6桁の数字と幻影ビルの金塊 〜化け猫ミッケと黒い天使2〜

ひろみ透夏

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6桁の数字と幻影ビルの金塊

046 萌ちゃんが?!

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「萌ちゃんが?!」

 みんなが見ているのは、炎が揺らめく5階フロア中央のさらに先。
 一生懸命に目を凝らすが、ぼくには何も見えない。

「あんなに燃え盛る炎の向こうに行けるわけない! 見間違いだよ!」

「いや、確かに七海ななみはんや……。山のように積まれたミクドのポテトに腰掛けて、わいに手招きしとる」


 ……え?


「七海はんが隣に座れって手招きしとるんや! あんなとこにおったら火傷やけどすんで! 助けに行かな!」

 エレベータを降りようとするチャーシューの半ズボンの裾を、ぼくは全力で引っ張った。

「目を覚ましてチャーシュー! あんなとこを通ったら、ほんとに焼き豚になっちゃうよ!」

 だけどブルドーザのように力強く進むチャーシューを、この小さな体で引き留めるなんて到底無理。

「……美玲ちゃん!」

 ぼくは力を貸してもらうため、横にいる美玲ちゃんに呼びかけた。

 …………!!

 美玲ちゃんは目を見開きながら、揺らめく炎を見つめている。
 その目から、大粒の涙がこぼれていた。


「……パパ」


 やばっ!

 美玲ちゃんには、幼い頃に亡くしたパパさんが見えているんだ。

 このままでは、ふたり揃って炎の中に飛び込んでしまう。
 考えてる暇はない。

 ぼくは一か八かの賭けに出た。

「おい、焼き豚!」

 汚い言葉を投げかけて、チャーシューの膝の裏を蹴り上げる。
 不意を突かれたチャーシューは、膝から崩れ落ちた。

「美玲ちゃんが炎に飛び込もうとしてるんだ! 萌ちゃんばかり見てないで、目の前にいる女の子を助けろ、この鈍感野郎!」

 目から鱗が落ちたとばかりに、チャーシューの目に落ち着きが戻っていく。
 すぐさま立ち上がり、いまにも走り出しそうな美玲ちゃんの腕を掴む。


 ……はずだった。


 ぼくの一撃が予想以上にダメージを与えていたのか、慢性肥満によるダメージが蓄積していたのか、チャーシューは腕を伸ばして立膝をついたとたん、ごろりと転んでしまった。
 
 その刹那せつな、ぼくの目の端に映ったのは、エレベータから飛び出していく美玲ちゃんの姿。
 炎の先に見えているであろう、パパさんの元に走っていく後ろ姿ーー。


 そのときだった。
 

 炎の中を走る美玲ちゃんが、とつぜん何かに弾き飛ばされたんだ。
 まるでボールのように転がりながら、エレベータ付近まで戻ってくる。

 直後に、衝撃波のようなものがぼくまで届いた。


 一瞬で全身に鳥肌が立つほどの強い恐怖。
 容赦無く、頰を引っ叩かれたような衝撃。


 でもそれは、愛しい我が子を叱りつけるような、厳しくも愛のある感情ーー。

 激しく燃え上がる炎の先に目を向ける。

 ぼくにも見えた。
 怒髪天どはつてんく厳しい表情で、炎の中に立つそのひと。


 あれは美玲ちゃんのパパさんだ。


 ぼくにしか見えないし、最近はめっきり姿を見せなかったけど、やっぱり美玲ちゃんを見守っていたんだ。

「ぱぱぁ! なんで勝手に死んだのよ、ばかぁ! ぱぱのばかぁ~っ!!」

 ぺたりと床にへたり込んだ美玲ちゃんが、叱られた子どものようにわんわん泣いた。

 パパさんは、いつものやさしい眼差しに戻って美玲ちゃんを見つめている。
 やがてその視線が、ぼくに向いた。


「頼んだよ、ミケーレ……」


 初めて聞いた、パパさんの声。
 でもなんで、ぼくをミケーレって呼ぶの……?


 炎の中のパパさんは、そのあと煙のように姿を消したんだ。

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