悪役令息(冤罪)が婿に来た

花車莉咲

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40.前世の事…三たび

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覚えのあるふわふわした感覚。
少しずつ、少しずつ深い所へ落ちていくような感覚。

(もしかして…また見るのかしら)
今更前世の記憶を思い出した所で何の意味があるというのか。
一連の事件を引き起こした人間は捕まった。

(いえ待って…確か前の夢の最後は)
ネームドキャラが死ぬと言っていたはず、誰が死ぬのかもその死因も分からないがせめてその部分を知る事ができれば。


『一応これで物語上のラスボス倒したかな…まさかアイザックが立ちはだかってくるとは予想しなかったよね』
(えっ…ガンダー公爵がラスボス?)
考えてみれば彼の肩書きはラスボスと言われてもおかしくない物であったしガンダー公爵になった人の言動を思い返してみると自分が絶対勝てるという謎の自信があったように思える。

(そうか小説の中ではヒューゴ様は私と婚約してからガンダー公爵と会う事はなかったのかも、そもそも戦っていない2人だから負ける可能性なんて考えてなかったとしたら…もしかしてとんでもない奇跡の状態を作り出してた?)

話を内容を察するにガンダー公爵を倒したのは小説内の主人公。
つまりミラであるという事。

(それを知っていたのならヒューゴ様に倒されるなんて思わないでしょうね…本当に小説の事しか考えてなかったんだわ)


前世の私は突然笑顔になる。
『これで漸くミラとオーウェンは何の障害も無く愛し合える訳だ!!』


(ミラとオーウェン様が!?愛し合える!?つまり主人公カップルってその2人って事!?)
驚きでパニックになる。

確か小説内ではミラの家、コールマン男爵家は何らかの理由で没落していたし神の祝福を与えられた者とはいえ身分的には平民のミラがガンダー公爵家の次男であるオーウェン様と結婚するとなると前見た夢で言っていたように障害が多いはずだ。

(と、取り敢えず落ち着いて私…夢はまだ続いてるわ)
深呼吸を何とか落ち着きを取り戻し改めて目の前の"私"を見つめる。


"私"は小説を読み終えて友人を感想をメッセージで送ろうとしているようだ。

『これでハッピーエンドなんだろうけど…やっぱショックだなあの人が死んじゃったの。そもそも死なせる必要あったのか?』
どうやら死んでしまったキャラが好きだったのか嘆いでいる。

『しかも死なせ方がさぁ…雑というか何というか悪い噂のある婚約者が原因でもないっていうね』
(…えっ)
悪い噂のある婚約者、あの小説内でそう名言されているのは1人。


(わ、たし…?じゃあ死んでしまうネームドキャラって…

ヒューゴ、様)

全身の血の気が引いた。

『いや~あんまり過ぎるって本当、ヒューゴ踏んだり蹴ったりじゃん…救いはないんですか!?』

今度は頭を抱える。
前世の私はかなりオーバーリアクションというか何と言えばいいか、これが所謂オタクの反応なのかもしれない、なんて現実逃避のように考えている間にも"私"は嘆き続けた。

『死因が刺されて失血死だもんな。しかも馬車に山賊が襲いかかってきてっていう…誰に仕組まれた訳でもない偶然、山賊に狙われただけだったなんて』
(刺されて、失血死…山賊が?)
何としても情報を得ようとその嘆きに耳を傾ける。


『何が辛いかってさぁ、ファンブックの裏設定で明かされる残された婚約者のその後が辛いのなんの…』
("イヴァ・クレマー"のその後?)
涙を拭うような動作をしてメッセージを送り終えたのか別のアプリを起動した。


『「私達の間に愛なんてなかったけれど、それでも貴方がいなくなったらこんなに胸が痛いのね」それはもう愛なんよ!
「貴方がどういうつもりだったのかはもう分からないわね。どうしてアメジストのネックレスなんて持っていたのかしら」
いや絶対イヴァに渡すつもりだったって』

(…小説の中のイヴァ・クレマーとヒューゴ様は少なくとも冷めた関係だった訳じゃなかったのね)
少し安心する。
愛し合っていたかどうかは分からなくても悪い関係ではなかったのだ。


『よしっこうなったら私がヒューゴを!いやこの2人の2次創作を書くぞ!!

"私が2人を幸せにする"っ!』
(っ!)

その言葉が脳を揺らす。
はっきりと言った覚えがあったからだ。

(そう…そうだったのね私、前世からヒューゴ様の事好きだったんだわ)
薄ら前世の記憶を取り戻した時から心のどこかでずっと思っていた事がある。


のイヴァ・クレマーはどうしたのだろうかと、前世の記憶が彼女を消してしまったのではないかと考えた事もあった。

でもそれは違っていてイヴァ彼女は間違いなく
イヴァ・クレマーに前世の記憶が混ざり1人の人間になったんだとそう、思わせてほしい。


(私がやるべき事は1つ…


ヒューゴ様を死なせない事よ)

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