6桁の数字と幻影ビルの金塊 〜化け猫ミッケと黒い天使2〜

ひろみ透夏

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6桁の数字と幻影ビルの金塊

041 この子誰の子?

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「あ、あの、やっぱりあれ? 五年も住んでると、やっぱあれなのかな? わたしたちが思ってるより、ずっとこう、仲良くなっちゃうのかしらねぇ、ジョーもほら、ねえ、聞いてほら?」

 ジョーがバーガーを頬張りながら、美玲ちゃんを横目で睨んだ。

「おめぇはさっきから、何を口をパクパクさせてやがるんだ? 何を言ってるのか、さっぱりわからねぇんだぜ」

 美玲ちゃんは顔を赤らめながら一瞬ぼくを見たけれど、なぜか深く溜め息をついて、また口をパクパクさせた。

「……なんかねぇ、マリモみたいで可愛いフォルムだけど、もっとこう、チャーシューの要素というか、面影見たいなものが……どうなのかなぁ……って」

「あるやんか、わいの面影! この子の目元なんかほら、わいにそっくりや!」

 チャーシューがマリモの一匹を抱き上げて、美玲ちゃんに顔のまえに突き出した。
 まん丸のくりくりお目々で美玲ちゃんを見つめている。

 美玲ちゃんが、こわばった笑顔でマリモにこたえた。

 そのとき、後ろに隠れるように座っていた大きめのマリモがチャーシューを突いた。

「……ちょ、ちょっと、待ってな」

 チャーシューが後ろを振り返って、大きなマリモとなにやら深刻そうに内緒話をしている。
 その隙に、美玲ちゃんがぼくに耳打ちしてきた。

「ミッケ、あんたはどう思う?」

「なにが……?」

「チャーシューに子どもがいるのよ?!」

「最初はびっくりしたけど可愛い子じゃない。目元が似てるってのは、どうかと思うけど……」

 美玲ちゃんは顔を真っ赤にして、頭を抱えた。
 そして思い切ったようにぼくに告げる。

「わたしね、あの子たち、チャーシューの子じゃないと思うの」

「なんでさ?」

「無理に決まってるじゃん! マリモと人間の子どもなんて!」

「なんで無理なの? チャーシューもワイフさんも、お互い大好きだったんだよ。コウノトリさんが子どもを授けたって、不思議じゃないでしょ?」

「そうだぜぇ……。なんで無理なのか、ちゃんと説明しろ。……なんだぜ?」

 ぼくらのあいだに顎を突っ込んで、ジョーがニヤけながら言った。

「すっこんでなさいよ、このセクハラおやじ!!」

 さっきから美玲ちゃんは何を怒っているんだろう?
 ぼくが首を傾げていると、チャーシューが改まった態度で話しかけてきた。

「……え~っと黒崎はん、今日はもう遅いし、我が家に泊まってもらおう思うたんやけど、そうもいかなくなったんや」

「我が家に泊まるって……。チャーシュー、わたしたちと一緒に帰らないつもり?!」

「もちろん、長年待ち続けたエレベータが来て、わいも浮き足立ったんは事実や。せやけど、わいには家族がおる。守るもんを残して、故郷に帰るわけにはいかんのや」

「ちょっと待って、あなたには本当の家族がいるでしょ? わたし、チャーシューのお父さんやお母さんに何て説明すればいいの?」

「両親にはこう伝えてほしい。息子は遠い世界で、しっかり綾小路家の血を受け継がせております……と」

「いや、受け継がせてないから!」

 間髪入れずにツッコミを入れて、美玲ちゃんが立ち上がった。
 そしてチャーシューの後ろに隠れた、大きなマリモに向かって言う。

「失礼ですけど奥さま、あのふたりの可愛いお子さまは、本当にチャーシューの子なんでしょうか?」

「黒崎はん、あんた、なんてこと言うんや!」
 
 流石さすがにチャーシューも怒って立ち上がろうとしたとき、大きなマリモがその腕を引っ張って、また内緒話を始めた。

「……さっきからなに話してるの? わたしに直接言いなさいよっ!!」

 おどおどしながら、チャーシューがこたえる。

「……黒崎はんは、泥棒猫の匂いがするって」

「はぁあああああっ?!」

 美玲ちゃんとチャーシューの奥さんがバチバチだ。
 こんな訳のわからない世界で、ドロドロの愛憎劇を見せられるなんて。

「ここは人生経験が豊富なおれ様によぉ、いっちょ、まかせるんだぜ?」

 顎のおっさんがしゃしゃり出てきた。
 もうあんまり引っ搔き回さないでよ……。

「おい若えの、よく聞きな」

 チャーシューの正面にジョーが立つ。
 その胸を拳でどんっと叩きながら、アドバイスした。

「あんたがよぉ、妻の目をまっすぐ見ながら問うんだぜ? 自分の子か否かをなぁ!」

 ジョーの言葉を受けて、チャーシューが大きなマリモに振り返った。
 どきっとして、挙動不審きょどうふしんになるマリモ。

 その細い両腕をしっかり持って、チャーシューがマリモの目をまっすぐに見つめる。

「正直にこたえてや。あの子らは、わいらの子どもやんなぁ?」

「あっ、目をらした! すっごい目を逸らしたのほら! 見たでしょみんな、いまのほらっ?!」

 即座そくざに指摘する美玲ちゃん。
 そこまで粒立つぶだてなくても、みんな一瞬で理解したよ。
 チャーシューもがっくり肩を落としてる。

「若えの、気を落とすんじゃねぇぜ? お前さんの妻や子どもに対する愛情はホンモノだったんだ。堂々と胸を張れや」


 なんだかよくわからないけれど、明日の朝、チャーシューは元の世界に帰ることになった。


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