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6桁の数字と幻影ビルの金塊
039 触るな変態!!
しおりを挟む「あれだよ、エレベータの光だ! 暗くなったから見つけられたんだ!」
テントを張っていた青年が振り返った。
丘の上からぼくの指差す先を見つめていたが、よく見えないのか、眉間にしわを寄せて目を細めている。
「いまだよ、いま! 夜しか見つけられないんだ、早く行こう!」
ぼくは大声でうったえた。
丘を駆け下りてきた青年と一緒に、光に向かって歩く。
地平線に見えていた光が、どんどん大きくなっていく。
空がすっかり暗くなった頃、四角形に光る昇降口が確認できるほどエレベータに近づいた。
「五年ぶりや……。ようやくエレベータが来よったで……」
エレベータは地面から生えたキノコのように、唐突にそこに存在していた。
その周辺だけ、事務所のフロアのような硬い床が広がっている。
その光景に目を奪われながら、青年が走り出した。
ぼくも二匹のマリモと一緒にあとを追う。
…………。
だけどぼくの足だけ、途中で止まった。
だってそこに、美玲ちゃんもジョーの姿も、見当たらなかったんだ……。
青年はエレベータの扉のまえで、崩れるように膝をついた。
そして何かを拾い上げながら叫ぶ。
「これは……。このカバンは……わいのカバンやないかぁ~い!」
え……?
じゃあ、やっぱり?!
「……ミッケっ!!」
そのとき、背後から誰かがぼくを抱き上げた。
大きな声で泣きながら、ぼくの背中をぎゅっと抱いている。
その声は、美玲ちゃん……。
「まったくよお、何があっても3分で戻れってよぉ、約束したじゃあねえか!」
とりあえず、ジョーもいた。
「うわああああん、みれいちゃあ~ん」
ぼくも辛抱たまらず、大声で泣いてしまった。
だってしょうがないじゃない。
たぶん一日も経ってないけれど、何が起こるかわからない世界で、ようやく再会できたんだ。
「美玲ちゃん、やて……?」
さっきまでエレベータでカバンを見ていた青年が、ぼくたちを仁王立ちで睨んでいた。
眉間にしわを寄せながら、美玲ちゃんに鋭い視線を向けている。
伝えなきゃ……。
彼はチャーシューなんだ。
何年も、何年も……。
この訳のわからない世界で、ずっと助けを待ち続けていたんだ。
細い目で睨みつけながら、美玲ちゃんに近づいてくるチャーシュー。
ぼくは美玲ちゃんの腕から飛び降りて、チャーシューを制止するため駆け寄った。
「ま、待って! ぼくたちも一生懸命探してたんだ。時間の進み方が、ぼくらと違ったん……」
「黒崎はん、やんかぁあああ~!!」
チャーシューはぼくを跳ね飛ばして、はち切れんばかりの笑顔で美玲ちゃんに抱きついた。
ぎぃやゃぁああああああ~~!!
美玲ちゃんの金切り声が、夜の帳にこだまする。
二匹のマリモが、怖がってぼくの背中に隠れた。
「誰なのこいつ! ねぇミッケ、このひとだれ?!」
触るな変態!
離せロリコン!!
●@&#%○$!!!
美玲ちゃんは、思いつく限りの罵詈雑言を浴びせながらチャーシューの頭を引っ叩いている。
だけどまあ、もうちょっとだけ、このままにしてあげよう。
たった一日程度だったけれど、ぼくには痛いほどわかるんだ。
なんたってチャーシューは五年間も、ひとりぼっちで助けを待っていたんだからね。
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