バージン・クイーン -強面のイケメンのところに、性欲解消目的で呼ばれるデリヘル嬢の話-

福守りん

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11.スイート・キング5

5-7

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 沢野さんが帰って、ひと息ついた時には、十一時半になっていた。
「ごめん」
 礼慈さんから、謝られてしまった。
「ううん。扇子を買ったの、わたし、ぜんぜん気づかなかった」
「あれは、二日に買ったんだよ。奥の方に、工芸品のコーナーがあって。
 見てない?」
「見てないです……。見たかったー」
「ごめん」
「いいですけど……」
 ふーっと、息を吐いた。おなかが痛いなと思った。
 たくさんしゃべったから、のども痛い。
「疲れた?」
「うん。なんか、おなかが痛くなってきました」
「えっ」
「はじまっちゃいそう……。歯みがきして、寝ます」
「ごめん」
「礼慈さんのせいじゃないです。毎月、くるんだから」

 寝室を暗くして、先に寝ることにした。わたしのベッドで。
 しばらくしてから、礼慈さんが来た。
「大丈夫?」
 心配そうな声で聞かれた。
「うん。……だっこ、して」
「いいよ」
 わたしのベッドに、礼慈さんが上がってきた。
「こっちでいいの?」
「うん」
「前から?」
「後ろから、がいい」
「分かった」

 横になったままで、背中から、だっこしてもらった。あったかくて、安心した。
「おなか、手でさわって」
「……うん」
「もっと、下です。このへん」
 痛くなってきたところに、礼慈さんの手を置いてもらった。
「あったかい……」
 礼慈さんの息が、わたしの頭にかかる。
「ねちゃいそう」
「寝ていいよ。おやすみ」
「うん……」
「明日は、どんなふうに過ごしたい?」
「えぇー? だらだらします。れいじさんは?」
「俺も、そうする」
「いいの?」
「うん。あ、そうだ」
「なあに?」
「防犯ブザーを買おうと思ってる。通販で探すから。君が選んで」
「うん……。わたしも、持つけど。礼慈さんも、持ってください」
「俺が持つの?」
「だって。いつ、なにがあるか、わからないじゃないですか。
 あと、笛も買いましょう」
「笛?」
「災害に遭った時に、笛があると、居場所がわかるんです」
「ああ……。いいけど。
 だったら、非常用の水とか、食料も買おうか」
「いいと思います。明日は、それを探しましょう。通販で」
「ごめん。眠れなくなった?」
「うん。そうかも」
「まだ、触ってた方がいい?」
「ううん。どうして?」
「祐奈の顔が見たい」
「じゃあ、礼慈さんのベッドに移動してください」
「うん」
 腕がほどけた。礼慈さんが、わたしのベッドから下りる。
 背中が、すうすうした。
 礼慈さんのベッドに寝そべって、わたしを見てくる。
「目が、腫れてるな」
「しょうがないです。泣いたから。
 礼慈さんも、ですよ」
「だろうな」
「悲しかったけど、少し、ほっとしました。
 歌穂には、ずっと、言えなかったから。わたし以外の誰かに、あの話を聞いてもらいたかったの」
「そうか……」
「人間って、こわいですよね」
「なに。急に」
「歌穂の、お母さんのことです。もしかしたら、心の病気とか、だったのかもしれないけど……。
 どうして、あんなひどいことができたんでしょう。でもね、もしかしたら……」
「うん?」
「歌穂のお母さんも、そういう、ひどいことをされながら、育った人なのかもしれません。
 わたしは、すごく、大事にしてもらった記憶があるんです。お父さんと、お母さんから。だからね……」
 わたしは、家族がほしい。いつか、赤ちゃんを生んで、その子と……その子たちと、幸せに暮らしていきたい。
 素直に、言えばいいのかもしれない。でも、言えなかった。
 礼慈さんが、わたしをじっと見ている。
 笑いかけてみた。
 言葉は、人を縛ってしまう。わたしが願うことが、礼慈さんの心を縛ったりするのは、いやだなと思った。
「言って。続きは?」
「ううん。ねえ、キスしませんか」
 礼慈さんは、びっくりしたような顔をした。ちょっと考えるような間があってから、「やめておく」と言われた。
「紘一が来る前に、しただろ。君は、すごくかわいかった。
 キスしたら、止まれなくなる……」
「そう……?」
「うん。だから、しない。
 だるかったのに、俺につき合ってくれて、ありがとう」
「そんなこと……。まだ、したいの?」
「誘ってる?」
「わかんない……」
「お腹は?」
「だいじょうぶ……みたい」
「いいの?」
 礼慈さんの顔から、目が離せなかった。きれい……。
「う、うん。いい」
 ゆっくり手がのびてきて、肩にふれられた。
「つらかったら、言って。途中でも」
「うん……」

 やさしく、してくれた。
 わたしは、すごく、ぬれてた。
 深く、奥まで愛されてる時に、「きゃあ、あん」って、叫ぶみたいにあえいでしまった。きもちよくって……。
 とろとろに、溶かされたような気分だった。

「大丈夫?」
「うん。二回も、しちゃった」
「そうだな」
「歌穂に、悪いような気がします」
「……なんで?」
「だって。歌穂も沢野さんも、がまんしてるのに……」
「我慢する必要、あるのかな」
「えっ?」
「いけないことだとは、俺は思わないけど。二人が惹かれ合ってるのは、よく分かってるし……。
 歌穂さんが嫌じゃないなら、あとは、紘一自身の問題だっていう気がする」
「でも、泣いちゃったって。歌穂が」
「君だって、泣きそうに見える時があるよ。初めてした時だって」
「ああ……。そうでしたね。
 泣きそうでした。泣いてたかも」
「かわいかった。今も、かわいいけど」
「ありがとうー。
 わたしのことを、ぜんぶ知ってるのは、礼慈さんだけなんですよね」
「うん」
「すごい……。うれしいです」
「あんまり、かわいいことばっかり言うの、やめて」
「なんで、ですか」
「正気を失いそうになる」
「だめです」
「分かってる。もう、寝よう」
「うん……。おやすみなさい」
「おやすみ」
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