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77.キロヒ、精霊具の真理を感じる
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「キロヒちゃん、どんな風にして精霊に指示を出したのぉ?」
サケラエが、キロヒの方を向いて両の長い指を組んで、にっこりと笑う。
「あ、サケラエずるい。一年ちゃん、わたしも聞きたい」と、便乗するキユケ。
初めての精霊具作りに苦戦している三年は、近場で唯一の成功者にコツを聞いてくる。いいのかなと、ちらりとニヂロを見るが、彼女はツララにブツブツと呟き続けている。集中しているようだ。
「ええと、たとえばこの指輪の精霊具なんですが、二回触るといまの時間が分かりますよね?」
キロヒは身体ごと三年生の方を向いて、小声で説明を始めた。
「あぁ、そうだねぇ」
「この中に無級精霊が入っていると考えて、使う時にクルリが協力をさせているのかいないのかを聞いてみたんです。そうしたら……頼んでいないのに協力させてるみたいなんです」
「えっ、どういうこと?」
「多分、内容は分かっていないんでしょうけど、『協力しろ』という気持ちだけは伝えているみたいなんです。だから中の無級精霊は、その時点で私に協力する気はあるようです」
「でも、触っても光ってくれないのよねぇ。精霊に頼んで光らせたり消したりはできるんだけどぉ」
サケラエが険しい表情を浮かべる。そうすると彼女の彫りがもっと深く感じられて、目元の辺りにかなり暗い陰が落ちる。
「はい、なのであとは……あの……白雲を出す時と一緒かなと」
「え? それってもう自分の精霊に頼まないってこと?」
「光っているのを思い浮かべるだけぇ?」
二人は驚きながら、おそるおそる透明の球に指で触れる。ぽわりと光が浮かぶ。
「「……」」
あまりのあっけなさに、三年生二人が言葉を失う。失ったまま、彼女たちはもう一度球に触れて、その光を消した。
「白雲と一緒だわぁ」
「嘘、簡単すぎ、おかしいよこれ」
二人とも自分が見たものを信じられない顔で、ひそひそと囁き合う。
「最初の精霊具だから、簡単なんだと思います。協力を最初にさせて、その後は触れて思い浮かべれば、球を通じて中に伝わるということを、私たちが理解するためのものかなと思います」
最初に教師がこう言ったではないか。
『精霊具とは、精霊士の願いと無級精霊のできることが合致した時に、初めて作成することができます』、と。
精霊具の、本当に第一歩に過ぎない。
精霊具は、精霊士以外の普通の人が使えるものもある。思い浮かべなくても動くものもある。
食堂の配膳器などがそれだ。中はおそらく指輪の「枕」と同じように、霊密を上げて中にたくさんのものが入るようにしてあるのだろう。何も考えていなくても、箱の横に触れれば食事が上に出てくる。
精霊を持っていない人が無級精霊を使うための方法。そして、「こうしてほしい」という意思を無級精霊に伝えるための方法。精霊具の外側の形や素材、加工方法。
あとはそれらにかかる製作費用と効果のつり合い──そこまで考えて、キロヒは考えるのをやめた。最後の部分は、完全に商売人の考え方だったからだ。少なくとも授業で習う間は、必要のないことのようだった。
「くっそ簡単じゃねぇか……ふざけんなよ」
キロヒの反対隣で、ニヂロのうめき声があがる。どうやら成功したようだ。
「精霊具の授業、どうだった?」
夕食の時間、クロヤハがそわそわしながらキロヒに問いかけてきた。
「えっと……」
それに答えようとしたのだが、そこでいきなり立ち上がった人間がいた。ニヂロである。
もうおかわりかと思ったが、食事は途中だ。テーブルをぐるっと回って、ニヂロはキロヒの隣に座っているクロヤハのところへと近づいてくるではないか。指輪からあるものを取り出して、机に置いた。
「触って光るようにしてみろ」
今日の授業で使った透明の球だ。それだけ言うと、ニヂロは席に戻って素早く食事の続きを始める。
「触って……光る?」
「中に光に関係する無級精霊が入っているんです」
さすがに情報が少なすぎるのでキロヒが補足すると、ニヂロがギンッと睨んできたのでそこまでで口をつぐんだ。
「無級精霊……ということは協力させるのかな。メガネ、出ておいで」
「アァ?」
中級の大きさの黒い鳥が、とぼけた声とともに服の中から出てくる。
「メガネ、中の精霊を協力させてくれる?」
「アアァ」
「あとは……触ってつくように、か……メガネ、僕が触ると光るように頼んでくれる?」
「アァ?」
「ぼ、く、が、さ、わ、る、と、ひ、か、る、よ、う、に」
「ぶっふ」
クロヤハがメガネのとぼけた答えに、理解できていないのかと強調して繰り返したため、向かいのカーニゼクが笑いをこらえきれなくなっている。ニヂロも、肩が震えている。
