非日常的日常は平穏とは言えない~間違って覚醒したのが淫魔の血ってどういうことですか?~

市瀬雪

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13.ひと月後

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「……合ってます」
「え?」
「その花です」

 ジークが見つけたそれは、〝霧霞きりかすみの花〟――たった今、リュシーが「見つけにくい」と言ったそれに違いなかった。

「……じゃあ、これを」

 リュシーは内心驚きながらも、バスケットから取り出した小瓶ーー手のひらサイズのーーを差し出した。

「花を傷つけないように、ゆっくり傾けて採取してください」

 花の大きさは1センチほど。花が咲いていない状態は他の雑草に紛れて見分けがつかない。おまけに、地面から引き抜けば早々に枯れてしまうので、鉢植えにすることや栽培することもできない貴重なものなのだ。

「やってみます」

 ジークは言われた通り、慎重に指先で花に触れた。
 蓋を開けた瓶の口へと傾ければ、水のようにさらりとした雫が一滴、伝い落ちてきた。花の大きさの割りに、蜜の量は多いらしい。
 とは言え、一つの花につき、そのひと雫のみである。

「それを繰り返して、その瓶をできるだけ一杯にしてください」
「えっ……」
「最低でも、半分ほどは」
「半分……」

 言われて、ジークは改めて周囲を見渡してみたが、そこにあったのはその花一輪だけだった。

「運が良ければ、群生しているのに出会えますから」

 リュシーがにこりと笑みを浮かべる。
 ジークは持っていた瓶を軽くかざした。どう見ても内側にうっすらと濡れた線ができただけだった。「考えるな」、と思考をリセットするように、首元でチリンと鈴の音がした。


 *  *  *

 もし――万が一はぐれたと思った場合は、動かずじっとしていて下さい。
 今日は日が落ちるまで霧は晴れないので、絶対にそれを守って下さい。

 そうしていれば、必ず俺が見つけ出しますので。

「……すみません、リュシーさん」

 ジークはリュシーに言われたことを思い返しながら、近くにあった大木の根元で足を抱えていた。
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