悪役令息(冤罪)が婿に来た

３１．キャラクターではなく

「…私をどうするつもりですか」



今の話を聞くに彼は小説の内容通りではないといけないと考えておりその為には、
「簡単でしょう？君が邪魔なんだ」
私を始末しないといけない。



「あぁ安心してください、貴女を殺すつもりはありません。一応貴女もネームドキャラですからね万が一、イヴァ・クレマーが死んで何かあっても困ります」
ティーカップから手を離し椅子の背もたれに身を預けた。


（彼の言ってる事も小説通りにしたい思いも少しは分かる…けれど）


「ここは貴方の言う通り小説の世界なんでしょうけど


貴方を含め皆生きた人間なの」
殺される心配がない以上好きなように言わせてもらう。

「小説の世界の中に入った、だけのつもりかもしれないけれど今私達の現実は間違いなくこの世界よ」
「…そんな事分かって」
口を挟んできたが私は続けた。

「黙りなさい…貴方は全く分かっていないわ。この世界の人間を設定されたものキャラクターとしてしか見てないからそんな事が言えるのよ！」
「そんな事はない！！」
私の言葉に苛ついたのか怒声を浴びせてきたがその程度が怖がるような人間じゃない。

「そんな事はない？ならどうしてアシュリン王女殿下や国王陛下の言動がおかしくなるような事をしたの？」
私を見る目がだんだん鋭さが含まれてきて違和感の正体に勘づき始める。

「恐らくだけど貴方は小説通りにしようと無理矢理小説で起きた事を起こそうとした結果、余計に小説とは違う展開になってしまったんじゃないかしら？」
「……やはり頭が良いなイヴァ・クレマーそこまでバレているとは」
口調が少しずつブレているのが分かった。


「…貴方、やっぱり」


ガンッ（っ！？）

突然隣から大きい音がして驚く。
「何…？」「チッ起きるのが早いな。

ここで大人しくしていろ」
彼は私の目の前から姿を消し恐らく隣に行ったのだろう。
（隣に誰かいるのね…どうやってここから逃げれば良いのかしら）
私には神の祝福のような力はない、隣にいる誰かの事も気になるが今はここから出る方法を考えなくては。


檻は頑丈そうで私が力任せに開けようとしても無駄そうだ。
扉についている鍵穴は無防備のように見えるが私にピッキングする技術なんてない為どうしようもない。

（…助けを待つしかない、のかしら）

自分の無力さに泣きたくなりながらも涙を流すまいと耐える。


殺される事はないにしてもここから出してもらえる可能性はほぼないと言って言いだろう。


「ヒューゴ、様」
貴方に会いたくてたまらない、彼は今どうしているのか、きっと心配してくれてるはずだ。


ガンッ「っ！」
また隣から大きい音がしてつい視線を壁に向ける。

（あら？さっき大きい音がしたのは逆隣じゃなかったかしら？）


ドッ「なっ何！？」
明らかにさっきまでの音とは違い少し建物が揺れた気がした。

（どうなってるの？もしかして助けが…いやそうとは限らないわなるべく端に）


辛うじて檻の中にあったボロボロなクローゼットの影に隠れる。
この檻の中はもしかしたら最近まで使われていたのかもしれない、暗くて分からなかったが案外部屋自体葉綺麗でシンプルなベッドはちゃんと使えそうな物だし傍らにあった木製の椅子も目に見える場所は傷んでいなさそうなのに今隠れているクローゼットだけが明らかに使い物にならない代物だ。


（いや、今はそんな事考えてる場合じゃないわねなるべく息を潜めて…）




「イヴァ！！どこだ！？」




聞き覚えのある声に身構えていた私の体は一気に力が入らなくなる。


「ヒューゴ様…」
か細い声しか出ない、こんな声では彼に聞こえない。

「ここ、にいます」
緊張の糸が切れてその場に崩れ落ちてしまい力が入らない足を引き摺りながら扉の近くまで這って移動した。


息を大きく吸い込んで叫ぶ。
「私はここです！！ヒューゴ様！」


取り敢えず全力で声を張り上げられた。
彼に届いただろうか。