淫神の孕み贄

沖田弥子

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神の子 3

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驚くセナに、ラシードは平静に向き合った。

「受胎の儀は神の子を孕むための儀式だ。それこそが淫神の儀式を行う真の目的であり、贄としての責務でもある」

儀式により宿すため神の子という名称だが、ラシードとハリルの双方に抱かれれば、どちらかの子を孕むことになる。
ラシードは長い睫毛を伏せた。彼の怜悧な面差しに影が落ちる。

「そしてそなたの産んだ子が、次代の王となるのだ」
「えっ!? そうなのですか?」
「その血脈は初代国王よりトルキア王家に受け継がれてきた。イルハーム神の加護を受けた神の子が王となり、国を守るのだ」

王は神の末裔であるという話は、あくまでも伝説なのだと思っていた。神託を受けた王を崇めよという意味なのだと。
まさか淫紋を宿したオメガが次代の王を産んでいたなんて。
それが神の贄としての、本当の役目だったのだ。
衝撃的な真実を知り、驚きと共に緊張が走る。
次の王を産むとなると、国家の行く末をこの身に負わねばならない。セナの責任は重大だ。

「僕に……産めるでしょうか。神の子を」
「産んでもらわなければ困る。神の贄が懐妊するか否かは、トルキアの将来を左右する重大事項だ」

険しい顔つきで諭すラシードの言葉に、背筋が震える。つい先日まで奴隷の身分だったのに、国の未来を担う立場になったなんて、とても実感が持てない。ハリルは場に漲る緊張など全く意に介さず、肘掛けに頰杖を付いた。

「そんなに重圧をかけるなよ。できるものもできなくなるだろ」
「……貴様は気楽だな。王家は今度こそ、神の子を授からなければならないのだ。決して先代のような悪夢を繰り返してはならない」

今度こそ、とはどういう意味だろう。先代の儀式のときに何かあったのだろうか。
ラシードの父である先代の王は病気で既に亡くなられている。セナはもちろんお姿を拝見したことはないが、葬儀のときには国中の人々が黒衣を纏い、イルハーム神に弔いの祈りを捧げていた。
ハリルは物言いたげに口を開きかけたが、結局双眸を眇めるだけに留めていた。詳しく聞きたいが、ラシードの気迫に満ちた中に物憂げな影を見出したセナは詳細を訊ねることを控えた。   
神の贄としての責務は明白なのだ。ラシードの憂いを払うため、セナにできることは神の子を授かることしかない。

「僕、がんばります。神の子を授かるように、懸命に儀式を務めさせていただきます」

怖じ気づきそうになる心を奮い立たせて、ふたりに告げる。ラシードとハリルは互いに目を合わせたが、すぐに視線を外してセナを見た。

「期待しているぞ。そなたなら大丈夫だ」
「やる気があるなら結構だ。安心して俺たちに抱かれろ」

ふたりに抱かれて、神の子を孕む。
新たな儀式の到来は今宵から始まる。
セナは笑顔を繕っていたが、心は不安でいっぱいだった。
けれど神の贄としての責務を果たさなければならない。
すべては国のため、そしてイルハーム神のためなのだから。



暦のうえでは新月。
夜の帳に星の煌めく頃、禊を終えたセナは石造りの水場から上がる。漆黒の髪から滴る雫は冷たく輝き、星明かりに照らされた白い肌は神獣のような清廉さを漂わせる。
奉納の儀のときは神官が唱える祈りが木霊していたが、今は数名の召使いしかいない。静謐な空気の中、ひたりと大理石を踏みしめたセナの濡れた体が丁寧に布で拭かれる。それが終わると、召使いは輝く黄金の鎖を厳かに捧げてきた。
黄金で造られた細い鎖は幾重にも連なり、広げるとまるで蜘蛛の巣のごとく複雑な環になる。中央に佇むセナの細身の体に、黄金の鎖は巻きつけられていった。
首元、腕、腰や足首にも。それはイルハーム神の加護をもたらすための神具だが、贄を縛りつけるための拘束具にも見える。
決して重くはない。けれどこの神具は、神の御手にも及ぶ重い価値を持つ。
セナは固唾を呑んで神具の装着を受け入れた。
召使いがふたつの小さな金具を、慇懃にセナの胸元に近づけていく。

「……んっ」

ぴくりと肩が跳ねる。
淡い色をした乳首を挟むように、黄金の金具が嵌められた。
金具は三日月型の形状になっており、乳首を挟むようにできている。贄がより快楽を得るために造られているのだ。それを両方の乳首に嵌められれば、きゅうと絞られて嫌でも快感を引き出されてしまう。
続いて、花芯の根元にリングが嵌められる。その環はまだ余裕があったけれど、きっと花芯がきつく勃ち上がれば締めつけられることになるだろう。
さらに最後となる黄金の金具が捧げられた。
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