、老人は言った。
老人の手が光り、2つの椅子が空間に出現する。
老人は片方に自らが座ると、
「座りたまえ」
と、五郎に薦めた。
五郎は言われたままに座った。
「北の大地での働きは見事だった」
「あれをやらせるために、あんたは俺をこの世界へと生まれ変わらせたのか?」
五郎の脳裏を、魔王の部下の竜の死ぬ時の言葉がよぎっていた。
「神は異分子でわれらを掃除しようとしている」
五郎が思い出すと同時に、老人の――神の口からも同じ言葉が放たれた。
「俺の心を読んだか?」
五郎が言うと、
「すまん、すまん。……しかし、竜の言葉は当たりじゃない。君は魔王を倒すためにもたらされた勇者ではない」
「だったら、なんだ?」
「君にあの世界でなにかをして欲しかったわけではない。ただ、マナのバランス的に、そろそろあの世界に異世界からの誰かを送り込む必要があった」
「どういうことだ」
五郎はいぶかしんだ。
「私の管理する7つの世界の中でも、君が転生したような魔力に満ちた世界は少々不安定でね。幾百年かに一度、異世界からの生命を混ぜ込む必要がある。その者の力を強化してね。そうすることで召喚のショックによってマナのバランスが循環を再開し、世界は破滅から救われる」
「それを行わなければ?」
「停滞したマナが暴走し……バーン」
と、神は爆発のジェスチャーをした。
「前の転生者――兵吾を送ってから、もうこちらの時間ではだいぶ経っていた。だから、君のような善良で、かつ人生に未練のありそうな人間に声をかけた」
「善良か」
五郎は苦笑した。
「兵吾は目論見違いだったようだな」
「彼も最初の数十年は善良だった」
「しかし飽きた」
「そう、そして魔王となった。やがてそれにも飽きた」
「そして最後には俺と殺しあいか」
五郎はため息をついた。
「……なぜ魔王と化した後も奴を放っておいた?」
「もはやあの世界は古代ではない。世界の維持に必要最低限以上の介入はしたくないのだ。むやみに顕現してあの世界を私の意のままに動かせば、あの世界の人々は結局は私の人形と変わらなくなる」
「なるほどな。では、たとえば――」
五郎は続けた。
「俺が暴走したとしても、あんたはなにもしないというわけだ」
「その通り。……しかし、今のところ、君にはそのつもりはない」
「今のところはな」
椅子がパッと消えた。
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「俺は何人めの転生者だ?」
「1458人めだ」
「どれだけの人数がおかしくなった?」
「兵吾のようにか」
五郎はうなずいた。
神は答えた。
「あえて言うなら、半分――もっとも、誰も彼もが不老の秘術を手にしたわけではないから、兵吾のように長く生きたものばかりでもないが」
「俺はどうなるかな」
「それは私にも分かることではない。ただ……」
「ただ?」
「あの世界に生きる他の者も自分と同じ人間であるのを忘れないことだ」
神はそう言った。
やがて、空間が光に満ちていく。
「そろそろ他の仕事がある。……久しぶりに人と長く話せて、楽しかった」
空間は光に満たされ、やがて、五郎の目にはなにも捉えられなくなった――。
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