クロヤハが苦労する姿を、ニヂロは見たかったのだろう。自分が時間がかかったから、誰かも同じ目に遭わせようとしたのだ。困ったスミウである。
後でみんながこの触ると光らせ挑戦をしたところ、最初に成功したのは、意外にもこの人物だった。
「できたとよー」
難しく考えすぎない──それも大事な成功の秘訣なのかもしれない。
サケラエが、キロヒの方を向いて両の長い指を組んで、にっこりと笑う。
「あ、サケラエずるい。一年ちゃん、わたしも聞きたい」と、便乗するキユケ。
初めての精霊具作りに苦戦している三年は、近場で唯一の成功者にコツを聞いてくる。いいのかなと、ちらりとニヂロを見るが、彼女はツララにブツブツと呟き続けている。集中しているようだ。
「ええと、たとえばこの指輪の精霊具なんですが、二回触るといまの時間が分かりますよね?」
キロヒは身体ごと三年生の方を向いて、小声で説明を始めた。
「あぁ、そうだねぇ」
「この中に無級精霊が入っていると考えて、使う時にクルリが協力をさせているのかいないのかを聞いてみたんです。そうしたら……頼んでいないのに協力させてるみたいなんです」
「えっ、どういうこと?」
「多分、内容は分かっていないんでしょうけど、『協力しろ』という気持ちだけは伝えているみたいなんです。だから中の無級精霊は、その時点で私に協力する気はあるようです」
「でも、触っても光ってくれないのよねぇ。精霊に頼んで光らせたり消したりはできるんだけどぉ」
サケラエが険しい表情を浮かべる。そうすると彼女の彫りがもっと深く感じられて、目元の辺りにかなり暗い陰が落ちる。
「はい、なのであとは……あの……白雲を出す時と一緒かなと」
「え? それってもう自分の精霊に頼まないってこと?」
「光っているのを思い浮かべるだけぇ?」
二人は驚きながら、おそるおそる透明の球に指で触れる。ぽわりと光が浮かぶ。
「「……」」
あまりのあっけなさに、三年生二人が言葉を失う。失ったまま、彼女たちはもう一度球に触れて、その光を消した。
「白雲と一緒だわぁ」
「嘘、簡単すぎ、おかしいよこれ」
二人とも自分が見たものを信じられない顔で、ひそひそと囁き合う。
「最初の精霊具だから、簡単なんだと思います。協力を最初にさせて、その後は触れて思い浮かべれば、球を通じて中に伝わるということを、私たちが理解するためのものかなと思います」
最初に教師がこう言ったではないか。
『精霊具とは、精霊士の願いと無級精霊のできることが合致した時に、初めて作成することができます』、と。
精霊具の、本当に第一歩に過ぎない。
精霊具は、精霊士以外の普通の人が使えるものもある。思い浮かべなくても動くものもある。
食堂の配膳器などがそれだ。中はおそらく指輪の「枕」と同じように、霊密を上げて中にたくさんのものが入るようにしてあるのだろう。何も考えていなくても、箱の横に触れれば食事が上に出てくる。
精霊を持っていない人が無級精霊を使うための方法。そして、「こうしてほしい」という意思を無級精霊に伝えるための方法。精霊具の外側の形や素材、加工方法。
あとはそれらにかかる製作費用と効果のつり合い──そこまで考えて、キロヒは考えるのをやめた。最後の部分は、完全に商売人の考え方だったからだ。少なくとも授業で習う間は、必要のないことのようだった。
「くっそ簡単じゃねぇか……ふざけんなよ」
キロヒの反対隣で、ニヂロのうめき声があがる。どうやら成功したようだ。
「精霊具の授業、どうだった?」
夕食の時間、クロヤハがそわそわしながらキロヒに問いかけてきた。
「えっと……」
それに答えようとしたのだが、そこでいきなり立ち上がった人間がいた。ニヂロである。
もうおかわりかと思ったが、食事は途中だ。テーブルをぐるっと回って、ニヂロはキロヒの隣に座っているクロヤハのところへと近づいてくるではないか。指輪からあるものを取り出して、机に置いた。
「触って光るようにしてみろ」
今日の授業で使った透明の球だ。それだけ言うと、ニヂロは席に戻って素早く食事の続きを始める。
「触って……光る?」
「中に光に関係する無級精霊が入っているんです」
さすがに情報が少なすぎるのでキロヒが補足すると、ニヂロがギンッと睨んできたのでそこまでで口をつぐんだ。
「無級精霊……ということは協力させるのかな。メガネ、出ておいで」
「アァ?」
中級の大きさの黒い鳥が、とぼけた声とともに服の中から出てくる。
「メガネ、中の精霊を協力させてくれる?」
「アアァ」
「あとは……触ってつくように、か……メガネ、僕が触ると光るように頼んでくれる?」
「アァ?」
「ぼ、く、が、さ、わ、る、と、ひ、か、る、よ、う、に」
「ぶっふ」
クロヤハがメガネのとぼけた答えに、理解できていないのかと強調して繰り返したため、向かいのカーニゼクが笑いをこらえきれなくなっている。ニヂロも、肩が震えている。
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