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6桁の数字と幻影ビルの金塊
021 ウチはラーメン屋じゃねえ!
しおりを挟む部屋の隅に転がっていた黒電話からの通話は、出るのに戸惑ったせいかすでに切れていた。
とりあえず、とつぜんの緊張から解放されたぼくたちが、ほっと一息ついて、その場に腰を下ろしたとき。
ジリリリリリッ!!
ジリリリリリッ!!
ジリリリリリッ!!
またもや電話がかかってきたのだ。
美玲ちゃんが鬼の形相で、電話機をジョーに押し付ける。
すっかり美玲ちゃんの恐ろしさを刷り込まれたジョーが、素直に電話機を受け取った。
そして受話器を耳にあてる。
「あ~え~っと……。あんた誰だい?」
ぼくと美玲ちゃんが、じっとジョーの表情を伺う。
「おい、あんたぁ、ふざけるんじゃあねぇぜ! ウチをラーメン屋か何かと間違ってるんじゃあねぇのか? ウチにはチャーシューメンなんか、置いてねぇんだぜ!」
そのとたん、美玲ちゃんが受話器を奪い取った。
「チャーシュー! あんた、チャーシューなんでしょっ?!」
その言葉を聞いて、ぼくもあわてて受話器に耳を寄せた。
かすかだけど、確かにチャーシューの声が聞こえる。
「ひどいやんか、黒崎はん! わいを置いてエレベータで行っちまうやなんて!」
「チャーシュー、良かった……。あなた、生きてるのね!」
美玲ちゃんの目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
鼻をすすりながら、話を続けた。
「……絶対、助けに行くからね。チャーシュー、いま何処から電話かけてるの?」
「ずっと3階におるんや。真っ暗でもうミニライトの電池がもたへん。黒崎はんは何処におるんや?」
「わたしもいま3階にいるの。うまく言えないけど、たぶん次元が違うのよ……。どうやって電話かけてきたの?」
「ビデオカメラを何処かに落としてもうて、手持ちのミニライトでフロアを探索してたら、事務机の上に電話を見つけたんや。ダイヤルの真ん中に電話番号が書かれていて……」
「それが、このビルの番号だったから、わたしのいる3階にも電話がかかってきたのね」
「たぶんせやな……しかし、次元が違うやなんて……」
「チャーシュー、その電話番号教えて!」
「え~っと待ってな、ミニライトのボタン電池がもたへんねん……。ええか、読み上げるで? 03-142……。あぁ~っ!! 電池が切れてもうたぁ~。なんも見えへん!」
「とにかく電話切らないで、どうにかして助けに行くから! ……ねぇ、チャーシュー? どうしたの?!」
「……なんかさっきから、荒い息遣いが聞こえるんや。……だんだんこっちに近づいてきとる」
「美玲ちゃん!」
ぼくは受話器から耳を離して叫んだ。
美玲ちゃんもその荒い息遣いの正体に気づいたのか、一瞬で表情がこわばる。
「チャーシューだめ、絶対にそいつらに近づかないで! 何処かに隠れて!」
「せやな……なんかやばそうな雰囲気やで……。壁のロッカーに身を隠すわ。いったん電話切るで……」
「チャーシュー、絶対助けに行くからね……。ねぇ、チャーシュー……」
電話が切れたのか、美玲ちゃんがそっと受話器を置いた。
あふれる涙を、手の甲で拭いている。
「ミッケ、良かった……チャーシュー生きてたよ……」
ぼくももらい泣きしそうになりながら、美玲ちゃん手を握った。
「あんたの知り合いだったのかい? しかし、よくこのビルの電話番号がわかったなぁ……」
「ダイヤルの真ん中に書いてあったって……。ミッケ、電話機を照らして」
ぼくはランタンを黒電話に近づけた。
確かにダイヤルの真ん中に番号を書くスペースがある。
だけど、薄汚れているうえに、手書きの文字が掠れていてよく見えない。
眉間にしわを寄せながら、ぼくはかすかに残った番号を読み上げた。
「03……14……2……3……。これ5かな? 文字のクセが強すぎて……」
「……142356」
とうとつに、美玲ちゃんが言った。
「えっ……」
振り返ると、美玲ちゃんはポケットから一枚の紙切れを取り出した。
「2階に散乱していた手帳の切れ端のなかで、唯一バツが書かれていなかった数字……」
ランタンの灯りに照らされた紙切れを、ぼくも見る。
『逆』と書かれた文字の下に、142356の数字がぐるぐると丸で囲まれていた。
「この数字と、ビルの電話番号が同じ……」
意を決したように美玲ちゃんは立ち上がると、ジョーに訴えかけた。
「この数字通りに階を辿ってみよう。この数字に意味がないとは思えない」
「馬鹿言うんじゃねぇぜ! せっかく『闇の階』を通らずに、全ての階を廻る数字を導き出したってのによお! その順番じゃあ、確実に『闇の階』に行っちまうぜ!」
即座に言い返したジョーに向かって、美玲ちゃんが畳みかける。
「それでいいの、『逆』なの『逆』! 本当に必要なものを手にしたいなら、楽な道を通るんじゃなくて苦難の道を辿る! つまり普通の階を一度も通らずに全ての『闇の階』を廻る! それがこの数字、142356よ!」
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