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6桁の数字と幻影ビルの金塊
016 歪んでる???
しおりを挟むエレベータの扉が何度も開閉を繰り返している。
扉が閉まってエレベータが動き出さないよう、ぼくがチャーシューのカバンを置いたからだ。
美玲ちゃんは扉のレール上に置かれたそのカバンを持ち上げると、大事にそうに自分の肩に斜め掛けした。
「そういえば、どうやって5階から降りてきたの? わたしたちが1階でエレベータを止めてたのに」
エレベータに乗り込みながら、美玲ちゃんがたずねた。
そうそう、それ。
ぼくも同じことを疑問に思ってたんだ。
「ボタン押したら普通に来たぜ。常識じゃ測れないビルなんだ、何が起こったって不思議じゃねえだろ」
ジョーが何でもないように言いながら、エレベータに乗り込む。
ぼくもエレベータに乗り込むと、美玲ちゃんのすぐそばに立った。
そしてこっそり耳打ちする。
「……そう言えば、ジョーがエレベータから降りてきた瞬間って見た?」
「見てない……。ミッケも気をつけて、まだあいつを信用しちゃダメよ」
ぼくにだけ聞こえる小さな声でそう言うと、美玲ちゃんは操作盤に並ぶボタンの一番上を押した。
ゆっくりとドアが閉まり、おんおんと唸るような音をたててエレベータが動きだす。
その動きに連動して、扉の上にあるニキシー菅の階数表示も上がっていく。
2……。
3……。
4……。
5……。
やがて耳障りなほど甲高いベルの音が、エレベータ内に響いた。
ゆっくりとエレベータの扉が開いていく。
扉の隙間から、潮の香りを含んだ生ぬるい夜風が吹き込んでくる。
ぼくは一足先に、扉の隙間から飛び出した。
その足が、ぴたりと止まる。
「ウソでしょ……」
前髪を風に揺らしながら、美玲ちゃんもエレベータから降りてきた。
唖然とした表情で、目の前に広がる光景を見つめている。
無理もない。
さっき5階で見たばかりの景色が、全く違う景色に変わっていたからだ。
七色の光を水面に反射させていたレインボーブリッジも、その奥で宝石のように輝いていたビル群の夜景もない。
海と陸の境がわからないほどに、見渡す限りの黒い闇が広がっている。
5階のフロアに転がる瓦礫を蹴飛ばしながら、ジョーが美玲ちゃんに声をかけた。
「この階はよぅ、空襲で吹き飛ばされたんだろうぜ……。探索するまでもねぇや」
ぼくは足元に転がっている瓦礫にランタンを近づけてみた。
さっきは気がつかなかったけど、確かに瓦礫は焼けたような黒いススで汚れている。
「ジョーは驚かないの? あの綺麗な夜景が何もなくなってるんだよ!」
美玲ちゃんが詰め寄る。
しかしジョーは、面倒臭そうに手で払う素振りをしながらこたえた。
「……綺麗な夜景? おれが以前に見た景色は、戦争で中止されたはずの万博会場だったぜ」
戦争で中止になった万博??
ぼくは思わず、美玲ちゃんと顔を見合わせた。
「目に見えるモンにいちいち驚いてたらキリがねぇぞ、このビルは時空が歪んでるんだ」
ジョーはそう言うと、ひとりエレベータに戻っていった。
時空が歪んでいる……。
確かにいちいち理由を考えても答えが出るとは思えない。
いまいち納得できないけど、ぼくと美玲ちゃんもエレベータに戻ることにした。
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