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第六章 マーベリックの飼い方
第五話 愛を確かめる
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ジョシュアは腰を引いたオリバーを逃がさない。耳元で「セックスするか? 抱きたいだろ?」と更に追い打ちをかける。
挑発的な口調とは裏腹にジョシュアの瞳は微かに揺れている。オリバーからの愛を確かめようと、不安を纏った瞳。そのせいでオリバーは次の行動に慎重になる。
(避ければ傷つける……しかし、一線を越えてしまえば後戻りは出来ない……)
オリバーは生唾を飲んだ。それを更なる興奮の合図だと勘違いしたジョシュアはまわしていた腕を片方、自身のベルトにかけ、わざと音を鳴らして外した。
そこから露わになったモノをオリバーは視界の隅に入れてしまう。
「……ッ」
──反り勃ったジョシュアの雄
「ジョシュアこそおかしなことになっているぞ。好きでもない男の前で──」
(気づいてくれ……どうしてお前の身体が反応しているのか……)
しかし全て言い終わらぬうちにジョシュアはオリバーの愛ゆえの純粋な勃起を否定した。
「別に愛なんてなくてもセックスはできる。俺はそうやって女を抱いてきた。それに今そこは問題じゃないだろ? 俺が知りたいのはオリバーが俺を愛しているかだ」
灰色の瞳がオリバーを覗き込み、キツイ口調を放った唇は真一文字に結ばれる。本人は自身の表情に気づいていない。しかし胸の中は荒れ狂い、オリバーの行動に神経を尖らせていた。
しばらく考えていたオリバーは一度唸り、掠れた声を発した。
「抱けない」
受け入れられないジョシュアに今度ははっきりと
「抱くことはできない」
と、告げた。
「……愛していないんだな」
「ジョシュア、よく聞いて欲しい。愛しているから抱けないのだ」
ジョシュアは眉間のシワを深くする。
「きちんとお互い愛し合った状態で身体を重ねたい。中途半端な状態では抱けない。分かって欲しい、お願いだ」
「中途半端? リリアンと同棲しているオリバーがそれを言うのか?」
論点がすり変わる。ジョシュアの精神が安定していない時の癖だ。オリバーはどうにか落ち着かせようと、ゆっくりと話しかけた。
「確かに、私と彼女はひとつ屋根の下にいる。だが、身体の関係になった事は、1度もない」
「あんな美女といてか?」
「世間一般ではそうみえるのかもしれない。しかし私は違う」
「身体つきだってよさそうだっただろ?」
リリアンを褒めるジョシュアに、さすがのオリバーもムッとした。
「嫉妬するなよ。別に俺はリリアンに手なんてださない。お前がずっと同棲しているのに何も無いのがおかしいって言ってるんだ。本当はヤッてんじゃないのか?」
前なら好奇心で聞いてきたジョシュアも、今は違う。無意識に嫉妬の色を浮かべていた。
(人の嫉妬には気づくのに、どうして自分の嫉妬には気づかない……そして、その原因にも……)
「黙るなよ。やっぱりヤったのか?」
「していない。論点がズレすぎだ。とりあえず私はお前を愛するが故に今の状態では抱けない。お願いだから分かってくれないか?」
「だったら……どうすればお前が愛しているって分かるんだ」
必死に形にしようとするジョシュア。オリバーも見えないものを見えるようにする術を知らない。
その代わり、ジョシュアをめいっぱい抱きしめた。そして真っ直ぐ見つめ「愛している」と力強く告げた。
「……ッ」
オリバーの慈愛に充ちた眼差しに相変わらず恐怖を覚えたジョシュアは視線を逸らした。
「愛なんて嘘だな。愛はきっと温かくて柔らかい。怖いものでは無いはずだ」
愛を知らぬ男の、愛への理想が零れ落ちる。
(違うんだジョシュア。その恐怖はお前が愛を知らないから起こるもの。知らない感情に心をかき乱されているだけだ)
オリバーは祈るように抱きしめた。しかしジョシュアには伝わらない。
──30年以上、愛を知らない男は想像以上の手強さだった。
目の見えない人間に、カラフルな世界を教えるくらい難しいことだった。
(赤を知らぬ人間に赤を説明するのが不可能に近いのと同じだ……)
例えとして「赤は血の色だ」と言ったとしても、そもそも血を見たこともない。完璧にお手上げ状態だった。
しかし、一つだけ道は残されていた。色を知らぬ人間は色の予想をすることも困難だが──
──ジョシュアには「愛」への理想がある
その理想に適っていれば、少しは「愛がどのようなものか」に近づけるかもしれない。それが例えオリバーの望まぬ「付き合う前の肉体関係」だったとしてもだ。
(私はジョシュアには甘すぎる……そしてどうにかしたいと必死になりすぎている……)
「分かった」
「ん?」
オリバーは自身のネクタイに手をかけた。
