7 / 66
6桁の数字と幻影ビルの金塊
006 ビデオカメラで撮るものは?
しおりを挟む「ひとりで心霊スポットロケしてるとわいが映らへんやんか? やっぱりわいが画角に収まってなきゃ、視聴者が納得せえへんと思うねん!」
チャーシューはカバンからビデオカメラを取り出し、美玲ちゃんに手渡した。
「せやから黒崎はんには、カメラマンをやって欲しいんや」
「えぇ~、わたしビデオカメラなんて扱えないよぉ」
「大丈夫! このモニタを見ながら赤いボタン押すだけでええねん。ほら、練習練習!」
美玲ちゃんが面倒臭そうにカメラを構えたので、ぼくはその肩に飛び乗ってモニタを覗き込んだ。
浮かれたチャーシューが、テーブル越しに小躍りしている姿が映っている。
「うう、熱量がハンパない……。吐きそ……」
「ええやんええやん! 熱量が伝わってこその動画配信や! やる気が出てきたでぇ!」
あらためてビデオカメラをしげしげと見つめながら、美玲ちゃんがたずねた。
「で……これで何を撮るつもり?」
待ってましたとばかりに、チャーシューはカバンからノートPCを取り出すと、神妙な声で説明を始めた。
「黒崎はん、終戦直後に逢生橋付近の川底から、旧日本軍の金塊が引き揚げられた話、知っとるか?」
「知らない。けど、ずいぶんと近所の話ね」
「金、銀、プラチナ、合わせて67トン、現在の価値で数兆円とも言われている」
「す、す~ちょ~えんっ?!」
美玲ちゃんの素っ頓狂な声が響き渡り、うるさかった店内が一瞬静寂に包まれた。
ばつが悪そうに肩をすぼめて、チャーシューに続きをたずねる。
「……そんなすごい量の金塊、どうなったの?」
「どうやら進駐軍に接収されたらしい」
「接収……って取られちゃったの? ……で、でも、67トンも沈んでたんなら、まだひとつくらい残ってるかも! それを探しにいくのね!!」
美玲ちゃんの目が、ぎらぎらと輝きを放っている。
「ちゃうわ。そっからオカルト話に展開していくねん」
「……なぁんだ、つまらない」
その輝きが、スイッチを切ったようにストンと消えた。
「そうとも限らんで、もしかしたら数兆円とは言わんが、十億円くらいにはなる話や」
「じゅーおくっ!!」
美玲ちゃんの目が、またぎらぎらといやらしく輝きだした。
まったく、忙しいひとだ。
「豊海ふ頭の手前に、どでかい公園があるやんか?」
「あるある、豊海ふ頭総合公園でしょ? オリンピックの選手村予定地だった」
「そう、あっこはもともと埋立地で、高層団地になったり国際貿易センターになったり、さまざま形を変えてきたんや。つまり、スクラップアンドビルドやね」
「あ~、はいはい……」
テキトーな相槌。
美玲ちゃん絶対わかってないな。
スクラップアンドビルドとは、古くなったものを壊して、新しいものに置き換えていくだよ。
「せやけど戦後、唯一取り壊されずにおるビルが一棟だけあんねん。その古いビルのどこかに、十億円ほどの旧日本軍の金塊が隠されてるって話や」
美玲ちゃんが訝しげに首を傾げた。
「……おかしくない? そんな噂のあるビルなら、とっくに誰かが金塊を取りに行ってるはずでしょ?」
「せやから、こっからがオカルト話になるんや」
チャーシューが身を乗り出して、小声で続ける。
「……そのビル、フツーに探しても見つからん。『幻影ビル』と呼ばれとるくらいや。場所は割れとるから、みんなその場所へ行く。すると確かに、不自然なほどに一画だけ空き地のままの場所があんねん。せやけどビルは見当たらない。お手上げや」
「……じゃあ、わたしたちもお手上げね。とりあえず、これが噂の現場ですって、その何も建ってない空き地を撮影する? ただでさえ少ないチャンネル登録者数がゼロになるよ」
チャーシューはほっぺたの肉をたぷたぷ揺らしながら、首を横に振った。
「幻影ビルは必ずある! そのビルを確かに見たって目撃情報は複数報告されてんねん。わいはとにかくその情報をたくさんかき集めて何か手がかりがないかと考えた。しかし日付も季節もばらばら……。なにも関連性がないように思えた」
チャーシューがさらに身を乗り出した。
美玲ちゃんの顔のすぐ前で、ささやく。
「……せやけど、つにわいは突き止めた。その情報には確かに共通点があったんや」
美玲ちゃんもいつのまにか、真剣な目つきで聞いている。
ぼくもテーブルの上に座って、耳を研ぎ澄ます。
ぼくらだけ別の世界に移動したみたいに、やかましかった店内の喧騒が遠く離れていく。
「幻影ビルが姿をあらわすのは新月の夜のみ。……つまり今晩や!」
30
あなたにおすすめの小説
笑いの授業
ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。
文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。
それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。
伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。
追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。
化け猫ミッケと黒い天使
ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。
そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。
彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。
次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。
そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。
大人にナイショの秘密基地
湖ノ上茶屋
児童書・童話
ある日届いた不思議な封筒。それは、子ども専用ホテルの招待状だった。このことを大人にナイショにして、十時までに眠れば、そのホテルへ行けるという。ぼくは言われたとおりに寝てみた。すると、どういうわけか、本当にホテルについた!ぼくはチェックインしたときに渡された鍵――ピィピィや友だちと夜な夜な遊んでいるうちに、とんでもないことに巻き込まれたことに気づいて――!
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
未来スコープ ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―
米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」
平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。
それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。
恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題──
彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。
未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。
誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。
夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。
この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。
感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。
読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。
【完結】またたく星空の下
mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】
※こちらはweb版(改稿前)です※
※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※
◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇
主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。
クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。
そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。
シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
少年騎士
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる