6桁の数字と幻影ビルの金塊 〜化け猫ミッケと黒い天使2〜

ひろみ透夏

文字の大きさ
40 / 66
6桁の数字と幻影ビルの金塊

039 触るな変態!!

しおりを挟む
 
「あれだよ、エレベータの光だ! 暗くなったから見つけられたんだ!」

 テントを張っていた青年が振り返った。
 丘の上からぼくの指差す先を見つめていたが、よく見えないのか、眉間にしわを寄せて目を細めている。

「いまだよ、いま! 夜しか見つけられないんだ、早く行こう!」

 ぼくは大声でうったえた。
 丘を駆け下りてきた青年と一緒に、光に向かって歩く。

 地平線に見えていた光が、どんどん大きくなっていく。
 空がすっかり暗くなった頃、四角形に光る昇降口が確認できるほどエレベータに近づいた。

「五年ぶりや……。ようやくエレベータが来よったで……」

 エレベータは地面から生えたキノコのように、唐突にそこに存在していた。
 その周辺だけ、事務所のフロアのような硬い床が広がっている。

 その光景に目を奪われながら、青年が走り出した。
 ぼくも二匹のマリモと一緒にあとを追う。


 …………。


 だけどぼくの足だけ、途中で止まった。
 だってそこに、美玲ちゃんもジョーの姿も、見当たらなかったんだ……。

 青年はエレベータの扉のまえで、崩れるように膝をついた。
 そして何かを拾い上げながら叫ぶ。

「これは……。このカバンは……わいのカバンやないかぁ~い!」

 え……?
 じゃあ、やっぱり?!


「……ミッケっ!!」

 そのとき、背後から誰かがぼくを抱き上げた。
 大きな声で泣きながら、ぼくの背中をぎゅっと抱いている。

 その声は、美玲ちゃん……。

「まったくよお、何があっても3分で戻れってよぉ、約束したじゃあねえか!」

 とりあえず、ジョーもいた。

「うわああああん、みれいちゃあ~ん」

 ぼくも辛抱たまらず、大声で泣いてしまった。
 だってしょうがないじゃない。

 たぶん一日も経ってないけれど、何が起こるかわからない世界で、ようやく再会できたんだ。


「美玲ちゃん、やて……?」


 さっきまでエレベータでカバンを見ていた青年が、ぼくたちを仁王立ちで睨んでいた。
 眉間にしわを寄せながら、美玲ちゃんに鋭い視線を向けている。

 伝えなきゃ……。
 彼はチャーシューなんだ。

 何年も、何年も……。
 この訳のわからない世界で、ずっと助けを待ち続けていたんだ。

 細い目で睨みつけながら、美玲ちゃんに近づいてくるチャーシュー。
 ぼくは美玲ちゃんの腕から飛び降りて、チャーシューを制止するため駆け寄った。

「ま、待って! ぼくたちも一生懸命探してたんだ。時間の進み方が、ぼくらと違ったん……」


「黒崎はん、やんかぁあああ~!!」


 チャーシューはぼくを跳ね飛ばして、はち切れんばかりの笑顔で美玲ちゃんに抱きついた。


 ぎぃやゃぁああああああ~~!! 


 美玲ちゃんの金切り声が、夜のとばりにこだまする。
 二匹のマリモが、怖がってぼくの背中に隠れた。

「誰なのこいつ! ねぇミッケ、このひとだれ?!」

 触るな変態!
 離せロリコン!!
 ●@&#%○$!!!

 美玲ちゃんは、思いつく限りの罵詈雑言ばりぞうごんを浴びせながらチャーシューの頭を引っ叩いている。

 だけどまあ、もうちょっとだけ、このままにしてあげよう。
 たった一日程度だったけれど、ぼくには痛いほどわかるんだ。


 なんたってチャーシューは五年間も、ひとりぼっちで助けを待っていたんだからね。


しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

霊能探偵レイレイ

月狂 紫乃/月狂 四郎
児童書・童話
【完結済】 幽霊が見える女子中学生の篠崎怜。クラスメイトの三橋零と一緒に、身の回りで起こる幽霊事件を解決していく話です。 ※最後の方にあるオチは非常に重要な部分です。このオチの内容は他の読者から楽しみを奪わないためにも、絶対に未読の人に教えないで下さい。

【完結】またたく星空の下

mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】 ※こちらはweb版(改稿前)です※ ※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※ ◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇ 主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。 クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。 そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。 シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

未来スコープ  ―この学園、裏ありすぎなんですけど!? ―

米田悠由
児童書・童話
「やばっ!これ、やっぱ未来見れるんだ!」 平凡な女子高生・白石藍が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“触れたものの行く末を映す”装置だった。 好奇心旺盛な藍は、未来スコープを通して、学園に潜む都市伝説や不可解な出来事の真相に迫っていく。 旧校舎の謎、転校生・蓮の正体、そして学園の奥深くに潜む秘密。 見えた未来が、藍たちの運命を大きく揺るがしていく。 未来スコープが映し出すのは、甘く切ないだけではない未来。 誰かを信じる気持ち、誰かを疑う勇気、そして真実を暴く覚悟。 藍は「信じるとはどういうことか」を問われていく。 この物語は、好奇心と正義感、友情と疑念の狭間で揺れながら、自分の軸を見つけていく少女の記録です。 感情の揺らぎと、未来への探究心が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第3作。 読後、きっと「誰かを信じるとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

カリンカの子メルヴェ

田原更
児童書・童話
地下に掘り進めた穴の中で、黒い油という可燃性の液体を採掘して生きる、カリンカという民がいた。 かつて迫害により追われたカリンカたちは、地下都市「ユヴァーシ」を作り上げ、豊かに暮らしていた。 彼らは合言葉を用いていた。それは……「ともに生き、ともに生かす」 十三歳の少女メルヴェは、不在の父や病弱な母に代わって、一家の父親役を務めていた。仕事に従事し、弟妹のまとめ役となり、時には厳しく叱ることもあった。そのせいで妹たちとの間に亀裂が走ったことに、メルヴェは気づいていなかった。 幼なじみのタリクはメルヴェを気遣い、きらきら輝く白い石をメルヴェに贈った。メルヴェは幼い頃のように喜んだ。タリクは次はもっと大きな石を掘り当てると約束した。 年に一度の祭にあわせ、父が帰郷した。祭当日、男だけが踊る舞台に妹の一人が上がった。メルヴェは妹を叱った。しかし、メルヴェも、最近みせた傲慢な態度を父から叱られてしまう。 そんな折に地下都市ユヴァーシで起きた事件により、メルヴェは生まれてはじめて外の世界に飛び出していく……。 ※本作はトルコのカッパドキアにある地下都市から着想を得ました。

あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)

tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!! 作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など ・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。 小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね! ・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。 頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください! 特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します! トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気! 人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

処理中です...