6桁の数字と幻影ビルの金塊 〜化け猫ミッケと黒い天使2〜

ひろみ透夏

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6桁の数字と幻影ビルの金塊

006 ビデオカメラで撮るものは?

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「ひとりで心霊スポットロケしてるとわいが映らへんやんか? やっぱりわいが画角に収まってなきゃ、視聴者が納得せえへんと思うねん!」

 チャーシューはカバンからビデオカメラを取り出し、美玲ちゃんに手渡した。

「せやから黒崎はんには、カメラマンをやって欲しいんや」

「えぇ~、わたしビデオカメラなんて扱えないよぉ」

「大丈夫! このモニタを見ながら赤いボタン押すだけでええねん。ほら、練習練習!」

 美玲ちゃんが面倒臭そうにカメラを構えたので、ぼくはその肩に飛び乗ってモニタを覗き込んだ。
 浮かれたチャーシューが、テーブル越しに小躍りしている姿が映っている。

「うう、熱量がハンパない……。吐きそ……」
 
「ええやんええやん! 熱量が伝わってこその動画配信や! やる気が出てきたでぇ!」
 
 あらためてビデオカメラをしげしげと見つめながら、美玲ちゃんがたずねた。

「で……これで何を撮るつもり?」

 待ってましたとばかりに、チャーシューはカバンからノートPCを取り出すと、神妙な声で説明を始めた。

「黒崎はん、終戦直後に逢生橋付近の川底から、旧日本軍の金塊が引き揚げられた話、知っとるか?」

「知らない。けど、ずいぶんと近所の話ね」

「金、銀、プラチナ、合わせて67トン、現在の価値で数兆円とも言われている」

「す、す~ちょ~えんっ?!」

 美玲ちゃんの素っ頓狂な声が響き渡り、うるさかった店内が一瞬静寂に包まれた。
 ばつが悪そうに肩をすぼめて、チャーシューに続きをたずねる。

「……そんなすごい量の金塊、どうなったの?」

「どうやら進駐軍に接収されたらしい」

「接収……って取られちゃったの? ……で、でも、67トンも沈んでたんなら、まだひとつくらい残ってるかも! それを探しにいくのね!!」

 美玲ちゃんの目が、ぎらぎらと輝きを放っている。

「ちゃうわ。そっからオカルト話に展開していくねん」

「……なぁんだ、つまらない」

 その輝きが、スイッチを切ったようにストンと消えた。

「そうとも限らんで、もしかしたら数兆円とは言わんが、十億円くらいにはなる話や」

「じゅーおくっ!!」

 美玲ちゃんの目が、またぎらぎらといやらしく輝きだした。
 まったく、忙しいひとだ。

「豊海ふ頭の手前に、どでかい公園があるやんか?」

「あるある、豊海ふ頭総合公園でしょ? オリンピックの選手村予定地だった」

「そう、あっこはもともと埋立地で、高層団地になったり国際貿易センターになったり、さまざま形を変えてきたんや。つまり、スクラップアンドビルドやね」

「あ~、はいはい……」

 テキトーな相槌。
 美玲ちゃん絶対わかってないな。
 スクラップアンドビルドとは、古くなったものを壊して、新しいものに置き換えていくだよ。
 
「せやけど戦後、唯一取り壊されずにおるビルが一棟だけあんねん。その古いビルのどこかに、十億円ほどの旧日本軍の金塊が隠されてるって話や」

 美玲ちゃんが訝しげに首を傾げた。

「……おかしくない? そんな噂のあるビルなら、とっくに誰かが金塊を取りに行ってるはずでしょ?」

「せやから、こっからがオカルト話になるんや」

 チャーシューが身を乗り出して、小声で続ける。

「……そのビル、フツーに探しても見つからん。『幻影ビル』と呼ばれとるくらいや。場所は割れとるから、みんなその場所へ行く。すると確かに、不自然なほどに一画だけ空き地のままの場所があんねん。せやけどビルは見当たらない。お手上げや」

「……じゃあ、わたしたちもお手上げね。とりあえず、これが噂の現場ですって、その何も建ってない空き地を撮影する? ただでさえ少ないチャンネル登録者数がゼロになるよ」

 チャーシューはほっぺたの肉をたぷたぷ揺らしながら、首を横に振った。

「幻影ビルは必ずある! そのビルを確かに見たって目撃情報は複数報告されてんねん。わいはとにかくその情報をたくさんかき集めて何か手がかりがないかと考えた。しかし日付も季節もばらばら……。なにも関連性がないように思えた」

 チャーシューがさらに身を乗り出した。
 美玲ちゃんの顔のすぐ前で、ささやく。

「……せやけど、つにわいは突き止めた。その情報には確かに共通点があったんや」

 美玲ちゃんもいつのまにか、真剣な目つきで聞いている。
 ぼくもテーブルの上に座って、耳を研ぎ澄ます。

 ぼくらだけ別の世界に移動したみたいに、やかましかった店内の喧騒が遠く離れていく。


「幻影ビルが姿をあらわすのは新月の夜のみ。……つまり今晩や!」
 

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