6桁の数字と幻影ビルの金塊 〜化け猫ミッケと黒い天使2〜

ひろみ透夏

文字の大きさ
15 / 66
6桁の数字と幻影ビルの金塊

014 あんた誰?

しおりを挟む
 
 エレベータがゆっくりと停止する。
 扉が開くと、そこは見覚えのある1階のエントランスだった。

 ぼくはチャーシューが持っていたランタンを口に咥えて、エレベータを降りた。
 振り返ると、美玲ちゃんはエレベータの床にペタンと座ったまま、うつむいた顔を両手で覆っている。

 ランタンをフロアの中央に置いて、美玲ちゃんのところへ戻る。

「ここにいたらぼくたちも危険だよ。とにかくこのビルから出よう」

 美玲ちゃんが首を横に振った。

「……チャーシューを置いて行けないよ」

 そう言いながら涙が溢れてきたのか、また両手で顔を覆った。

 ぼくはチャーシューの持っていた肩掛けカバンを咥えて、扉のレール上に置いた。
 扉が閉まってエレベータが動きだすと、5階にいたマントの男が降りて来てしまうからだ。

「とりあえずエレベータから降りて。シショウの力を借りに行こう」

 美玲ちゃんも可能性はそれしかないと思ったのか、泣きはらした顔を上げてうなづいた。
 よろよろと立ち上がり、エレベータから降りる。

 ぼくらの背後で、金属の擦れる音をたてながらエレベータの扉が動くが、カバンが邪魔して何度も開閉を繰り返している。

 美玲ちゃんがフロアに置かれたランタンを手に取り、ふたりでビルの出口に向かって歩く。
 モスグリーンのドアの鈍く光を反射する金色のドアノブを、がちゃりと回した。

 生ぬるい夜風がぼくのひげを揺らす。
 目のまえに広がった景色を見て、ぼくは自分の目を疑った。

 そこは暗い木立の中ではなく、アスファルトの車道が横切っていたのだ。
 ヘッドライトを点けた高級セダンが目のまえを横切る。
 車道を挟んだ向こう側には、見上げるほど高いマンションが建っている。

 美玲ちゃんもドアから顔を出して周囲を見渡した。
 車道沿いに、ずっとマンションが建ち並んでいるのだ。

「……ここ、何処どこ?」
 
「そっから出ても、元の世界にゃ戻れねぇぜぇ」

 とつぜん聞こえた声に、ぼくらは飛び上がって驚いた。
 腰を抜かしそうになった美玲ちゃんと、文字通り腰を抜かしたぼくが振り返る。

 そこにはチェック柄のキャスケット帽をかぶった、ベージュのスーツ姿の中年男が立っていた。
 白い開襟シャツにサスペンダーをしている。

「元の世界でなくてもいいなら、止めはしねぇけどよう」

 胸ポケットから煙草たばこの箱を取り出すと、革靴の裏でマッチを擦って煙草をくゆらせた。

「……どなたですか?」
 
 後ずさりしながら、美玲ちゃんがたずねた。
 中年男が煙草の煙を吐きながら、苦々しい表情でこたえた。
 
「そう警戒すんなよお嬢ちゃん、おれも迷い込んじまったんだ。協力しねぇか?」

 ぼくは美玲ちゃん横に並んで、小声で話しかけた。

「5階で見たマントの男だよね?」
「どうかな……。もっと危険そうな男に見えたけど……」

 煙草を口に咥えたまま、大きな顎を前に突き出し、中年男が聞いてきた。
 
「元の世界に戻るにはよぅ、鍵が必要なんだぜ? お宝って鍵がなぁ……。お前らもそれが目的で、このビルに忍び込んだんだろうが?」

「お宝って金塊のこと? それを手に入れれば元の世界に戻れるっていうの?!」

 美玲ちゃんの質問に、中年男はぎらぎらした視線でぼくたちを見つめたまま、ゆっくりと煙を吐いてうなづく。

「わかった。わたしたちも早くここから出て助けを呼びに行きたいの。協力しましょう」

 中年男が満足そうな表情で手を叩いた。

「そんじゃあ、まず金塊の分け前を決めとこうぜ。おれが八。お前らが二。……で、どうだ?」

「わたしは元の世界に戻るだけでいい。八億だろうが十億だろうが好きにして」

「はっ、じゅーおく?! お前ら、とんだガセネタ掴まされたんだな。金塊の総額はいいとこ一億だぜ? おれの取り分が八千万、お前らは二千万。子どもの分際で、そんだけありゃあ十分だろうが」

 さっきからこのおっさん、お前らお前らって偉そうなんだよね。
 ぼくは頭にきて、つい話しかけてしまった。

「ぼくはミッケで、この子は美玲ちゃんっていうんだ。名前で呼んでよね、あごのおっさん!」

「オーケーオーケー。鼻っ柱の強うそうなお坊ちゃんだぜ、まったく」

 えっ?
 んっ?

 もしかしてこのひと、さっきからぼくの姿が見えているの?
 思わず美玲ちゃんと顔を見合わせる。

 そのぼくのほっぺを両手ではさんで、美玲ちゃんが悲鳴をあげた。

「ちょちょ、ちょっとミッケ! あんたまた、子どもの姿になってるじゃないの!!」

 ぼくはとっさに自分の手を見つめた。
 またもや三才から四歳くらいの、ちいさな子どもの手になっていた。

「ぎゃぁ~っ!!」

 そんなぼくらの事情には我関せず、中年男は勝手に自己紹介を始めた。

「おれの名はジョーだ。見ての通り、この頑丈そうな顎がその名の由来だぜ?! もうおっさんって呼ぶんじゃあねぇぜ~」

 自らの顎をガンガン拳で叩きながら、自慢げにそう言った。
 たしかにおっさんの顎は頑丈そうで、なおかつ前方に飛び出している。

 それにしても……。


 雰囲気から話し方からそのニックネームまで、なにもかも昭和チックで古臭いんだよね……。
 
 
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

霊能探偵レイレイ

月狂 紫乃/月狂 四郎
児童書・童話
【完結済】 幽霊が見える女子中学生の篠崎怜。クラスメイトの三橋零と一緒に、身の回りで起こる幽霊事件を解決していく話です。 ※最後の方にあるオチは非常に重要な部分です。このオチの内容は他の読者から楽しみを奪わないためにも、絶対に未読の人に教えないで下さい。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

大人にナイショの秘密基地

湖ノ上茶屋
児童書・童話
ある日届いた不思議な封筒。それは、子ども専用ホテルの招待状だった。このことを大人にナイショにして、十時までに眠れば、そのホテルへ行けるという。ぼくは言われたとおりに寝てみた。すると、どういうわけか、本当にホテルについた!ぼくはチェックインしたときに渡された鍵――ピィピィや友だちと夜な夜な遊んでいるうちに、とんでもないことに巻き込まれたことに気づいて――!

未来スコープ  ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―

米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」 平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。 恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題── 彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。 未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。 誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。 夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。 この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。 感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。 読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

化け猫ミッケと黒い天使

ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。 そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。 彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。 次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。 そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

処理中です...