悪役令息(冤罪)が婿に来た

花車莉咲

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30.攫われた

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朝食を終え2人でヒューゴ様の部屋へ向かった。
その道中は無言で少し空気は重かったけど不思議と気まずいとは思わない。
全て話すと覚悟を決めたからだろうか、起きたばかりの時と比べてだいぶ心が軽くなっている気がした。

ヒューゴ様の部屋に着き彼が扉を開ける。
「お邪魔しますわ」「あぁ入ってくれ」



その瞬間だった。
ぐにゃり 「うっ!」
目の前が歪みその場に蹲る。
「イヴァ!?大丈夫…っ!?誰だ!?」

ヒューゴ様の声がどんどん聞こえなくなっていった。

(なに…頭の中でノイズが走ってるみたいこれって)


「やぁ、イヴァ・クレマーに
「えっ!?」




そこで私は意識を失った。




「う…ここは?」
目が覚めるとまるで牢獄のような場所にあるシンプルなベッドに寝かされていて慌てて起き上がる。

(意識を失う前に聞こえた声…もしかして私を連れてきたのは)

「転生者…?」




「だぁい正解」「っ!?」
突然人の声が聞こえバッと声がした方を向いた。



「ブ、ライス殿?」
「どうもクレマー辺境伯令嬢…
初めて会った時の人の良さそうな明るい笑顔とは全く違う。
冷笑と呼ぶに相応しいであろう表情。

「まさかっ貴方が転生者だったの!?」
「ええ騙してしまってすみませんねぇ、でも仕方なかったんですよ。

貴女が転生者である確信が欲しかったので」
檻越しに彼はポットとティーカップをテーブルに置き紅茶を用意し始めた。

「折角なのでゆっくりしていってくださいな。今頃クレマー家は突然貴女がいなくなって大騒ぎでしょうし」
「っ!そうよ!私をどうやってここに!?目の前にヒューゴ様だっていたのに!まさか彼まで…」
慌てる私をニヤつきながら目の前の男は言葉を続ける。


「ご安心を、ヒューゴ・ガンダーに用はありませんでしたから彼には何もしていませんよ…ただ目の前で貴女がいなくなってしまったので精神的には無事ではないかもしれませんが」
紅茶を淹れたティーカップに更に砂糖を2つ入れ右手で飲み始めた。


(…あら?)何か違和感を感じつつ私は彼に問い掛ける。
「貴方の目的は何?貴方が神の祝福を与えられた人間だったとしても辺境伯令嬢を攫った罪が表沙汰になればただじゃ済みませんことよ」
「お嬢様言葉が戻って来ましたねぇ、俺の目的はただ1つ。



小説通り」
ある意味予想はしていた。
小説通りにしようとしている人間がいるなら恐らく違う行動をして小説から離れていく私を邪魔だと思うだろう。


「…聞いてもいいかしら貴方の言う小説の内容ではどうなってるの?私はそんなに小説と違う事をしていたの?」
「あぁ!本当に小説を知らないんですね教えてもいいですよ。でも長々と語るのもあれなのであらすじだけ」
椅子に深く座り込み私を見つめて言葉を続けた。




《祝福と共にあなたと》
ある日突然神の祝福を与えられた没落貴族の元令嬢が王宮に保護される。
国王陛下が自分の娘であるアシュリン王女とガンダー公爵家長男ヒューゴの婚約を冤罪で破棄し辺境伯令嬢に無理矢理婿入りさせた。
アシュリンからその事を聞いた王太子であるアンドレアは何故国王がそんな事をしたのか調べるべく元令嬢である女性に協力を要請し彼女はそれを許諾する。
それを皮切りに次々と起こるトラブルに真正面から立ち向かっていく。


「というのが、あらすじです」
「待って!!主人公はブライス殿じゃないの!?神の祝福を与えられた人間なんでしょ!?」
彼は首を横に振る。

「いいえブライス・ベネットは《祝とあ》の主人公ではありません。

というか随分中途半端に知識があるんですねぇ」

(何かしら?さっきからずっと漠然とした違和感が拭えない)
主人公が没落貴族の元令嬢だった事は驚いたがそれよりも気になる事がある気がしてならない。

「詳細は省きますが、王女様はその後ペレス王国の第一王子と結婚し幸せになるはずでした…ですが」
「ペレス王国…婚約破棄したっていういえそれは第二王子ですわね」
アンドレア王太子殿下に言われた事を思い出しながら答えると。


「そう!そんな事小説の中では起こってなかった!!そもそも何故主人公が現れない!!ましてや第二王子との結婚の話が出るなんてっ!」
唐突に声を荒げてカップをテーブルに叩き付けた。


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