精霊士養成学園の四義姉妹

霧島まるは

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138.キロヒ、飛び降りる

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「それではお先に失礼致します。大変有意義な時間を、本当にありがたく存じます」
 島にきて十日目。ユミがついに島での生活を終えて、霊山ヘズへと帰る日となった。
 当たり前のような顔をして島に現れたキーに、帰る準備はすでに終えていたユミが近づいていく。
 ユミが「離」を行った回数は四回。本来は二日目、五日目、八日目の三回になるはずだった。しかし彼は八日目の「離」の時に気絶せずに耐えきったのである。これにより、謎精霊が楽しそうに翌日にもう一回追加した。そこでは気絶してしまったので、合計四回で終わりとなった。
 残念ながらというか、当然というか、アワレは上霊することはできなかった。しかし、彼には離れていても謎精霊がついている。毎回、彼の意識を喜んで吹っ飛ばしながら育ててくれることだろう。ここからは、アワレが生まれた霊山ヘズでの訓練だ。下手をしたら最速の上霊が実現するかもしれない。
 キロヒは、ユミが最終的にどこを目指すのかは知らない。しかし、何とかなるだろうというのがキロヒの見立てだった。自身にさえ不利に働く完璧主義が、ひどい悪さをしなければ、の話だったが。
 一方、島の住人であるビチャウあんちゃんは、幻級精霊士キーの登場に目を丸くしていた。上級精霊からすると、二段階上の存在。いわゆる、絶対に逆らえない相手である。これまでキロヒたちは島のあちこちに移動したが、幻級精霊を連れている人は見たことがなかった。
「守り神様かと思ったとよ」
 キーとユミが去った後、その時の驚きをビチャウはそう表現した。
「守り神様とは何ですの?」
 先に島にいたイミルルセも、それは聞いたことがないようだ。
「守り神様は、大昔に島を守った神様とよ」
 聞けば、過去この島は強く長い大嵐に見舞われ、島が沈むのではないかと思われる災害に見舞われたことがあるという。強い魔物ミヤハがそうしていたと、島の住人には思われていた。
 そこへ島で一番強い精霊を持つ娘が、その身を自身の精霊に捧げて魔物を倒し島を救った。それが伝説となり、島民たちは彼女とその精霊を守り神様と呼び、語り継いでいる。
「守り神様はいまもおるとよ」
「見た」
 シテカが参入してきた時は、キロヒもイミルルセも驚いた。一体どこで見たのかと問えば、海の上だと答えが帰って来る。
 この島の沖に、大きな石の柱が斜めに突き立っている、と。ビチャウの説明では、それは柱ではなくもりということだった。海底に突き刺さっており、その柄が海上まで突き出ている、と。その周辺は魔物も出現せず、いい漁場になっているらしい。
 ビチャウの朝の漁には、いつもシテカが同行している。キロヒたちは、毎朝同行に手を挙げ続けるシテカに譲り続けていた。
 少なくともキロヒは、ビチャウと二人きりになって楽しく会話できる自信がなかったので、どうしても行きたい気持ちにならなかった。
 しかし彼から聞いた話を知識で練り合わせると、どう考えても学園と同じ匂いがする。人間と幻級精霊との心中だ。
「見てみたいですわね」
 イミルルセが言った。
「ルル、行きたかとよ?」
「できればキロヒと一緒に行きたいのですけれど……船に二人は乗れませんものね」
 イミルルセの呟きに、キロヒも頷いた。それさえできるなら、彼女も見に行きたい。
 すると、サーポクが不思議そうに首を傾げた。
「行けるとよ?」
「船は無理ですわよね?」
 イミルルセも首を傾げながらサーポクを見つめると、島の娘は弾けるように笑ってこう言ったのだ。
「一緒にザブンに乗るとよ!」
 掲げられた亀型の精霊。一人は船に、一人はサーポクと一緒にザブンに。
 こうして明日の朝は、四人で海に出ることになった。シテカはこれまでずっと海に同行していたこともあってか譲ってくれた。

「まあ……」
「すごいですね」
 キロヒは船に。イミルルセはサーポクとザブンに乗って、ついに目的の場所に到着する。浜が見えないほど沖に来て、キロヒは心配していたが、ビチャウは慣れたものである。
 本当に海に斜めに巨大な銛が突き立っていた。
「これは……精霊だったものですわね。普通の自然物でしたら、長い時間波で削られて形を維持できませんもの」
「子供の頃から、この形とよー」
「海の下が気になりますわね」
「潜るとよ?」
「え?」
 ザブンの上で交わされていた言葉が、突然方向を変える。
 とぷん、と二人と一霊の姿が海の中へと消える。
「……!?」
 キロヒが声にならないくらい驚いて海面を見下ろしていると、ビチャウの愉快な笑い声が聞こえてくる。
「大丈夫とよ。サーポクは海の子とよ」
 それは知っているが、イミルルセの息が続くかどうかが心配だった。しかし、サーポクがイミルルセを溺れさせるようなことをするはずがないとも考え、信じることにして心を落ち着けた。
 この輝く美しい海の中を、いまごろイミルルセは新鮮な体験として味わっていることだろう。羨ましいような羨ましくないような微妙な気持ちで、キロヒは視線を海上の銛に向けた。
"ふふ……なるほど、ね"
 そしてこちらでは、謎精霊が楽し気に声を洩らす。一体何を理解したというのか。
「お……精霊の風が聞こえるとよ」
 上機嫌のビチャウが目を閉じて耳を澄ます。彼はどうやら、謎精霊の声を風として感じられる人のようで、こんな反応は今日が初めてではなかった。ビチャウはそれをどう解釈したのか、船を海から飛び出した銛へと近づける。ゆらゆらと揺れる船。手を伸ばせば、ぎりぎり銛に触れられそうなくらい。
 彼女は間近に見えるそれに目を奪われていた。
"キロヒ、行くわよ"
 そのため、突然クルリが顕れて動き出したことにすぐには気づけなかった。謎精霊の言葉の意味を解釈しようとしていたのだ。
 そしてクルリに手を取られて、いきなり引っ張られた。
「え……ええーっ!?」
 気づいたら彼女は──絶叫しながら船から飛び降りていた。
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