悪役令息(冤罪)が婿に来た

花車莉咲

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12.私の噂について

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兄弟の握手が終わり座り直す。
「それで…イヴァ嬢貴女にとって不快な事を聞いてしまうのだが。

貴女のよくない噂を知っているだろうか?」
オーウェン様がとても言い辛そうにそう聞いてきた。

「ええ…守銭奴令嬢なんて呼ばれているんでしょう?まぁ今まで仕事に明け暮れていましたから間違ってはいませんけれど」苦笑いで返すと彼は少し言葉を詰まらせてから口を開く。

「誰かが貴女のよくない噂を意図的に流しているかもしれません」
「えっ!?」「…やはりか」
驚く私とは裏腹に何か心当たりがある様子のヒューゴ様。


「ヒュ、ヒューゴ様?やはりとは?」
「少しおかしいと思っていたんだ。君の噂は前から聞いていたが不特定多数がしている噂にしては

あまりにも噂に統一性があったからな」
「噂に…統一性ですか?」
自分の事を悪く言われているのは知っているが詳しい内容は知らなかった為つい頭の中が疑問で埋め尽くされた。


「『クレマー辺境伯令嬢は守銭奴』『性根が腐った女』『婚約者がいないのはとんでもない悪女だから』君個人を指している噂はこの3つが主だな」
ヒューゴ様の言葉を続けるようにオーウェン様が口を開く。

「後はクレマー辺境伯家自体のものですね。『悪質な商売をしている』だの『裏で悪逆の限りを尽くしている』だの…ちゃんと調べれば事実無根だと分かるのに何故か誰もがその噂が事実であるかのように振る舞っているんです」
「なっ!この家の噂まで…」

私だけではなく家族の事まで悪く言われていたなんて。
何故今まで気づかなかったのか。


(…間違いなく仕事に夢中だったせいね結婚の事だけでじゃなくこんな事まで今まで放置していたなんて)


「私の事だけならばまだしも家族やこの領地を悪く言われたら黙っていられませんわ…

この間ベイリー侯爵夫人にお会いしまして。私の噂をどうにかしようとして下さったそうなんですが駄目だったと」

「ベイリー侯爵夫人!?」
「そう言えば夫人はクレマー商会の常連だったな」
驚くオーウェン様とは対照的に冷静に私達の関係に気付くヒューゴ様。


「侯爵夫人が働きかけても噂を消す事が出来なかったとは…ますます妙ですね」
「だがそれが分かった今明白になったな。誰かがイヴァとこのクレマー辺境伯家の悪い噂を流し広めている

そしてそれは恐らくベイリー侯爵夫人がどうにもできない所にいる人間だと」

ヒューゴ様の見解に異議はなかった。

しかし。

(簡単に考えるなら彼女より身分が上の人間、つまり公爵家か

…王族)

もの凄く嫌な予感がする。
恐らくこの問題は一筋縄ではいかない。
今の私にはこれ以上考えても仕方ないみたいだ。

「こんな事を貴女の前で言うのは駄目だとは思いますがここで貴女と会うまで正直噂を信じている自分がいました。

本当に申し訳ない」
オーウェン様がまた頭を下げる。
「…便乗するようで何だが改めて俺も謝罪させてくれ。あの日君に声をかけられる日まで俺も噂が本当の事だと思っていたすまない」「お、お2人共!謝罪は受け取りましたので!頭を上げてくださいまし!」
色々と逆な兄弟だがこういう所はよく似ているようだ。


「今日はこれで失礼しますイヴァ嬢…いえ義姉上の噂について何かわかればすぐ連絡いたしますから」
「まぁオーウェン様!別にそんな用がなくともいくらでもヒューゴ様と連絡を取ってもよろしいのでは?ねぇヒューゴ様?」
帰り際のオーウェン様の言葉についそうヒューゴ様に尋ねてしまう。

「…あぁ勿論だいつでも待っている」
「っ!兄上…」

オーウェン様は涙ぐみながら馬車に乗り帰っていった。


「ありがとうイヴァ

君のおかげで俺達は初めてちゃんと兄弟として話す事ができたような気がする」
「そんな事はありま…いえそのお言葉素直に受け取っておきますね」

私達は微笑み合い部屋に戻る。



(…私にこの世界の記憶が全てあれば何かもっとできたのかしら)
この世界についての記憶は曖昧そのものであやふやだ。



もし思い出す事ができれば…。
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