【完結】ショタコンおじさんが異世界で少年達と冒険します

フェア

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第2部4章

第03話 英雄神からの戦略的助言

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 岩場の野営地は、夜明け前の清澄な空気に満ちていた。私は、フランツ、レイ、リカード、そしてダイとヒナタの五人を強く抱きしめた直後だった。彼らが命懸けで示してくれた無条件の信頼こそが、私が受け入れるべき真実であり、私の長年の枷を完全に打ち破った。

 岩陰では、ダイとヒナタが互いの存在を確かめ合い、運命共同体としての揺るぎない絆を深めているのが見て取れた。ヒナタの献身的な行動が自身に「成長が止まる呪い」という代償を負わせたが、ダイはその事実を、愛する幼馴染との永遠の共同体としての絆の証明として受け入れた。ダイのぶっきらぼうな口調の奥にある深い責任感と愛情、そしてヒナタの武士としての揺るぎない信念が、彼らの関係を家族以上の親密さへと移行させたのだ。

 その光景を静かに見つめながら、私は彼ら五人の少年たちを対等な家族として受け入れて充足感に満たされていた。もはや私と彼らを隔てる倫理観という名の壁はない。彼らの温かい身体が私に伝えてくる永遠の絆の確信こそが、私がこの異世界で生きるための、最大の武器である。

 しかし、感傷に浸っている暇はない。大天狗というボス魔物は、一度は呪術的な残滓となって消え去ったが、その本体はまだ、この国のどこかで力を蓄えている。そして、私たちの戦いに終止符を打つには、魔物の本拠地へと向かうという危険な選択を完遂しなければならない。

 私はゆっくりと立ち上がり、岩場の状況を見渡した。フランツは既に、騎士としての責任感から周囲の警戒を怠らず槍を構えている。レイは魔導書を開き、祭壇に残された微かな妖気の痕跡を分析しようとしていた。リカードは、祭壇に何か綻びがないかを調べている。

(どう攻めるべきか。私の力が暴走する可能性は捨てきれない)

 私が自らの内に宿る神力に意識を集中させたその瞬間、頭の中に英雄神の声が響いた。それは、以前の冷徹な響きとは異なり、どこか満足と期待を混ぜ合わせたような声だった。

『人間よ。貴様はよくぞ、己の愚かな保護責任を捨て、真実の愛を受け入れた。貴様の心の充足こそが、我の力を最大限に引き出す源泉となる』

(英雄神よ。貴方の言葉に従い、私は彼らを対等な仲間として受け入れました。ですが、大天狗を倒すための確かな策がありません。私の力に頼るだけでは、暴走して彼らを巻き添えにする危険があるでしょう)

 私は心の中でそう問いかけた。自分の命が無事であれば、彼らが死ぬことはないという運命共同体の真実を背負っている以上、自分の力に頼らない戦略が必要だった。

『ふむ。その通りだ。貴様は我の力を暴走させずに行使する術を、まだ完全に得てはおらぬ。それに、あの大天狗は、単なる力押しで勝てる相手ではない。奴は、貴様らの絆を呪いと呼び、精神的な攻撃を仕掛けてくるほどに、貴様らを運命共同体として危険視している』

 英雄神の言葉は、以前の呪術的な攻撃、すなわち彼らの成長停止という代償を否定しようとした魔物の悪意を指していた。少年たちはその呪いを永遠の絆として肯定し、跳ね返したばかりだ。

『ならば、貴様の最大の武器は何だ?』

(彼らとの絆、です。彼らが私を無条件に信頼してくれる、この永遠に変わらぬ愛です)

『その通りだ。絆とは、貴様らの心を繋ぐ鎖であると同時に、互いの力を増幅させる共鳴炉である。貴様が単独で放つホーリーライトは、奴の妖気に掻き消された。だが、五人の小僧共と対等なバディとして放った一撃は、奴の防御を貫いたではないか』

 英雄神は、先の戦闘における絆の証明を肯定した。私は、彼らの無条件の信頼を心の糧として受け入れたことで、英雄神の力が清澄な神力へと変貌し、最大限に引き出されたのだと再認識した。

