精霊士養成学園の四義姉妹

霧島まるは

文字の大きさ
77 / 142

77.キロヒ、精霊具の真理を感じる

しおりを挟む
「キロヒちゃん、どんな風にして精霊に指示を出したのぉ?」
 サケラエ彫刻が、キロヒの方を向いて両の長い指を組んで、にっこりと笑う。
「あ、サケラエずるい。一年ちゃん、わたしも聞きたい」と、便乗するキユケ赤毛
 初めての精霊具作りに苦戦している三年は、近場で唯一の成功者にコツを聞いてくる。いいのかなと、ちらりとニヂロを見るが、彼女はツララにブツブツと呟き続けている。集中しているようだ。
「ええと、たとえばこの指輪の精霊具なんですが、二回触るといまの時間が分かりますよね?」
 キロヒは身体ごと三年生の方を向いて、小声で説明を始めた。
「あぁ、そうだねぇ」
「この中に無級精霊が入っていると考えて、使う時にクルリが協力をさせているのかいないのかを聞いてみたんです。そうしたら……頼んでいないのに協力させてるみたいなんです」
「えっ、どういうこと?」
「多分、内容は分かっていないんでしょうけど、『協力しろ』という気持ちだけは伝えているみたいなんです。だから中の無級精霊は、その時点で私に協力する気はあるようです」
「でも、触っても光ってくれないのよねぇ。精霊に頼んで光らせたり消したりはできるんだけどぉ」
 サケラエが険しい表情を浮かべる。そうすると彼女の彫りがもっと深く感じられて、目元の辺りにかなり暗い陰が落ちる。
「はい、なのであとは……あの……白雲を出す時と一緒かなと」
「え? それってもう自分の精霊に頼まないってこと?」
「光っているのを思い浮かべるだけぇ?」
 二人は驚きながら、おそるおそる透明の球に指で触れる。ぽわりと光が浮かぶ。
「「……」」
 あまりのあっけなさに、三年生二人が言葉を失う。失ったまま、彼女たちはもう一度球に触れて、その光を消した。
「白雲と一緒だわぁ」
「嘘、簡単すぎ、おかしいよこれ」
 二人とも自分が見たものを信じられない顔で、ひそひそと囁き合う。
「最初の精霊具だから、簡単なんだと思います。協力を最初にさせて、その後は触れて思い浮かべれば、球を通じて中に伝わるということを、私たちが理解するためのものかなと思います」
 最初に教師がこう言ったではないか。
『精霊具とは、精霊士の願い・・・・・・無級精霊のできること・・・・・・・・・・が合致した時に、初めて作成することができます』、と。
 精霊具の、本当に第一歩に過ぎない。
 精霊具は、精霊士以外の普通の人が使えるものもある。思い浮かべなくても動くものもある。
 食堂の配膳器などがそれだ。中はおそらく指輪の「枕」と同じように、霊密を上げて中にたくさんのものが入るようにしてあるのだろう。何も考えていなくても、箱の横に触れれば食事が上に出てくる。
 精霊を持っていない人が無級精霊を使うための方法。そして、「こうしてほしい」という意思を無級精霊に伝えるための方法。精霊具の外側の形や素材、加工方法。
 あとはそれらにかかる製作費用と効果のつり合い──そこまで考えて、キロヒは考えるのをやめた。最後の部分は、完全に商売人の考え方だったからだ。少なくとも授業で習う間は、必要のないことのようだった。
「くっそ簡単じゃねぇか……ふざけんなよ」
 キロヒの反対隣で、ニヂロのうめき声があがる。どうやら成功したようだ。

「精霊具の授業、どうだった?」
 夕食の時間、クロヤハ眼鏡がそわそわしながらキロヒに問いかけてきた。
「えっと……」
 それに答えようとしたのだが、そこでいきなり立ち上がった人間がいた。ニヂロである。
 もうおかわりかと思ったが、食事は途中だ。テーブルをぐるっと回って、ニヂロはキロヒの隣に座っているクロヤハのところへと近づいてくるではないか。指輪からあるものを取り出して、机に置いた。
「触って光るようにしてみろ」
 今日の授業で使った透明の球だ。それだけ言うと、ニヂロは席に戻って素早く食事の続きを始める。
「触って……光る?」
「中に光に関係する無級精霊が入っているんです」
 さすがに情報が少なすぎるのでキロヒが補足すると、ニヂロがギンッと睨んできたのでそこまでで口をつぐんだ。
「無級精霊……ということは協力させるのかな。メガネ、出ておいで」
「アァ?」
 中級の大きさの黒い鳥が、とぼけた声とともに服の中から出てくる。
「メガネ、中の精霊を協力させてくれる?」
「アアァ」
「あとは……触ってつくように、か……メガネ、僕が触ると光るように頼んでくれる?」
「アァ?」
「ぼ、く、が、さ、わ、る、と、ひ、か、る、よ、う、に」
「ぶっふ」
 クロヤハがメガネのとぼけた答えに、理解できていないのかと強調して繰り返したため、向かいのカーニゼク女好きが笑いをこらえきれなくなっている。ニヂロも、肩が震えている。
 クロヤハが苦労する姿を、ニヂロは見たかったのだろう。自分が時間がかかったから、誰かも同じ目に遭わせようとしたのだ。困ったスミウである。
 後でみんながこの触ると光らせ挑戦をしたところ、最初に成功したのは、意外にもこの人物だった。
「できたとよー」
 難しく考えすぎない──それも大事な成功の秘訣なのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。 しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。 郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。  そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。 そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。 アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。 そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

オタクな母娘が異世界転生しちゃいました

yanako
ファンタジー
中学生のオタクな娘とアラフィフオタク母が異世界転生しちゃいました。 二人合わせて読んだ異世界転生小説は一体何冊なのか!転生しちゃった世界は一体どの話なのか! ごく普通の一般日本人が転生したら、どうなる?どうする?

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

蔑ろにされましたが実は聖女でした ー できない、やめておけ、あなたには無理という言葉は全て覆させていただきます! ー

みーしゃ
ファンタジー
生まれつきMPが1しかないカテリーナは、義母や義妹たちからイジメられ、ないがしろにされた生活を送っていた。しかし、本をきっかけに女神への信仰と勉強を始め、イケメンで優秀な兄の力も借りて、宮廷大学への入学を目指す。 魔法が使えなくても、何かできる事はあるはず。 人生を変え、自分にできることを探すため、カテリーナの挑戦が始まる。 そして、カテリーナの行動により、周囲の認識は彼女を聖女へと変えていくのだった。 物語は、後期ビザンツ帝国時代に似た、魔物や魔法が存在する異世界です。だんだんと逆ハーレムな展開になっていきます。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...