22 / 233
08.ジークと薬
(2)
しおりを挟む* * *
「冗談じゃねぇ……」
リュシーは汗に張り付く前髪を掻き上げながら、閉めきった扉を背に頭上を仰ぐ。
何かを堪えるように歯噛みして、目を細め、その傍ら、ドア越しに室内の様子を探る。
少しは落ち着いてきただろうか。
先ほどまでに比べれば格段に減った物音に、リュシーは大きく息をつく。
「あのご主人……適当なことばっか言いやがってっ……」
吐き捨てるように呟くと、応えるようにガタン! と響いた音にびくりと肩が揺れた。
そんな自分の反応に舌打ちしながら、再度背後に意識を向ける。
けれども、それきり気になるような音も声も聞こえては来なかった。
リュシーはそのままずるずると足下にへたりこんだ。不自然に乱れた襟元を掻き寄せながら、忌々しげにため息を重ねる。
(なんで俺がこんな目に……)
主人はまだ帰らない。
夕方まではもつだろうと聞いていたが、実際には昼すぎまでも、もたなかった。
* * *
数時間前――まだリビングで話し込んでいた時のことだ。
目を覚ましてから昼頃までのジークは、確かにすっかり落ち着いて見えた。
明るく真面目で一生懸命。素直で優しく、かつしっかりとした面もある――見るからに人好きのするその性格は、アンリとはまるで正反対にリュシーには映った。
纏う空気にも一切の険がなく、久しく触れた覚えがないほどのその清白ぶりは、感心を通り越して呆れてしまいそうなほどで、
(……気を抜きすぎた)
それが何よりの失態だった。
カチャンと音を立てて、カップが倒れたのに気付いたときには、ジークの息はすでに上がっていた。ふわりと漂ってきた匂いに気付いたのもその時だ。
そこから一気に濃くなった甘い香りに、リュシーは束の間、気圧されたように動けなくなった。
辛うじて上げた視線の先で、ジークは苦しいように自分の身体を掻き抱いていて――。
かと思うと、次の瞬間、糸が切れたかのように意識を失った。
ジークはそのまま床へと崩れ落ちた。どさり、と響いたその音に、ようやくリュシーの時間が動き出す。
慌てて傍へ駆け寄ると、ジークはなまめかしい吐息を漏らしながら、微かにまぶたを震わせていた。
リュシーの頭の中に、昨夜の様相が蘇る。この家に来る前――リュシーがジークを拾いに行ったときと、似ている気がした。
13
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる