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6桁の数字と幻影ビルの金塊
017 6桁の数字
しおりを挟む「さあ、次が本命のひとつだぜ? 鬼が出るか蛇が出るか!」
ジョーが下から2番目のボタンを押す。
おんおんと唸り声をあげながら、エレベータが動き出した。
4……。
3……。
2……。
甲高いベルの音が、エレベータ内に響き渡る。
頼りないほどの渋い動きで扉が開き始めたとたん、ぼくは自分の目を疑った。
扉の隙間から、仄暗い光がエレベータ内に差し込んできたのだ。
驚きの表情を浮かべるぼくらをよそに、ジョーは何事もないようにエレベータから降りた。
「けっ、ここも3階とほぼ同じだ。金塊なんか有りそうにねぇや」
2階はスチール製の事務机や棚が並んだ、古臭い普通の事務所だった。
ただ驚くことに、ブラインドを全開にした窓の外には鉛色の空が広がり、激しく雨が降っている。
「昼間じゃん……。時空が歪んでるって本当なのね……」
口を押さえながらも、美玲ちゃんの驚嘆が漏れる。
一方、ジョーは片っ端からを棚の扉を開け、机の引き出しをまさぐっている。
「美玲ちゃん、これなあに?」
ぼくは床に散乱している、何枚もの手帳の切れ端を見つけた。
よく見ると、そこにはバツ印がされた幾つもの数字が書かれていた。
「132456、152436、142536……。何かしらね?」
美玲ちゃんも手帳の紙を一枚拾い上げて、首を傾げている。
ぼくも四つん這いになって、床に散らばった紙の数字を見つめた、そのとき……。
「ああ~っ!!」
「ああ~っ!!」
ぼくと美玲ちゃんが、同時に声をあげた。
いや、正確にはぼくの方がちょっと早かったもんね。
だって、わかっちゃったんだぼく、この数字の意味!
「この数字はビルの階数! つまりどれかの数字通りに階数を辿れば、金塊に……」
「……違うな」
得意満面で語ってるぼくの言葉を、ジョーがさえぎった。
いつの間にか探索をやめて、事務机の上に胡座をかいて煙草を吸っている。
はは~ん。
ジョーはぼくみたいなお子様に謎解きされて悔しいんだね。
ばかにしないでよ。
ぼくは、身体はお子様でも、頭脳は化け猫なんだい!
「だってこの数字、全部1から始まっているんだ。1階からスタートするこのビルと同じだよ。悔しかったらよく見てみなよ」
ぼくが手帳の切れ端を突きつけるも、ジョーは見向きもしなかった。
「……見なくたって分からぁ、試しに数字を読み上げてみな」
ぼくは足元に散らばる数字を、片っ端から読み上げた。
ほらね、全部1から始まっているんだ。
なのにジョーは、突き出た顎をさすりながら興味なさそうに言った。
「やっぱり違うな。数字は全て6桁、このビルは5階建てだぜ?」
「ちょっと待って! この数字、全部6で終わってる。このビルの時空が歪んでいるなら、全ての階を廻ったあとに、幻の6階が現れるのかも……」
ナイス、美玲ちゃん!
その見事な助け舟に、さすがのジョーも降参宣言するかと思いきや、不敵な笑みを浮かべてぼくらに何かを放ってよこした。
ぼくの足元にばさっと落ちたのは……。
「競艇……新聞……?」
「最近始まった公営ギャンブルだ。6艇のボートが競い合うが、圧倒的に内枠の1号艇が有利。外枠の6号艇が不利ときてる。……つまりそりゃぁ、競艇の予想だ」
いまいち納得できないぼくに向かって、ジョーがとどめを刺す。
「……ちなみにおれが導き出したデータでは、1号艇の1着率は55.9%、6号艇は1.8%。……納得したか?」
プンプンにむくれた顔で地団駄を踏むぼく。
寂しげな表情で煙草を燻らせているジョーに向かって、美玲ちゃんが声をかけた。
「ずいぶん詳しいんだね」
「どうしようもねぇ人生を一発逆転したくて、競艇なんかに人生賭けちまったんだ。いまもこうして金塊探しに血眼になってるってぇことはよぅ……。まあ、察してくれや」
窓に打ち付けていた雨が、いっそう激しさを増す。
ジョーは吸っていた煙草を机に押し付け、エレベータに向かって歩きだした。
ぼくらも2階には見切りをつけてエレベータに向かう。
そのとき、美玲ちゃんが足元に散らばった紙切れの一枚を拾い上げた。
「どうするの、それ?」
「……ちょっと気になってね」
美玲ちゃんが拾った紙には、『逆』と書かれていた。
その下に書かれた、ぐるぐると丸で囲まれた数字は……。
『142356』
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