「抱いてやる」
ようやくジョシュアの表情が穏やかになった。オリバーは苦しそうに目を閉じながら、ジョシュアにキスを落とした。
挑発的な口調とは裏腹にジョシュアの瞳は微かに揺れている。オリバーからの愛を確かめようと、不安を纏った瞳。そのせいでオリバーは次の行動に慎重になる。
(避ければ傷つける……しかし、一線を越えてしまえば後戻りは出来ない……)
オリバーは生唾を飲んだ。それを更なる興奮の合図だと勘違いしたジョシュアはまわしていた腕を片方、自身のベルトにかけ、わざと音を鳴らして外した。
そこから露わになったモノをオリバーは視界の隅に入れてしまう。
「……ッ」
──反り勃ったジョシュアの雄
「ジョシュアこそおかしなことになっているぞ。好きでもない男の前で──」
(気づいてくれ……どうしてお前の身体が反応しているのか……)
しかし全て言い終わらぬうちにジョシュアはオリバーの愛ゆえの純粋な勃起を否定した。
「別に愛なんてなくてもセックスはできる。俺はそうやって女を抱いてきた。それに今そこは問題じゃないだろ? 俺が知りたいのはオリバーが俺を愛しているかだ」
灰色の瞳がオリバーを覗き込み、キツイ口調を放った唇は真一文字に結ばれる。本人は自身の表情に気づいていない。しかし胸の中は荒れ狂い、オリバーの行動に神経を尖らせていた。
しばらく考えていたオリバーは一度唸り、掠れた声を発した。
「抱けない」
受け入れられないジョシュアに今度ははっきりと
「抱くことはできない」
と、告げた。
「……愛していないんだな」
「ジョシュア、よく聞いて欲しい。愛しているから抱けないのだ」
ジョシュアは眉間のシワを深くする。
「きちんとお互い愛し合った状態で身体を重ねたい。中途半端な状態では抱けない。分かって欲しい、お願いだ」
「中途半端? リリアンと同棲しているオリバーがそれを言うのか?」
論点がすり変わる。ジョシュアの精神が安定していない時の癖だ。オリバーはどうにか落ち着かせようと、ゆっくりと話しかけた。
「確かに、私と彼女はひとつ屋根の下にいる。だが、身体の関係になった事は、1度もない」
「あんな美女といてか?」
「世間一般ではそうみえるのかもしれない。しかし私は違う」
「身体つきだってよさそうだっただろ?」
リリアンを褒めるジョシュアに、さすがのオリバーもムッとした。
「嫉妬するなよ。別に俺はリリアンに手なんてださない。お前がずっと同棲しているのに何も無いのがおかしいって言ってるんだ。本当はヤッてんじゃないのか?」
前なら好奇心で聞いてきたジョシュアも、今は違う。無意識に嫉妬の色を浮かべていた。
(人の嫉妬には気づくのに、どうして自分の嫉妬には気づかない……そして、その原因にも……)
「黙るなよ。やっぱりヤったのか?」
「していない。論点がズレすぎだ。とりあえず私はお前を愛するが故に今の状態では抱けない。お願いだから分かってくれないか?」
「だったら……どうすればお前が愛しているって分かるんだ」
必死に形にしようとするジョシュア。オリバーも見えないものを見えるようにする術を知らない。
その代わり、ジョシュアをめいっぱい抱きしめた。そして真っ直ぐ見つめ「愛している」と力強く告げた。
「……ッ」
オリバーの慈愛に充ちた眼差しに相変わらず恐怖を覚えたジョシュアは視線を逸らした。
「愛なんて嘘だな。愛はきっと温かくて柔らかい。怖いものでは無いはずだ」
愛を知らぬ男の、愛への理想が零れ落ちる。
(違うんだジョシュア。その恐怖はお前が愛を知らないから起こるもの。知らない感情に心をかき乱されているだけだ)
オリバーは祈るように抱きしめた。しかしジョシュアには伝わらない。
──30年以上、愛を知らない男は想像以上の手強さだった。
目の見えない人間に、カラフルな世界を教えるくらい難しいことだった。
(赤を知らぬ人間に赤を説明するのが不可能に近いのと同じだ……)
例えとして「赤は血の色だ」と言ったとしても、そもそも血を見たこともない。完璧にお手上げ状態だった。
しかし、一つだけ道は残されていた。色を知らぬ人間は色の予想をすることも困難だが──
──ジョシュアには「愛」への理想がある
その理想に適っていれば、少しは「愛がどのようなものか」に近づけるかもしれない。それが例えオリバーの望まぬ「付き合う前の肉体関係」だったとしてもだ。
(私はジョシュアには甘すぎる……そしてどうにかしたいと必死になりすぎている……)
「分かった」
「ん?」
オリバーは自身のネクタイに手をかけた。
「抱いてやる」
ようやくジョシュアの表情が穏やかになった。オリバーは苦しそうに目を閉じながら、ジョシュアにキスを落とした。
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