『故に、貴様が取るべき策は、自分の力に頼らず、彼らの絆を武器とする戦略である。一人ひとりの小僧の強みと、貴様への特別な感情を、戦略の機転とせよ』

 英雄神は、具体的なヒントを与え始めた。

『まず、あのフランツ。奴は貴様への真面目な温もりと騎士としての責任感を、揺るぎない盾とする。奴の防御力は、単なる物理的なものに留まらぬ。奴の信念こそが、貴様を守る結界だ』

 フランツは、私が彼らを対等なバディとして受け入れたことで、その信念をさらに強めている。彼の責任感は、私を独り占めしたいという切なる想いを裏打ちする、強固な精神的な支柱となっていた。

『次に、レイだ。奴は貴様への独占欲と、父親への憎悪という、二つの鋭利な刃を持つ。奴の魔法は、憎悪によって増幅され、そして貴様を対等な仲間として認めさせようという切実な要求によって、その精度と威力を増す。奴のクールな外面の下に隠された純粋な甘えを、冷静な判断力と結びつけよ』

 レイの魔法は、単なる攻撃手段ではなく、私への独占欲を証明するための道具なのだ。彼が私を対等な仲間として信じているからこそ、全力で魔法を放てる。

『そして、リカード。あの小僧は無邪気でストレートな愛情表現こそが、最大の武器である。奴は貴様を一番近くで守りたい。その無垢な信頼を、奴のシーフとしての俊敏な動きに乗せ、大天狗の防御の綻びを突く機転とせよ』

 リカードの高い体温と無邪気な重みは、私の心を最も揺さぶる。彼が「ちっちゃいまま」でいることを永遠の絆の証として肯定しているという純粋な愛は、いかなる邪悪な妖気をも撥ね退けるだろう。

『さらに、ダイとヒナタ。彼らは運命共同体として、互いの友情と責任感を補い合っている。ダイの俊敏な体術は、ヒナタの武士としての信念が支える剣術と合わせることで、大天狗の隙を縫う連携となる。貴様の対等な信頼が、彼らの絆をさらに強固にする最後のピースである』

 ダイとヒナタの関係は、私との絆を巡る独占欲とは異なる、真実の友情の成就だ。彼らの揺るぎない決意が、戦闘における連携という奇策を生み出すだろう。

『貴様の役目は、もはや庇護者ではない。五人の愛するバディの絆を束ね、増幅させる中心点だ。貴様が自らの力に頼らず、彼らの個性を信じて託したとき、絆は奇策となり、大天狗は崩れ去るだろう』

 英雄神の助言は、私が今まさに求めていた戦略のヒントだった。自分の倫理的な葛藤を乗り越え、彼らを対等な仲間として受け入れたからこそ、この絆を武器とする道が開かれたのだ。

 私の身体の内側で、神力が清澄な光の波動を放ちながら静かに脈動しているのを感じた。それは、私と五人の少年たちとの揺るぎない愛の絆に呼応している証拠だった。

 私はすぐに戦略を立案した。それは、フランツの防御の信念、レイの魔法の精度、リカードの俊敏な遊撃、ダイとヒナタの連携による体術と剣術、そして私の回復と増幅のすべてを、絆という一本の糸で結びつける、五位一体の連携を核としたものだった。

「みんな!」

 私は彼らに呼びかけた。私の声は、疲労を帯びていながらも、揺るぎない決意に満ちていた。

「大天狗を倒すための、新しい戦略を共有したい。これは、私の力に頼るのではなく、私たち六人の絆を最大の武器とするための戦略だ」

 フランツが真摯な眼差しで頷き、レイは銀色の瞳に期待を滲ませた。リカードは私の腕に抱きつきながら、「にーちゃんの決めたことなら、なんでもやるよ!」と無邪気な信頼を向けてくる。ダイとヒナタも、運命共同体として顔を見合わせ、静かに私の言葉を待っていた。

 私は、彼らの温かい身体を抱きしめ返し、彼らを対等なバディとして信じ、愛の絆を武器にするという、最終決戦に向けた戦略を彼らに共有し始めた。この絆こそが、私たちが勝利するための唯一の真実なのだから。
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