6桁の数字と幻影ビルの金塊 〜化け猫ミッケと黒い天使2〜

ひろみ透夏

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6桁の数字と幻影ビルの金塊

030 勝負師のプライド

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 勝ちに重要な芯は3番目と6番目。
 そのうち3番目の芯を、王に取られた。

 しかし、まだ負けは確定じゃない。

 次、ジョーが1つ取る。
 これはもう絶対!

 そのあと、王が2つ取ったらぼくたちの確実な負け。
 最も重要な6番目の芯を、王に取られるからだ。

 ジョー:○  ○  ●
 王  : ○◎ ○◎
         ↑↑

 でも、王が1つしか取らなかったら、6番目をジョーが獲得。
 ぼくたちが勝てる!

 ジョー:○  ○ ◎
 王  : ○◎ ○ ●
         ↑

 いまはその可能性に賭けるしかなかった。


「すっかり負けが決まったような顔つきだな、若造」

 顔の筋肉が喪失したのかと思うほど、ジョーの顔は垂れ下がっていた。

「負け癖のついた奴はすぐわかる。胆力がまるでない。事あるごとに感情が揺さぶられているお前に、勝ち目などないのだ」

「ば、馬鹿野郎が! 2つ取ったくれえで、良い気になるんじゃあねぇぜ!」

 ジョーが憤慨した様子で、玉座に向かって怒鳴った。
 すると玉座から、低い声が返ってきた。

「ではお前も、2つ取れ」

 威圧感のこもった、しかし落ち着きのある低い声で続けた。

「この勝負、わざわざリスクを背負って『2』を申告するメリットはない。あるとすれば、それは己の度胸を示すのみ。まるで胆力のない、負け犬根性が沁み込んだお前には到底無理な話だ……。奴隷ども、笑ってやれ!」

 ぼくたちを取り囲む奴隷たちが、わあわあと笑い出した。
 
 乗せられちゃダメだ。
 ジョーだってわかってるよね?
 2つ取ったらぼくたちの確実な敗北……!

 そのとき。

 ジョーが、とつぜん自分の顎を拳で殴った。
 何度も何度も、突き出た顎を殴る。

 その行動に、まわりの奴隷たちがどよめいた。
 美玲ちゃんも顔を覆っていた両手をどけて、ジョーの姿を見つめている。

 ぼくも思わず、目に涙が滲んでしまった。
 ジョーは頑張って、自分の怒りを抑えようとしているんだ。

「……いいぜ、おれも『2』を申告する」


 …………!!
 はぁっ?!


「ジョーっ!!」
 
 美玲ちゃんが立ち上がって叫んだ。
 当然だ、ぼくも耳を疑った。

 あり得ない、自ら勝ちを捨てにいくなんて!

「いま賭けるか、次に賭けるかの違いしかねぇ……。ならおれは自分の誇りに賭けて、いま勝負する! たったいま、勝負をするんだぜ!!」

 暗闇が静まり返っている。
 さっきまで嘲笑あざわらっていた奴隷たちを、ジョーは一瞬で黙らせたんだ。

「そんなんだから……。命を賭けるほどのプライドなんて……」

 哀れむような視線で見つめる美玲ちゃん。

 これで勝ちに最重要な6番目の芯を取る権利を失った。
 自ら放棄したのだ。

 奴隷がロケット鉛筆の後ろから3番目の芯を押し入れる。
 先端から飛び出た4番目の芯を見て、暗闇がどよめいた。

 さらに4番目の芯を鉛筆の後ろから押し入れる。
 飛び出した5番目の芯を見て、今度は暗闇が静寂に包まれた。

「どうでぇ見たか?! おれも命を張って芯を2本取ったんだぜ! これでもおれを負け犬と呼べんのかい?!」

 ジョーが指をさしながら、玉座に向かって吠えた。
 顎のおっさんのプライドは保たれたんだ。

 だけど……。

 ぼくは自分の小さな手で計算した。
 王が次に6番目の芯を取った時点で、ジョーの負けは確定する。

 ジョー:○  ○○ ●
 王  : ○◎  ◎
          ↑

「違う……。確率は同じだ……」

 そのとき、美玲ちゃんが一点を見つめながら呟いた。

「わたしたちは6番目の芯にこだわりすぎた……」

「どうゆうこと?」

 ぼくは思考を巡らせているであろう美玲ちゃんに訊ねた。
 その目には、ふたたび光が宿っている。


「ジョーはあえて、勝ちに最重要な6番目の芯を捨てた。むしろ6番目と一緒にくれてやるのよ。……悪魔の芯、ルシファーズ・セブンをね!」
 
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