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6桁の数字と幻影ビルの金塊
024 奴隷と王
しおりを挟む「どうだい、ほら見ろ! この窪によぉ、ピタりとはまるんだぜ!」
ジョーが得意げに自慢する。
光のひとからもらった『餓鬼階』と書かれた小さなプレートは、エレベータ内の操作盤にある、4階ボタンの横の窪にぴたりとはまった。
ぼくも何処かで見たプレートだと思ってたんだ。
1階のボタンの横には、すでにプレートがはまってるんだもん。
なぜか『階』以外の文字が掻き消されて『##階』になっているけど……。
「……ってことは、他の階でもプレートを見つけるってこと?」
「んなこたぁ、おれにはわからんぜ。あのピカピカ人間が、たまたま持ってたプレートを握り飯の礼にくれただけかもしれんしよう」
「たまたまってことは無いでしょ。あんなグロい世界がふつーの事務所に戻ったんだから」
「おれは、プレートとの因果関係はわからねぇって言ってるんだぜ?」
狭いエレベータ内で言い合っている二人に、ぼくは割って入った。
「ねえ、次は何階だっけ?」
「2階でしょっ!」
「2階なんだぜ!」
いつのまにかふたりの立場が対等になってる。
まあいいか。
顎のおっさん、いつも偉そうなんだもん。
操作盤の下から2番目のボタンを押す。
おんおんと唸り声をあげながら、エレベータが動きだした。
エレベータの扉を睨みながら、ふたりはまだ口喧嘩を続けている。
「油断すんなよ、次はまだ行ったことがない『闇の階』なんだぜ!」
「わかってるよ!」
「イライラすんねぇ、ここは協力しねえとよう」
「なに言ってるの?! あなたこそ次はちゃんと役に立ってよね! わたしは優斗くんのためにとっておいた、大切な……」
「ああんっ、何だって?!」
「……うるさいって言ってんだわよ!」
美玲ちゃんの怒鳴り声と同時にエレベータの扉が開いた。
目のまえに広がるのは、他の『闇の階』と同じ漆黒の闇。
ただ他の階と違って、2階は刃の切っ先のような鋭い空気を感じる、異様な緊張感が漂う空間だった。
「……なんか居る」
美玲ちゃんが闇に目を凝らしている。
ぼくも闇に目を凝らすが、ねこのときと違って思うように夜目が効かない。
「とりあえず、降りてみようぜ」
ジョーが扉から足を踏み出した。
そのとたん、エレベータの照明がとつぜん消えた。
「……お、おれは、何もしてねぇぜ!」
真っ暗な空間で、ジョーの言い訳だけが聞こえる。
ぼくは手に持ったランタンのスイッチを付けようとした。
そのとき。
「ミッケ待って!」
美玲ちゃんが叫んだ。
そして緊張した声で続ける。
「……暗い方がよく見える。すぐそこに居るの、それも大勢」
ぼくはまた闇に目を凝らした。
エレベータの照明が消えたいま、さっきより夜目が効くはず……。
……みみみ、見えちゃった。
エレベータの出口の両脇に、何人もの人影が並んでいる。
その行列は、まるで客人を迎えるように暗闇の奥へと続いていた。
「遠慮するな、こっちへ来い」
……っ!!
ぼくの心臓は縮み上がった。
とつぜん聞こえたその声は、暗闇の奥から聞こえてきたんだ。
威圧感漂う、しかし落ち着きのある低い声。
「……どうするの?」
ぼくはふたりを見上げた。
観念したような表情で、美玲ちゃんがこたえる。
「行くしかなさそうね……」
ジョーも渋い表情でうなづいたので、仕方なくのぼくもエレベータを降りる。
両脇に並んでいた人影が、静かに背後に回り込んだ。
ゆっくりと追い込まれるように、ぼくらは闇の奥へと進んでいく。
「……おい、なんかよぅ、呻き声が聞こえねぇか?」
ジョーが辺りを見回している。
ぼくにもさっきから、苦しそうな声が聞こえているんだ。
それは暗闇の奥に進むほど、大きくはっきりと聞こえてくる。
「久々の客人だ、みな丁重に扱え」
頭上から低い声が聞こえた。
一歩踏みだして声の方を見上げたとき、ぼくの足が何かを踏んづけた。
闇に目を凝らして足元を見る。
それはやせ細った人間の、手の指先だった。
たまらずぼくは、ランタンのスイッチを点けた。
ランタンの灯りに照らし出されたのは、数え切れないほどの苦悶の表情。
ぼくのすぐ目と鼻の先で、四つん這いの人間たちが大量に積み重なって、小高い山を作っていたのだ。
抜け出すことも逃げ出すこともできずに、ただひたすら悲痛な呻き声だけを上げている。
「気にするな、そいつらは弱者の屑共。わしの奴隷だ」
小高い山のてっぺんから太く濁った声が聞こえてきた。
見上げると、奴隷たちに支えられた巨大な玉座に人影が見える。
頬杖をついて、ぼくらを見下ろしていた。
「お前らもじき、この奴隷の塔の一部になる。……確実にな」
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